第12話 装備新調の予想外

「あ、危なかった……」


 翌朝。

 というかまたしてもお昼に近い時間帯。

 目が覚めた僕は可愛らしい寝息を立てて眠るアリシアを見下ろし、ぶるりと体を震わせていた。


 それというのも、レベルアップした〈神聖騎士〉であるアリシアが、その、凄まじかったのだ。


 男根形状変化スキルが発現していて本当によかった。

 自由自在に変化するアソコでアリシアを的確に攻めて体力を削ることができなければ、僕はいまごろ干物になっていただろう。


 ……いや、正確には形状変化スキルだけの効果じゃない。


 実は昨日、僕はアリシアに押し倒される前から既にレベルが上がっていたようなのだ。

 バタバタしていて気づくのが遅れたけど、思い返せば護衛の人たちを運ぶときにやたらと足が軽かったし、アーマーアントたちを倒したことでレベルアップしていたらしい。


〈淫魔〉はどうやらエッチなことをしたときだけでなく、戦闘でも成長できるようだった。


 そうでなければ〈神聖騎士〉であるアリシアの体力=精力増加にギリギリで追いつけず、僕は絞り尽くされていたかもしれない。

 そんな可能性が頭をよぎるほど、昨日のアリシアは燃えさかる炎のように僕を求めてきたのだ。


 Lvアップした絶倫スキルにも食らいついてくる〈神聖騎士〉の成長性に、僕は改めて戦慄する。さすがは伝説級の〈ギフト〉。


 それにしても、モンスターとの戦闘でもレベルが上がるというのは嬉しい誤算だった。

 これならモンスターを倒してお金を稼ぎつつ、レベルをあげて主従契約解除用のスキルが発現する可能性も模索できる。

 一日中アリシアとエッチなことをしているわけにはいかない以上、昼の間に生活費を稼ぎながら強くなれるというのは重要なことだ。


 ……とはいえ、どうもレベル80のモンスターと真剣に戦うよりアリシアと一晩中気持ち良くしていたほうがレベルアップするみたいなんだけど(ステータスをチェックできなかったから正確なところはわからないけど、体感的にアーマーアントとの一戦で1,アリシアとの一晩で9ほどレベルがあがった感じがする)。


〈淫魔〉という〈ギフト〉はそうそう僕にまともな生活を送らせてくれる気はないらしい。


 と、まあそれはそれとして、今日は〈淫魔〉の卑猥な性質を嘆いてはいられない。


 スキル検証も(一応)一段落してこの街にも慣れてきた現状、優先してやっておきたいことがいくつかあるのだ。


「ほらアリシア、起きて」


「……エリオ、すき……すきぃ……❤」


「……っ」


 昨日の続きを思わせるようなアリシアの甘い寝言にドキドキしつつ、僕は心を魔族にしてアリシアを起こした。



 今日のうちにやっておきたいこと。

 そのひとつが武器の新調だ。


 アーマーアントたちの群れと戦ったことで僕はもちろん、アリシアの武器も少しだけガタがきてしまっている。

 武器は護身の要。多少懐が痛んでもすぐに新調しておきたかった。

「今日やりたいことその2」にも関係してくるしね。


 一応僕には男根剣があるけど、あれを普段使いにするのは抵抗があるし……。

 無闇に使って〈淫魔〉の変態スキルを周囲に知られる機会を増やす利点もないし、普通の剣を持っておくに超したことはないのだ。


 というわけで僕はアリシアと街へ繰り出した。

 最初は寝ぼけていたアリシアも「……エリオとデート」とご機嫌だ。

 よくよく思い返せば、僕もアリシアも帝都にいたころは気楽に外出もできなかったし、二人で街を散策するのは初めてだった。


 そうして僕らは武器屋を中心に色々なお店を覗いて楽しんでいたのだけど、しばらくしたところで少々問題に直面してしまった。


「んー、あんまり良い武器がおいてないね」


「……うん。私たちの目が肥えすぎてるというのもあるけど、それを差し引いても、あまり質が良くない」


 正確に言えば、僕やアリシアが元から持っていた剣よりも良いものはたくさんある。

 けどどれもそれなりに高額で、適正価格から考えると少しばかりお高いものばかりだったのだ。

 どうも剣の材料を遠くから仕入れいてる関係上、製品が割高になってしまっているらしい。


 困った僕たちは一度宿に戻り、受付の人に相談してみる。

 すると、


「あー、この街一番……いえこの地域一番の鍛冶師となると間違いなくウェイプスさんのとこですけど……」


 受付のお姉さんはそこで少し言いよどみ、


「気難しいと有名な方ですので、お好みの武器が手に入るかどうかは保証しかねますよ?」


 

 教えてもらったお店に行くと、そこは路地裏にぽつんとある廃墟と見紛うような建物だった。

 こ、こんなの教えてもらえわなきゃ絶対に気づかなかった……というか本当に武器屋なんだろうか。一応看板には「ウェイプス武具屋」とあるけれど……。


 疑いながら僕たちはお店に入る……と、その瞬間、僕らはここが件の武器屋だと確信した。

 

「……これ、凄い品質」


「値段も安すぎだよ!? これはもっととらなきゃダメでしょ!」


 僕もアリシアも武門貴族の出身だ。

 そこに陳列されている武器の価値が一目でわかり、目を輝かせる。

 と、そのときだった。


「あ~? ガキがあたしの店でなにやってんだ?」


 店の奥から、一人の女性が姿を現した。

 浅黒い肌に少し筋肉質な体。後ろで一本にまとめた黒い髪の美人。

 話に聞いていた通りの風貌をしたハーフドワーフの女性――ウェイプスさんは僕とアリシアをじろりと睨み付ける。


「……チッ。大方〈ギフト〉を授かったばっかではしゃいでるガキってとこか。オラ、さっさと帰りやがれ! たとえ王侯貴族に脅されようが、あたしは気に入った相手にしか武器は売らねーんだ!」


 言ってウェイプスさんは品物の剣を抜き、僕らを威嚇してくる。

 な、なるほど……だからこのお店は品質の割に全然儲かってる感じがしないのか……と、僕はその職人気質全開なウェイプスさんを見て納得する。


 しかし困った……せっかく素晴らしい武器の宝庫なのに、思っていた以上に門前払い感が凄い。

 気に入った相手にしか売らないと言いつつ、最初から試す気さえないみたいだし……。

 うーん、凄くもったいないけど、受付の人に教えてもらった第2,第3候補のお店にいったほうがいいのだろうか。


 と、僕がウェイプスさんに圧倒されていたときだった。


「……ん? お前らその身のこなしに髪の色……」


 ウェイプスさんがふと目を細めて僕とアリシアを見つめる。


「おいそこのガキ、名前は?」


「え? 僕ですか? ……ええと、エリオールといいますけど」


 ソーニャにも名乗った偽名を告げる。

 その途端、


「! やっぱりお前がそうか!」


 さっきまでいかめしい表情をしていたウェイプスさんが突如豹変。

 満面の笑みを浮かべて僕の肩を抱いてきた。ええ!?


 豊満な胸が当たって赤面しているとウェイプスさんは上機嫌に笑い、


「ソーニャのお嬢を助けたガキっつーのは、お前らのことだろ!? あたしの姪がお嬢の護衛をやっててな。あたしからも礼をしねーとって思ってたとこなんだよ!」


 聞けば、どうやらウェイプスさんはソーニャさんの身内みたいなものらしく、僕たちの存在を特別にこっそり教えてもらったとのことだった。

 面食らう僕たちにウェイプスさんは続けて、


「で? ここに来たっつーことは武器がいるんだよな? おうおう、好きなやつをもってけ! 金はいらねえからな!」


「いやいや! そういうわけにはいかないですよ!」


 ここの高品質な武器を譲ってもらえるのは滅茶苦茶嬉しいけど、いくらなんでもタダというわけにはいかない。そうでなくともここの武器は安すぎるというのに。

 あまりに両極端なウェイプスさんに戸惑いつつ、「あ、でも」と僕は続けた。


「お金はちゃんと払うので、一つお願いさせてもらっていいですか?」


「お? なんだ?」


「アリシ……この子に見合った武器を見繕ってほしいんです」


 僕はアリシアの名前を伏せた上でウェイプスさんに告げた。

 アリシアの〈ギフト〉は〈神聖騎士〉。

 その成長速度は性よk……体力ひとつとっても〈淫魔〉に追随するほどで、秘めたる力は凄まじいものがある。


 普通の武器だとすぐに使い潰してしまう可能性があるし、少しでも良い武器を手に入れられればと思ったのだ。

 するとウェイプスさんは、


「……ははぁ、訳ありらしいから口外すんなとは言われてたが、なるほど。確かにあんたら、相当な訳ありだな。そこの嬢ちゃん、並大抵の〈ギフト〉じゃねえだろ」


 ウェイプスさんはアリシアを一瞥しただけでそう断言すると店の奥に引っ込み、


「そんじゃこれだ。いま嬢ちゃんが腰に差してるものと同じサーベルタイプの中じゃこの店一番の自信作だ。銘は「風切り」。これを受け取ってくれ」


 出された剣を見て僕だけでなくアリシアまで目を見開く。

 それはどう安く見積もっても、帝都の平均的な聖騎士の給料数ヶ月分に匹敵するような名刀だったからだ。


「いやあの、本当にお金を払わせてくださいって! さすがに申し訳なさすぎます!」


「ああ!? なんだクソガキ! あたしの自信作を受け取れねえってのか!? たたっ切るぞ!」


 なんだこの人めんどくさいな!?


 そしてその後、僕たちは結局ウェイプスさんの熱量に押し負けるかたちで「風切り」を受け取り、さらには「謙虚な姿勢が気に入った」と僕も分不相応のショートソードを一振り譲られてしまうのだった。


 ソーニャは「あとで絶対に恩返しする」って言ってくれたけど……今日の出来事だけでお返しには十分すぎるや……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る