第36話 巣穴姦
戦いのあと。
軍隊型のアーマーアントを相手に快勝したことで、街は大賑わいになっていた。
犠牲者0。それに加えて高価な武器や防具の材料となるアーマーアントの素材が大量に手に入り、街全体が突然の臨時収入に湧いていたのだ。
しかしそうしたお祭り騒ぎの喧噪に街中が包まれる一方。
冒険者ギルドでは未だに緊迫した雰囲気が漂っていた。
なぜなら軍隊型のアーマーアントが出現したということは、それだけ巨大な巣が近くにあるということ。
しかも冒険者に悟らせることなく大量のエサを集めて勢力を拡大した集団が存在するということで、一刻も早く対処する必要があったのだ。
もたもたしていては、第2第3の軍隊型が出現しないとも限らない。
「幸い、アーマーアントの進軍はその軌跡を非常に辿りやすい。道中で獲物を食い荒らした形跡や足跡がはっきりと残るからだ。一刻も早く巣穴を発見し、再び勢力を増す前にこれを潰してほしい」
そうして軍隊型を返り討ちにした翌日。
巣穴の発見と攻略――ギルマスのゴードさんによって発令されたその緊急クエストに僕とアリシアも招集され、一も二もなく参加することにしたのだけど……1つだけ問題があった。
「あああああっ❤ 夢にまで見たエリオール君との共同任務……最高すぎます……!」
巣穴攻略隊のリーダーがレイニーさんだったのだ。
ゴードさんが申し訳なさそうに僕に耳打ちする。
「昨日の今日で招集したうえにこんなことになってすまない……しかし私は軍隊型発生について国に報告したり周辺地域に協力と警戒を促したりとやることが山積みでな……巣穴攻略の経験が豊富なベテランはいま、レイニーしかいないのだ。悪いが我慢してくれ」
それに、とゴードさんがさらに声を潜めて続ける。
「君が昨日見せた強さなら、無理矢理レイニーに手籠めにされることはないだろうという判断だ」
強くなりすぎるのも良いことばかりじゃないってことかな……。
そんなことを思いつつ、僕たちは攻略隊の一員としてアリの足跡を辿ることになった。
得体の知れない巣穴の危険性を考慮したのか、攻略隊は100人近い大所帯だ。
道中は予想通り大変だった。
「エリオール君❤ わからないことがあったらなんでも聞いてくださいね? あと野営時の寝床はリーダー権限で私と一緒にしておきましたから。なにも心配はいりませんよ❤」
「……エリオ……レイニーさんと仲良くするなら……私とはその倍、仲良くしてくれるよね……?」
馬車に揺られている間、レイニーさんとアリシアに両脇を固められ、ひたすら左右から甘い声音で囁かれる。逃げると騒ぎになるので、僕は顔を真っ赤にしてひたすら耐えた。
けどその恥ずかしい囁きは馬車が進むごとに少なくなっていった。
アリたちの足跡が、ダンジョン爆発のあったアルゴ村へ続く街道をひたすらまっすぐ辿っていたからだ。
「レイニーさん、これ……まさか巣穴のある場所って……」
「……ありえません。昨日の時点で撤収がほぼ完了していたとはいえ、ほんの2,3日前までダンジョン爆発対策で複数の冒険者が常に探索を行っていたエリアですよ……? アリの繁殖を見落とす可能性が最も低い場所のはず……この足跡はどこかで大きく街道を逸れるに違いありません」
僕の言葉を、レイニーさんがセクハラも交えず真剣な表情で否定する。
けどレイニーさんの予想に反し、アリの足跡を追っていた僕たちは真っ直ぐアルゴ村へ到着。
完全に冒険者の顔となったレイニーさんの指示に従い攻略隊のみんなで周辺を捜索したところ――その大穴はすぐに見つかった。
偏向した魔力によって光るダンジョンの壁とは違う。
アーマーアントが好んで植えるヒカリゴケの燐光によって照らされた、ヤツらの巣穴だ。
「……っ!? ダンジョン爆発の対策を行っていた現場にこんな巨大な巣穴が出現するなんて……出入り口を塞いでおけば存在を隠蔽することは可能とはいえ、軍隊型を輩出するほどの巣穴に成長するには莫大な量のエサが必要なはず。冒険者に気づかれずどうやって狩りを……もしや、いやしかし……」
愕然としたようにレイニーさんが声を漏らす。
僕のお尻を触ることもなく怜悧な瞳を細めてブツブツと漏らしていたが、やがて割り切ったように顔を上げた。
「……考えても仕方ありません。ここはひとまず巣穴の調査と攻略を優先。突入班は準備を。連絡班はギルドへ巣穴発見の連絡を。場合によっては援軍を呼ぶ必要があります」
レイニーさんの指示で周囲が慌ただしく動き出す。
連絡係の人が持っているのは希少な遠距離通信の水晶だ。
ギルドや国の施設にある大型と違い、持ち運びできる大きさのソレは使用回数が決まっているため、こうした重要クエストでしか使えなかったりする。
と、突入準備をはじめてしばらくしたとき。
「これは……困りましたね」
レイニーさんが声を漏らした。
どうしたのかと尋ねてみれば、「予想以上に巣穴が大きいんです」と真剣な表情で僕を見返してくる。
「アーマーアントの巣穴攻略の際、最も効率が良いのは巣の深部にいるクイーンを速攻で潰すことです。繁殖を封じつつ、巣を守る理由を失い混乱するアリたちを楽に殲滅できますから。なので連れてきた音魔術師の探知魔法で巣穴の構造とクイーンの居場所を探らせたのですが……これがかなり大きい。街でトップクラスの音魔術師たちが探りきれないほどに」
こうなると複雑極まりないアリの巣穴を手探りで進むことになり、非常に危険なのだという。ダンジョンと違ってアリたちが明確に連携してくるため、最短ルートを確保してから突入しないとかなり手こずるらしい。
「エリオール君がいれば強引に敵を殲滅することも可能でしょうが、異例尽くしの巣穴です。あまり不確かな策は採りたくない。兵糧攻めも蓄餌の状況によっては数週間単位の時間がかかってしまいますし」
「なるほど……」
レイニーさんの説明に僕は納得する。
それから少し考えたあと、レイニーさんに耳打ちした。
「それなら、ひとつ試してみたいことがあるんですけど」
「え、試す? もしかして私の身体をですか!?」
「違いますよ!?」
それまで真面目な顔をしていたレイニーさんが耳を押さえながら息を荒げはじめたので、僕は対抗して声を荒げる。これがなければ尊敬できる先輩冒険者なのに……。
「そうじゃなくて、僕の男根け――魔剣を使えば、巣穴の全貌がわかるかもしれないんです」
「え……?」
それは、以前のダンジョン攻略の際にはスキルLvの関係でまだできなかったこと。
僕はこっそり男根剣を抜き、攻略隊のリーダーであるレイニーさんとアリシアだけを連れ、巣穴の入り口に立つ。
「形状変化」と小さく呟き、男根剣を地面に突き立てた。
その瞬間。
ずあああああああああああああっ!
産毛よりも細くなった僕の男根が巣穴を突き進んでいった。
武器として使うときとは違い、感覚は繋がったまま。
身体の中で最も敏感なその部位は、巣穴の構造をこれでもかと詳細に伝えてくる。
分かれ道があればそれにあわせて分岐し、僕の男根が巣穴中に広がっていく。
その間、わずか数分。
行き止まり、寝床、餌の貯蔵庫、それらの位置を完全に把握する。
そして、
「……見つけた」
通常、クイーンがいるのは深部の最も広い部屋。卵部屋のすぐ近く。
レイニーさんに教えられた通りの場所に一際大きな個体の気配を感じ、僕は呟いた。
「最短ルートを見つけました。巣の全体像を地図に書き起こすので、音魔術師のみなさんが探知できた範囲と照らし合わせてみてください」
「え……? えぇ……?」
唖然とするレイニーさんに作成した地図を渡す。
やがてレイニーさんは愕然とした表情で戻ってきて、
「表層部と中層部は音魔術師の感知した構造と完全に一致しました。これならクイーンの居場所も間違いないでしょう。……軍隊型と戦っているときも思いましたが、その魔剣は一体、どこまでとんでもない性能なんですか……?」
よかった。成功だ。
性能だけは信じられないほど高い生き恥スキルにほっとしつつ、レイニーさんの疑問を笑って誤魔化す。全力で誤魔化す。
そうして突入の準備を完了した僕たちは、軍隊型を生み出したアーマーアントの巣穴を攻略すべく動き出した。
――――――――――――――――――――
第一部終了まであと数話。
それが終わり次第、序盤の読みやすい構成に戻していく予定です。
気持ち良い展開が続くはずと言っておいて、話数をまたいだ複雑なエピソードになっちゃてて反省ですね 汗
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます