第32話 信頼

 魔術の行使が出来ない人間とそうで無い人間の差は圧倒的だ、魔術が使えない人間が勝てる方法は詠唱前の近距離戦に持ち込み有利を勝ち取ることにある、元の世界であれば銃などを使うことによって比較的容易に対処できていた。しかし相手がルーン魔術の使い手であれば話は別だ。ましてや剣しか使えないこの者達の勝率は涅槃寂静程の勝率しか成り立たないうえ、魔術師は決して近接戦ができないわけではいない、体を鍛えている奴はざらにいる、しかし何故魔術師が運動しないとかそう言った不正解な先入観があるのかそれが分からない、確かに自分の研究をする為に運動が疎かになる事はあるが、魔術師だって人間だ、暇な奴はスポーツをする者も居る、それに存外、魔術で起きる問題は大抵、アグレッシブでなければ対処できない。その一つが今やってることだ。

 人によっては身体強化系の魔術などを使う者もいるわけで、その身体強化も運動出来ないと急に強化しては筋肉が動かなく、最悪骨折などを起こし場所によれば死に至る。俺が知ってる奴は身体強化を用意て、地層の壁を粉砕して見せた。このレベルまでいくと人外なのだがま、最後のは関係なかったがそれらの話を入れての勝率だ。



「前進!」



 部下の血気盛んな返事を背に受け、心を強く持つ。



「敵の包囲網を破り、旋回しながら各個撃破し敵の全滅を確認後街へ帰還する」



 潜在的能力も持つ訳でもない。幼少期から英才教育を受けたわけでも無い、それでも苦楽を共にし過酷な訓練を乗り越え自分が選んだ精鋭だ、失うには惜しく悲しい。



 団長が拙劣な手を打っているのを知りながらも、騎士達は逃げずに向かう。諸刃の剣、此れはそれどころでは無い、振った瞬間には砕け散るだけのモノだ、それでも、付いてきた部下達。



「すまないな、こんなー」



 戦士達を巻き込んでしまった事に対する謝罪の言葉を言い散らそうとしたが次の言葉で遮られた。



「水臭いですよ団長」


「俺達は自分の意思で臨んできたんです。此処で逃げ出す奴がいたら俺達は其奴をぶん殴ってやりますよ。最後まで団長と闘います」



 ここに言葉は要らない。

 不必要、人であるのに、だっ、それはそれだけの信頼関係にある何よりの証拠。



「行くぞぉぉお我が軍に勝利をぉぉおお!」


「おおおおおおお!」



 拍車を入れ一気に駆け出す。軍馬は駆ける土を巻き上げ地面に蹄鉄の跡を付けながら。

 馬のお陰で敵との距離は瞬く間に縮まる、六十メートルを過ぎた辺りから、敵の遠距離攻撃が始まり、右後方の仲間に当たったのが見えた、顔がブレるのが見えた、着けていた兜は拉げ、隙間からは血が止めどなく流れ、一幕置いた後力無く馬から転げ落ちたのち馬は何処かへ走り去る。


 落ちていった遺体は仲間の進行の邪魔になるまいと、自ら外れ散った。見えない表情はきっと笑顔で此方を応援していた事だろう。

 次々と仲間は倒れ、手から零れ落ちる。


 敵は測っていたかのように高速移動で集結を開始し後方に凹型の陣形で構えて居る。

 わざと先頭にいる隊長、副隊長への攻撃を当てず周りの者から削っていく、弄んでいる嬲り殺しだった、毛ほども勝ち目は無くそれでも前へ前へ歩を進める、きっと逃げたいのだろうけれど自らがソレを許さない、例え生き残ることが出来なくとも、それはけじめ、祖国を守る為の捨て身の。



「っく……すまない……」



 仲間はもういない居るのは自分と途中参加の旅人、けれど距離はもう無い後ろを向けば仲間の死体と馬の死体が、一定間隔で無造作に転がり、三人ほど生きはあるが、そう長くは無いだろう、彼等を助ける方法はただ一つ敵を倒し応急処置を施す、これただ一つ。



 しかしソレすらも自分には出来そうに無い

 全ての敵魔道士がこちらに向けて詠唱を始めていた、例え初級だとしてもこれだけの数で攻撃を受ければ原型を留めずに即死。

 もう助からない。


 旅の人にも多大なる迷惑を掛けてしまった

 仲間も死なせてしまった、自慢の兵士達、これからこの国を守っていき、名を馳せる事を約束された才能ある戦士も居た。


 本当に終わりか?

 終わって良いのか?

 後悔するだろうな。

 まだ終われない。

 自分が騎士として負けるまでは、今は只馬に乗った人だ騎士では無い、ここでは死ねない例え何があっても!


 光る。


 敵の魔法は至近距離から発せられ、爆散する、周囲には爆発で抉れた地面から巻き上がった土がパラパラと落ちて草がひらひらと舞い、チリがもくもくと立ちこめた。

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