第106話 シスタークレアの正体

「いやー、賭場で赤の5番に賭ければ良いことがあるかもなー、とは思ってましたが、路銀ではなくエリオール様たちに巡り会えるとは! 当たり前のように女帝旅団の拠点にいるということは、もしやダンジョン都市を味方につけるほど成長なさったので!?」

「あっ!? おい待てこいつ!?」


 女帝旅団の女性構成員を振り切ってこちらに駆け寄ってきた絶世の美女に、僕は目を丸くしていた。


 教会の影響がほぼ0であるダンジョン都市で目立たないようにか、それとも賭場で身ぐるみを剥がされたのか、以前見たシスター服は着ていない。


 けど肩口で切りそろえられた美しい金髪に、絶世の美少女と言って過言ではない美貌は間違いなく以前出会った謎のシスターだった。

 女帝旅団の女性構成員に引っ立てられながら手には酒瓶が握られているし、間違いない。


 けどどうして彼女がいきなりこんなとこに、と目を白黒させていると、


「本当によかったですわ! そろそろあなたに会いたいと思ってたんですが、ダンジョン都市はだだっ広いは人は多いわで、さすがに今回は都合良く会えないと思っていましたので! それもこれもわたくしの人徳が……って、え? おわあああああああああああ!?」

「っ!? ちょっ、クレアさん!? どうしたんですかいきなり!?」

 

 満面の笑みで駆け寄ってきたかと思えば、いきなりモンスターの断末魔みたいな悲鳴をあげて尻餅をついたシスタークレアに面食らう。

 するとシスタークレアは顔面蒼白で、


「な、ななな、なんでここにキチ〇イ聖騎士がいますのおおおおおおおお!?」

「え」


 おしっこ漏らしそうな勢いで叫ぶシスタークレアが指さしていたのは、僕の後ろ。

〈主従契約〉があるとはいえ味方のいる空間に放置しておくのは少し怖いからと連れてきていたコッコロ・アナルスキーだった。


(キ〇ガイ聖騎士って……シスタークレアは十三聖剣の暗部を知ってるのか?)


 教会が腐ってるとは前に言ってたけど、一介のシスターであるはずのクレアさんがどうしてそこまでの情報を、と不思議に思っていたところ――、


「……っ!? あぁ!?」


 悲鳴をあげるシスタークレアを見たコッコロが、幻の動物でも発見したかのように目を見開いた。そして驚愕に声さえ震わせながら、とんでもないことを口にする。


「あんたまさか……行方をくらませてる〈宣託の巫女〉……!?」

「「え……?」」


 一瞬、コッコロがなにを言っているのかわからず僕とアリシアがぽかんと声を漏らす。

 なぜなら〈宣託の巫女〉といえば、ロマリア教の最高指導者を指す役職。

 下手な王族よりも強い発言権を持つ尊い身分だったからだ。

 

 い、一体どういうことだ!? と大混乱に陥りシスタークレアに話を聞こうとしたのだけど、

 

「いやああああっ!? 一発で正体がバレましたわー!? こりゃ本物のイカれ聖騎士コッコロで間違いありませんわー! シルビア―! わたくしの危険回避お告げ能力がここに来て外れやがりましたわ早く助けて殺されるー!」

「ちょっ、落ち着いてくださいクレアさん!? この頭のおかしい聖騎士は僕が完全に無力化してますから落ち着いてちょっと話を聞かせてください! ってゆーか〈宣託の巫女〉ってどういうことですか!?」


 シスタークレアはコッコロの殺気に恐慌をきたして錯乱。

 しかもカオスはこれだけに留まらず、


「クレア様―! なにをまた勝手に私の前から消えているのですか! 賭場で聞き込みをしてようやくここに――って、お前は!?」

「え」


 女帝旅団の敷地を囲う塀を乗り越え現れたのは、シスタークレアの護衛を務めている女性騎士。毒蛇の血清を渡した縁で仲良くなった、生真面目な雰囲気を纏うシルビア・グールシャインさんだ。


 けどシルビアさんはなぜか僕を見るや顔を真っ赤にして目をつり上げ、


「お前は……将来的に私とクレア様を竿姉妹にするという貞操観念の欠片もない女の敵エリオール……!?」


 口にするのもおぞましいとばかりに小声でなにか呟きながら、シルビアさんがいきなり僕に剣を向けてきた。ええ!?


「なるほど借金のカタにクレア様が連れていかれたと聞いたが、つまり借金を口実にクレア様と私を手籠めにするという流れだな!?」

「ちょっ、待ってください! 色々おかしなことになってるんで落ち着いてください全員!」


 情報が錯綜し誤解と勘違いが炸裂しているに違いない空間の真ん中で、僕は全力で叫ぶのだった。


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 最近ちょっと長めの文章が続いてしまってたので今回は短めです。

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