第133話 〈牙王連邦〉首都、レイセント(後編)
シールドア領主シルヴィアさんの紹介状と、Sランク冒険者を示すギルドカードを提出してからしばし。
僕たちは血相を変えて戻ってきた受付のおじさんに案内され、建物の奥にある応接室に通されていた。
「いやはや、まさかギルドカードも書状も本物とは……。しかしあなた方から発せられるこの気配、確かにタダ者ではなさそうだ」
僕たちの正面に座りながらそう漏らすのは、受付業務の責任者だという筋骨隆々の牛獣人男性だった。名前をコープスさんと言い、王城警護戦力の一角も務める実力者らしい。
その実力ゆえか書状とは関係なく僕たちの実力を見抜いて一目置いてくれたらしいコープスさんに、僕は早速本題を切り出そうとしたのだけど……それに先んじてコープスさんが申し訳なさそうに口を開く。
「しかしあのオリヴィア殿の紹介で来ていただいて恐縮だが……実はいま女王様は不在なのですよ」
「え。そうなんですか?」
「ええ。この城へ来る途中で聞いたかもしれませんが、今日明日は我が国の建国祭でしてね。昔からの習わしとして、王は山向こうにある旧王都の礼拝堂へ参拝しなければならないのですよ。なので女王はいま、連邦最強の戦士とともに城を空けておられるというわけです」
そうだったのか……。
〈牙王連邦〉の風習や習わしについてまでは情報を集めてなかったので、どうやらすれ違いみたいになってしまったらしい。
せっかくオリヴィアさんの書状で優先謁見ができそうだったのに、数日ほど時間が空いてしまいそうだった。
と、僕たちが肩すかしを食らい、シスタークレアが「お酒を我慢した意味!」と隠し持っていた酒を飲み始めていたところ、
「ただ、ともすれば女王様との謁見が数日延びて逆によかったかもしれませんぞ」
コープスさんが少しばかり茶目っ気のある笑みを浮かべながらそう言った。
「実は、我らが女王は頑固かつ気難しいと有名でしてな。これまでいくつもの縁談や国家間交渉を破談にし、一度断った話はいくら貢がれようが絶対に首を縦に振ることはないという逸話があるのです。あなた方がどういった用件で謁見するかは存じませんが、時間ができたならその間に可能な限り準備を整えて最初の交渉に全力を注ぐのがよいと思われます」
「……っ」
コープスさんの話に、僕は身の引き締まる思いだった。
オリヴィアさんも言っていたけど、〈牙王連邦〉の現女王は気難しいことで有名らしい。
教会の脅威に対して手を組もうという交渉も上手くいくかは未知数であり、降って湧いた数日はコープスさんの言う通り対策を練るのに使ったほうがよさそうだった。
まさか一国の女王様に〈主従契約〉なんてかますわけにはいかないしね……。
そんなことを考えつつ、僕たちは席を立つ。
「貴重なお話ありがとうございました。ではまた女王陛下の帰還後に伺いますので、そのときは改めてよろしくお願いします」
「もちろんです。ああそれと、女王様不在の代わりに……と言っては語弊がありますが」
と、コープスさんはどこか誇らしげに、
「此度の建国祭では王妹殿下が王都のパレードに参列なされます。盛大なパレードそのものはもちろん、王妹殿下の美しさも我が国の自慢のひとつ。今日この街にやって来られたのもなにかの縁でしょう。最近はなにかと物騒ですが……是非とも楽しんでいってください」
そんなことを言って、僕たちを見送ってくれるのだった。
*
その翌日。
建国祭2日目の今日、僕たちはコープスさんの勧めに従い、パレードが通過するという大通りにやってきていた。街の賑わいは昨日の比ではなく、もの凄い人出だ。
「わはははははは! 謁見が延期ならお酒も飲み放題ですわー!」
「クレア様……」
シスタークレアが昼間から聖職者とは思えない醜態をさらす。
その一方で、
「なんというか、不思議ですね……」
屋台のお肉を頬張りながら、
「本当に、パレードなんてやるんですね……。ギルドルムで事前に調べたところによると……〈牙王連邦〉の首都はいま、こんな風に祝祭を楽しんでいられるような情勢じゃ……ないはずですけど……」
「うん。確かに」
ソフィアさんの言葉に、僕は神妙に頷いていた。
実はいま、〈牙王連邦〉の首都レイセントとそれより北の地域ではとても物騒なことが起きているらしく、呑気に建国祭やら王族のパレードやらを楽しんでいられる状況じゃないのではというソフィアさんの指摘は至極まっとうなものだったのだ。
けれど。
「いまこの国が直面している厄介ごとの性質を思えば、むしろこういう重要な催しを自粛して王家が弱ってる、怯んでると思われるほうがずっとマズかったりするんだよ」
「……そうなんですか?」
「うん」
特に、良くも悪くも勇猛な戦士の気質が強い獣人国家ならなおさらだろう。
もちろん〈牙王連邦〉もバカじゃないから、催しの規模に伴って警備もしっかり敷かれている。見ればそこら中に厳重装備の国家騎士が立っていて、ちらほらと実力者の姿も見えた。空には風魔導師の警戒網も敷かれていて、ネズミ一匹悪さする隙は無い。
これなら下手に騒ぎを起こすことは難しいし、なにか起きてもすぐに鎮圧できるだろう。
「……あ、パレードの先頭が来たみたい」
と、〈周辺探知〉を使ってパレードを待っていたらしいアリシアがぽつりと呟いた。
その顔はいつものように無表情に近いけど、ワクワクしていると僕にはすぐわかる。
けれど場所が悪いらしく、周囲の人垣でパレードがよく見えないみたいだった。
背伸びしているアリシアは微笑ましいけど、このままじゃ可愛そうだ。
(う、うーん、ちょっと恥ずかしいけど……)
そこで僕はズボンの隙間から硬化させた男根を尻尾のように地面へ伸ばす。
ザクッ。
しっかりと地面に刺さった男根をさらに伸ばし、僕はその3本目の足で高さを確保。
「アリシア、ソフィアさん。手を貸して」
「……うん」
「……わぁ」
と、嬉しそうに声を漏らす2人を担いで人垣から顔を出すと、パレードがよく見えた。
「うわ、すごい」
コープスさんの言う通り、帝都の催しをも上回る盛大なパレードだ。
そしてその先頭には――
「あれが王妹殿下……」
民衆に向かってにこやかに手を振っていたのは、白い肌が特徴的な美少女だった。
実は今日パレードの見学に来たのは女王陛下との交渉で話のきっかけになるんじゃないかという打算も少なからずあったのだけど……そんな考えも思わず消えてしまう。
それほどに美しい、恐らくは象獣人だろうお姫様の姿に思わず見惚れていた――そのときだった。
ドゴオオオオオオオオオオオオン!
街中に突如、凄まじい地鳴りが鳴り響いたのは。
「――っ!?」
周囲の人々が動きを止めるなか、僕たちは即座に剣を取る。
けれどそうして周囲に目を走らせた僕たちは次の瞬間、そのあり得ない光景に言葉を失っていた。なぜなら――
「「「グルアアアアアアアアアアアアアア!!」」」
街中に突如、数十体を超える巨大なドラゴンが出現していたからだ。
「は……!?」
あり得ない! 一体どこから!? と思考が驚愕に染まるなか。
「うわあああああっ!? 〈強王派〉のテロだあああああああ!?」
恐怖に満ちた民衆の悲鳴と怒号が周囲を埋め尽くし、〈牙王連邦〉を蝕む脅威の名を響かせた。
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今回下ネタがなかったな……と読み返したときに思ってたらエリオ君がナチュラルに頭おかしかったです。
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