第19話 ジェラシーエッチと壊滅の村

「きょ、今日は本当にごめんなさい……なにか困ったことがあったら力になるから、なんでも言ってね」


 会食の最中はなにもなかったかのような澄まし顔をしていたソーニャだったけど、内心では色々と気にしていたのだろう。

 帰り際、顔を真っ赤にしてそんなことを言ってくれた。

 

 事故とはいえアソコを触らせてしまったぶん、なにか埋め合わせをしないといけないのはどう考えても僕のほうなんだけど……。

 ソーニャとしては僕たちを招いたホストとして不始末を起こした責任をとらなきゃと思っているのだろう。

 ああもう。ただでさえソーニャ周りからはたくさんお返ししてもらっているのに、重ねて気を遣わせてしまうことになるなんて、本当に迂闊だった。


 そんなことを考えながらの帰り道。


「……エリオ」


 アリシアが僕の顔を覗き込み、急にこんなことを言い出した。


「……ソーニャの様子が変だし、彼女の手からずっと君のアソコの匂いがしてたんだけど、なにがあったの?」


 いまソーニャの手から僕のアソコの匂いがしたって言った?


 え、なにその感知能力。

〈神聖騎士〉の隠し能力?

 一瞬戸惑ったけど、多分〈神聖騎士〉関係ないなこれ……。

 

「いやちょっと事故っちゃって。ほら、服にお茶をこぼしちゃった騒ぎがあったでしょ? あのときにソーニャと一緒に転んじゃって――」


 別にやましいことも(いちおう)ないので、事の次第をアリシアに詳しく話す。

 先日はソーニャに嫉妬していたアリシアだけど、レイニーさんのときに余裕を見せていたように、今回も「……そっか。大変だったね」と冷静に話を聞いてくれた。


 と、思っていたのだけど。


「……エリオが火傷しなくてよかった。……うん、まあ、それはそれとして」


「え?」


 宿に着いた途端、アリシアが僕の手を掴んで壁に押しつけてきた!?


「……レイニーさんのときはそうでもなかったのに……なんか、今回は話を聞いてたら凄くムラムラしてきちゃった。……今日はたくさん……仲良くしようね……❤」


「ちょっ、アリシ――うむぐっ!?」


 変に嫉妬はしないけど、それはそれとして僕が他の女の子と一定以上仲良くすると性欲が上昇するらしい。

 僕は一晩かけて、アリシアのそんな一面を思い知らされるのだった。


 エリオ・スカーレット 14歳 ヒューマン 〈淫魔〉レベル78

 所持スキル

 絶倫Lv7

 主従契約(Lvなし)

 男根形状変化Lv6

 男根形質変化Lv6

 男根分離Lv3

 異性特効(Lvなし)

 男根再生Lv2

(前日の仲良しでレベルアップしたぶんも含む)




 その翌日。


 僕とアリシアはまた新しい依頼を受諾し、少し遠出をしていた。

 目的地は街から馬車で半日ほどの場所にある山沿いの村。

 どうも最近この村ではモンスターがよく出現するようになっていて、農作物を荒らしているらしい。村の戦士たちだけではそのうち手が回らなくなりそうだから、冒険者たちと共同で周辺を一斉駆除しておきたい、というのが依頼の内容だ。


 街の周辺地理把握、というには少し村が遠いけど、山間部の探索は冒険者として良い経験になる。それにたくさんのモンスターを相手取るのは肩慣らしにもちょうどいいと、僕たちは率先してこの依頼を受けたのだった。倒したモンスターの素材を売ればお金にもなるしね。


 ただ、この依頼を受けるには一つの問題があった。

 馬車に揺られながら、僕は隣に座っていたアリシアに声をかける。


「あの、アリシア? もう一回確認しておくけど、この依頼は多分村に何日か滞在することになるから。村には大きな宿もないだろうし、その間はエッチなことも我慢だからね?」


「……善処する」


「僕の目を見て言って! あと僕の太ももを触りながら言うのも説得力に欠けるよ!?」


 大丈夫かな……。

 アリシアってその、かなり激しいし声も大きいから、小さな宿では周囲に音が聞こえてしまう。アリシアのそういうアレは万が一にも他の人に聞かれたくないし、僕がしっかりアリシアの手綱を握るしかないみたいだ。

 

 アリシアに主従契約で言うことを聞かせる気なんてさらさらないけど、こういうときばかりはなんでエッチ禁止系の命令が通じないのかと主従契約スキルの偏った効果を呪いたくなる。


「うーん、やっぱり他の依頼にすべきだったかな」


 この依頼は複数の冒険者が受けていて、既にいくつかのパーティが先行して村に入っていると聞く。僕たちがいなくてもモンスターの駆除は可能だろう。


「けど、正当な理由無く依頼をキャンセルするなんて信頼に響くし、やっぱり僕がしっかりするしかないか……アリシアの誘惑を断るのはかなり大変だけど」


 村にもそろそろ到着しちゃうし、腹をくくるしかなさそうだ。

 などと考えていたときだった。


「おいあんた!? どうしたんだ、大丈夫かい!?」


 突如馬車が急停止し、御者さんの悲鳴じみた声が響いた。

 

 なにかあったのかと僕とアリシアはほろから飛び出す。

 すると村へと続く街道に傷だらけの少女が倒れていた。

 かなりの深手で、彼女が歩いてきたのだろう道には点々と血の跡が続いている。


「アリシア! 治癒スキルを!」


「……うん」


 慌てて少女を抱き起こして手持ちのポーションを飲ませながら、アリシアにスキルを頼む。まだ検証しきれていなかったアリシアの治癒スキルだったけど、その効果は思った以上に強力だった。女の子の傷がみるみるうちに塞がっていく。


「大丈夫!? この傷はどうしたの!?」


 ひとまず一命を取り留めた少女に呼びかける。

 だけど治癒スキルとポーションだけでは失った血を戻すことができず、傷だらけの少女の意識はいまだ朦朧としているようだった。


「む、村が……村のみんなが……」


 僕の声に、少女がかろうじて掠れた声を漏らす。


「みんな死んじゃう……誰か、助けて……」


 恐らくその一念が重傷の彼女をここまで突き動かしていたのだろう。

 その言葉を残して少女は気を失ってしまう。

 その直後。


「ガルアアアアアアアアアアアアッ!」


「っ!」


 少女の血の匂いでも追ってきたのか。

 街道の先から一匹のモンスターが飛び出してきた。

 青い身体に巨大な身体。参考レベル40の狼型モンスター、ブルーファングだ。

 街道沿いにほいほい出てきていいモンスターじゃない。


「しっ!」


「ガッ!?」


 腰に下げた剣を抜いて一閃。僕はそのモンスターを瞬殺する。

 けどそれで一安心……なんて言っていられる状況じゃなかった。

 この先の村でなにかまずいことが起きているのは疑いようもない。


「アリシア。その子と御者さんを安全なところまで送り届けて。僕は先に村に向かうけど、多分君の治癒スキルが必要になる。二人の安全を確保できたら、できるだけすぐ戻ってきてほしい」


「……わかった」


 アリシアが馬車から二頭の馬を解放し、気を失った少女とともにその背に乗る。

 御者さんももう一頭の馬に乗り、三人は街道を戻っていった。


「一体なにが起きてるんだ……!」


 極短距離なら馬にも引けを取らないくらい早くなった〈淫魔〉の脚力を全力で駆使し、僕は村へと走った。





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