第47話 苦い薬はよく効く薬だ(3)
お巡りさんは、スクっと立ち上がると、アイちゃんに背を向けた。
これ以上見つめていると、何だか呪われそうな気がした。
おほん!
軽く咳ばらいをすると、野次馬たちに呼びかける。
「この子は大丈夫なようだ! みんな早々に解散するように!」
お巡りさんのその言葉に、野次馬たちは、つまらなさそうに散っていく。
お巡りさんは再度、優子をちらりと伺う。
「最後に聞くが、本当にその子、こんな感じだったのか?」
「そうですよ! アイちゃん、ちょっと内気な子で、よくいるじゃないですか、なに言っても、アァしか言わない子って! ねぇアイちゃん!」
「あぁ……」
「そうか、それならいいんだが……」
お巡りさんは、早くその場から離れたかったのかもしれない。その言葉を聞くといそいそとこれから行く街の方へと帰っていった。
「はぁ、助かった!」
腰を落とす優子はホッと一息をついた。背後の地面に手をついて大きく上体をそらした。
プアールは去りゆくお巡りさんを見ながらつぶやいた。
「一時はどうなるかと思いましたね……って、これ、どうにかなりません?」
プアールの頭にアイちゃんがかぶりついている。口からガリガリと音がこぼれ落ちていた。
「きっとプアールが好きなんだよ」
優子はにっこりと微笑む。
「いや、明らかに違うと思うのですが……これ、本当に蘇生しています?」
「動いているから大丈夫なんじゃない」
「どう見てもゾンビなんですけど……」
「大丈夫よ! ゾンビも動けるんだから問題なしよ」
「いえ……ゾンビと言えば、動く死体……すなわち死人だと思うのですが」
「そうかなぁ……ちょっとその箱の中の説明書見せて」
「これですか……どうぞ」
どれどれ……なになに……
「うーん、よく分かんないんだけど、どうやら、この薬、死んだ体は動かせるんだけど、天国に行った魂は呼び戻せないらしいよ」
「アホですか! それをゾンビっていうんですよ!」
「何怒ってるのよ! もとをただせばあんたのせいでしょ!」
「いや……それはそうなのですが……蘇生薬をってお願いしたじゃないですか!」
「あのね……この世の中そんなに死人がうまく生き返るってことはないのよ。プアール……」
「何言ってるんですか! あんたは5回も生き返っているじゃないですか!」
「まぁ、あんたがくれた、『ゲームチャレンジ券5枚セット』のおかげだけどね。そうそう、その券もう残ってないの?」
「あれは、megazonの入り口で、『女神と転生』のピーアルをしていた時の販促グッズの残りでして、一枚だけポッケに入れてたんですよ」
「販促グッズって……あんた、一円もお金かけてないじゃない」
「だって、優子さん私の30円持って行ったじゃないですか。おかげで、食べる物、無いから夜中の公園で地面掘って蝉の幼虫探しましよ!」
「もしかして……幼虫食べたの……」
「食べましたよ! えぇ! 食べましたよ! 何か問題でも!」
「いえ……特に……」
「だから! 私! お金がないんですぅ!」
「分かったわよ……商品さっさと渡しなさいよ」
「そうでした。商品の確認をお願いします。ちょっとどいててね……」
プアールはアイちゃんを頭から無理やり離すと、地面に置いた。
「あぁぁ……あぁぁぁぁ……」
アイちゃんがプアールに手を伸ばす。よほどプアールの頭がおいしかったのだろう。
ここ数日風呂に入ってないせいか香ばしいにおいがするもんね。
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