死後のせかい

寛凪連

第1話

 少しの声と鈍い音の後、俺は地面に倒れた。意識が薄々しているなか、微かに笑い声が聞こえてきていた。俺は今自分の身に起きた状況を理解することなく、意識を失った。


 なんだろう、この音は。どこか安心するようなこの音。聞きなれた音。いや、違う。これは初めて聞く音だ。しかし、なぜだろうか、初めてというのどこか懐かしいような、安心するような気持ちを抱いている。


 「お?意識が戻ったかな?」


 俺はその声に答えるかのように目を開いた。俺の目には2つの柱のような物が見えていた。好奇心1つで俺はそれを触ろうとした。目の前にそんなものがあったら誰でもそうするだろう。


 「キャ」


 女性の高い声で出されたその悲鳴に俺は完全に理解した。俺が今触れているのは女性の足、つまりこのままこの足に沿って見上げていけば見える。そうパンツが。俺だって男だ。気になるんだ。どうせこの後何かしら受けるなら今を楽しもうじゃないか。そう心に言い聞かせて俺は恐る恐る上に視線を動かしていった。


 「何してるんだよ!」


 ゴンと音をたてた後俺は再び深い眠りにいざなわれた。


 「なんだ、こいつは。人が心配してやっているのに、人のパ、パ、パンツを見ようとするなんて」


 そう言って、男の顔の前に立つ少女はそわそわした様子で呟いていた。


 「ところで、この男大丈夫なのかな?とっさにかかと落としを頭にお見舞いしたけど。でも仕方ないよね。見ようとしたんだし」


 最初は心配していた少女も最終的には男のした行いをふまえてそう思った。



 ハッと俺が目覚めたときにはすでに目の前にはあの足はなかった。いったいあれはなんだったんだろうかと言う疑問を抱きながらも、まだ残る頭痛を感じならが俺は体を起こした。


 「お!やっと起きた」


 「誰?」


 立ち上がった俺の目線の先にショートカットの美少女が読んでいた本を下に動かし、こちらを見ていった。


 「言っとくけど、あなたが悪いんだからね?人のパンツを見ようだなんて。まだ足を触られたぐらいなら顔面蹴るぐらいで許してあげたけど」


 「いや……そ、そうですね」


 少し、否定をしようとした俺だったが良く考えてみると少女のとった行動は得策だったかもしれない。誰かもわかっていない男に見られるんだしな。ここは素直に反省しておこう。


 「それでなんだけど」


 「なに?」


 「ここはどこなんだって言う簡単な質問なんだけど……」


 「そうだねぇ」


 そう俺の質問に相づちをした少女は手を広げ時計回りに一周したかと思えば、俺の方に少し近づき一言言った。


 「死後のせ・か・いかな?」


 「死後のせ・か・い?は?」


 「みんなそんな風な反応を最初にするんだよね。事実だからこの現実を受け止めてね!」


 「受け止めてね!ってそう可愛く言われても、無理なものは無理なわけだし」


 少女は俺の納得しない様子を見て加える形で1つ質問をしてきた。


 「あなたに問います。あなたがここに来る前の記憶はありますか?その記憶から今の現実を受け入れられますか?」


 「はは、なに言ってるんだよ。ここに来る前の記憶?そんなのあるに決まってるじゃないか……」  


 俺は思い出したその真実に口が思うように動かなくなった。


 「思い出しましたか。これで私の言ったことが嘘じゃないってわかりますよね?」


 そうだ。少女の言っていることに嘘はない。事実だ。俺はそうあの時確かに強い衝撃と共に意識を失ったんだ。



 あれはそう、俺が初めて告白をしたその返事を聞きに行ったときだ。彼女は学校内でも順をつけると上位に立つ女子であった。最近、わりと話すようになって前から気になっていた彼女に勇気を出して告白をしたんだった。だけれども、彼女はすぐには返事をくれず後日返事をするからと言ってその日は別れた。2日後、俺は彼女に指定された森にやってきていた。今思えばこの時点でおかしいと感じるべきであった。告白の返事だけで人気ひとけのない森に場所を指定されるなんて。付き合えるかもしれないと言う気持ちの方が大きかったのだ。彼女に教えられた場所についたときにはすでに彼女がそこに立っていた。俺は彼女に軽く挨拶をして、先日の返事をソワソワしながら待っていた。その時だ。強い衝撃の後に俺は地面に倒れたのは。よくよく思い出してみるとその時に男の笑い声が聞こえていたような気がした。それに加えて何か聞こえたような気がしたがそれについては思い出せなかった。 


 「大丈夫?」

 

 少女の一言に俺は動かなかった口が自然と動き一言「俺は殺されたのか?」。


 「残念ながら、あなたが告白した返事を聞きに言ったあの日あの場所にいたのは彼女だけではなかった。彼女の彼氏もいたんだよ。ただ、わかってほしいことがある。彼女は悪くない。彼女もきづいていなかった」


 彼女も気づいていなかった?どうしてだ。告白してきた俺を恨んだってことなのか?わからない。


 「彼女は相談したんだよ。自分の彼氏に。告白されたって。でも、それが彼女の彼氏の逆鱗に触れた。自分のものの彼女がとられると思ったんだろうね。彼は君の殺害を計画したんだろう。後始末のことも考えて彼女に返事をするならって森を提案した。それ以上は言わなくてもわかるだろう」


 それ、だけの理由で、俺は一生を終えたのか。そう考えると自然と涙が流れた。


 「さて、悲しむ気持ちもわかるけど、僕は君に良い提案がある。人生をやり直さないか?」


 「やり直す?」


 「そう、やり直す。君が僕のところにやってきたと言うことはその資格が君にあると言うことだ。大丈夫だ。もちろん世界は候補の中から君が自由に選択できる。ただし1つだけ決まっていることは記憶を消し、新生児からやり直すことだ」


 「資格?選択?」   


 全く理解ができない。この少女は何を言っているのだろうか。


 「理解が出来ていないようだけど、説明は続けさせてもらうよ。ここはまぁ、天界近いものだと考えてくれ。ここでは次の人生が選択できる。さっきも言った通り任意の世界に行くことが出来る。制限はない。もっと簡単にいえば、人生をもう一度やり直せるんだ」


 「やり直せる……」


 やりたいこともたくさんあった。叶えたい夢もあった。好きになった人だっていた。それを一瞬にして無きものにされた俺に合う世界などあるのだろうか。


 「もちろんすぐに選べとは言わない。じっくりと選んでくれ。重要な決断だから」


 「わかった」

 

 俺は少女の言葉の最後に一言答えてから少しばかり考えた。


 「考えがまとまった」


 「ん、そう。そしたら向こうにある扉が見えると思うんだけど、あそこの扉の取っ手を握って世界を想像して開くんだ。そうすれば君は新たな世界、君の選んだ新たな世界に君は転生するだろう」


 と、少女は遥かとおくに見える扉の方を指差しつつ言った。俺は軽く少女に礼を伝え、その扉へと向かった。


 「前世であんな思いをしたんだ、どんな世界に転生しようが誰も怒りはしないだろう」


そう一言呟いた最後、俺は取っ手に手をかけ新たな世界での一歩を歩みだした。

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死後のせかい 寛凪連 @kannagi-ren

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