第66話 西京ネズミ―ランド(2)

 その瞬間、地の果てから、すなぼこりが立ち上る。その様子が、上空に登りゆく観覧車の上からよく確認できた。

 ――おぉ、まさしくあれはプアールではないか。

 優子はニヤニヤしながらゴンドラの窓から地上を見下ろした。


 ドカン!

 ネズミ―ランドの入り口から砂煙が立ち上る。

 勢いよく迫りくるママチャリは、ネズミ―ランドの入り口で止まることなく強行突破したようだ。

 ――アイツ、入場券買わずに入ってきやがった。

 もう、優子のニヤニヤが止まらない。

 ネズミ―ランドの園内をプアールのママチャリが駆け抜ける。

 そして、観覧車の元へと一気に駆けつけた。

 その時間、4秒。

 まだ、1秒残っている。

 しかし、あと1秒でここまで登ってくることは叶うまい。

 観覧車の頂点に位置していた優子は、不敵にプアールも見下しほほ笑んだ。

――来れるもんなら来てみなさい!


「おまたせしましたぁぁぁぁぁぁ! いつもご利用ありがとうございますうぅぅっぅぅ!」

 観覧車の前で、プアールは腕を振る。

 優子を呼んでいるのか?

 いや違う、全身のバネをつかって、勢いよく前方へと傾く上半身。

 渾身の力を込めて振りぬかれた右腕の指先が、地面をこすった。

 そしてその反動で、跳ね上げられた右足が、背中よりも高くまいあがり、体の回転と共に力強く地面に打ち付けられたのだ。


 まさか、荷物を投げたのか?

 バキン!


 そう、優子が思った瞬間、ゴンドラの透明なプラスッチック板が砕け散る。

 恐る恐るゆっくりと後ろを振り返る優子。

 金属製の天井が、大きく歪んでいるではないか。すり鉢状にへこんだ天井の中心に荷物が食い込んでいた。

 ギィィ! ギギギギ!

 何だかゴンドラが嫌な音を立てている。どうやら先ほどのプアールの一撃。ゴンドラの結合部分にかなりのダメージを与えたようである。

 このままでは、ゴンドラが落下しかねない。

 優子の顔は青ざめた。

 今まさに、優子たちは観覧車の頂点にいる。そう、一番高いところなのだ。

 こんなところから落っこちたら死んでまう。


 優子はドアのノブを掴んでガシガシと引っ張った。

 しかし、ドアは開かない。そりゃ、開くわけなかろうが! 安全のために、外から鍵がかかってますからね。

 あきらめない優子は壁に足をかけて力いっぱいに引っ張った。

 ガキン!

 優子の体が後ろに吹っ飛んだ。

 その手には、シルバーのとってが握られていた。どうやら、とってだけが、折れてもげ落ちたようである。

 そもそも、観覧車のドアは、安全のために外側に開くようになっているはず。だから、優子。内側に引っ張っても絶対に開かないんだぞ……って、いまさら言っても無駄か。


 観覧車が、時計の3時の位置に来た時だった。

 ついにその時が来た。

 ガコン!

 ひときわ大きい音共に、優子たちが乗るゴンドラの連結が壊れた。


 

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