第84話 旅団同盟
獅子王による女帝旅団襲撃が中断されてしばし。
なんだか色々とカオスなことになっていたため、僕たちは一度落ち着いて話をすべく、女帝旅団の応接室に集まっていた。
そこで出されたお茶やお茶菓子を幸せそうに頬張りながら、
「いやあ、勘違いさせてすまなかったなぁ少年! 実を言えば、本気で女帝旅団を攻め滅ぼす気はなかったんだ。同盟締結を模索していたところに女帝旅団が急にヘタれたという話を聞いてな。様子見がてら気合いを入れ直してやろうと思っていただけなんだ! 同盟の話はまだ提案段階で周囲には秘密だったから、抗争を仕掛けるふりをしてな! しかしそれにしても――」
と、獅子王は話の途中でなぜか椅子を降りて僕のほうへ駆け寄ってくる。
「そんな私の襲撃を止めた少年は本当に魅力的だったぞ? 人族の子供とは思えないあの戦闘力、この私に真っ直ぐ立ち向かう度胸。あの筋骨隆々のイケメン姿だけでなく、中身もこの私が愛を捧げるにふさわしい傑物だ。だから、な? 私とつがいになろう?」
「ちょっ、だからそれは無理ですって獅子王さん!」
しなだれかかりながら猫なで声で甘えてくる獅子王を必死に押し返した。
そのときだ。
ガギィン!
「っ!?」
突如、武器と武器がぶつかり合う衝撃波が応接間に響いた。
なにかと思えば――豹獣人のリザさんが振り下ろしたかぎ爪を、獅子王がサイズ可変の戦斧で受け止めていたのだ。
さらにはステイシーさんが両手に深淵魔法を発動させていて、リザさんと一緒に獅子王を睨み付ける。
「おい獅子王。てめぇどこまで好き勝手やるつもりだ? そいつから離れろ色ボケが……!」
「いい加減にしないと、私の魔法で塵一つ残さず消し飛ばすわよ……?」
女帝旅団のトップ2を中心に凄まじい魔力と殺気が吹き荒れる。
そんな2人に僕が「……っ!?」とおののく一方、獅子王はどこ吹く風。
「……ふーむ。なるほどなぁ。腑抜けたとは聞いていたが、この嫉妬丸出しの余裕のなさ。つまるところ男ができて丸くなっていたということか。街の冒険者どもに恐れられた女帝と狂犬が可愛いくなったものだな」
「……っ! なによその腹の立つニヤケ面は……! 本当に死にたいらしいわね……!?」
バチバチバチバチ!
僕を真ん中に挟み、女帝と獅子王が睨み合う。
その凄まじい魔力のぶつかり合いに、なぜだかいますぐ逃げ出したくなる。
ちなみに。
こんなに獅子王と敵対的なステイシーさんが
ただ、凶悪な顔をした中年男性が「私の正体は
とまあ、そんな裏事情はいいとして……。
僕はいまにも殺し合いが始まりそうな室内の空気を変えるため、話を本題に戻す。
「ええと、ところでその、女帝旅団と獅子王旅団が同盟を締結しようとしてたってのは、結局どういうことなんですか?」
いま目の前で展開される女帝と獅子王の殺気立ったやりとりを例に挙げるまでもなく。
このダンジョン都市に君臨する三大旅団は昔からバチバチの抗争を繰り返してきた関係だ。
ダンジョンを巡る利権、プライド、長年の確執……理由は様々だけど、その対立は現在でもがっつり続いている。
「それなのに同盟の話が出てたなんて……。しかも獅子王さんは同盟締結のために女帝旅団に気合いを入れ直そうとしてたって言いますし、どうしてそこまで」
「あー、まあ一言で言ってしまえばな」
僕の質問を受けて、獅子王と女帝が真面目な雰囲気を取り戻す。
そして少し言葉を選ぶような様子を見せたあと、獅子王ははっきりとこう告げた。
「このダンジョン都市の歴史の中で最もイカれた旅団――戦姫旅団を潰すために私たちは手を組もうとしてたんだ」
「……え?」
冗談でも何でもないその発言。
それを聞いた僕の脳裏をよぎるのは、以前ダンジョンで遭遇した天才冒険者、戦姫ソフィア・バーナードさんが幸せそうにご飯を食べる姿だった。
――――――――――――――――――――
なんだか最近カオスな情報飽和回が続いていたので、今回は少しあっさりめに。アレな展開へのタメ回です。
※戦姫ソフィアの初登場から間が空いてしまってすみません。
彼女が登場するのは71,72話なので、誰だっけ? となった方はそちらへどうぞ。(そろそろ登場人物&あらすじまとめを更新したいですね)
※できるだけテンポよくいきたいですが、主人公がアレな活躍をしはじめるのは、投下予定のあらすじまとめも含めて5話くらいあとかなと思います。
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