第7話 泥の中に咲く暴力の花

 そこへ一人の男が走って近付いてきた、その男は盗賊団の者ではなく村人だ。その男はマルコという、いつもイブキに親切にしてくれる青年だ。

 髪型は天然アフロで彫りの深い顔が印象的である。体はデカくて全体的に筋肉質な印象を受けるが性格は穏やかで戦闘には不向きであり、格闘技の類も一切経験がない。と言うよりもこの地域一帯では、格闘技の伝承はなされていないし、皆は武器の類も所有していないのだ。

 マルコはイブキの顔を見るなり叫んできた。

「バカヤロー! お前等こんな所で何やってんだよ! 速くここから逃げろ!」

 イブキは顔見知りのマルコが来た事により少し安堵した様子だ、表情の険しさがいくら

「こいつはイブキがやったのか?」

マルコはイブキに尋ねた、そしてイブキは小さく頷き答えた。

「ああ、さっき俺がやった」

 そして間髪入れずに話を続けた。

「そんな事よりハルカをお願いできるか? どこか安全な所まで逃げてくれ」

「イブキ……お前何を考えてる?」

「俺はもう少しここにいる」

 マルコは一気に怒りに満ちた顔となりイブキの両肩を掴んだ。

「バカヤロー! おかしな考えはやめろ、そこの奴を一人仕留めたくらいでどうにか出来ると思ってんのか⁉」

 イブキは真っ直ぐな目線をマルコに向けた、マルコはこの状況下においてこの様な目線を向けてくるイブキの中に狂気を見た。

「俺はこんなの納得できない」

「そんなのはどうでもいいんだよ、ハルカはイブキが守れよ」

 マルコは天然のアフロヘアーで口元には髭を生やしていた、何もなければマルコがそこに居るだけで陽気な空気に包まれる。だが今はそんなマルコでさえこの殺伐とした空気を変える事は出来ない

 二人が言い合いをしている所に、馬に乗った盗賊団の者が近付いてきて、マルコを棍棒で殴り飛ばした

「マルコ!」

 叫んだのはハルカの方だった。

 イブキは即座にハルカの手を引っ張って走り出した、さっき拾ってきた棒は腰に差している。

「へっへっへ、逃がすかよ」

 盗賊団の男はいやらしい顔つきでイブキで達を追いかけ始めた。

 この村は基本的な水捌けが良くなく道もわりと凸凹していて、雨が降った後では数日間はぬかるんだ状態が続く。そして今日は二日前に雨が降ったばかりで、村の土地は全体的にぬかるんでいて走りにくかった。

 ハルカが焦っていたせいもあり、二人はぬかるみに足を取られて転んでしまった。二人の顔は泥まみれとなった。

 盗賊団の男はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて二人に近付いてくる、気付けばイブキとハルカはもう既に盗賊団に囲まれていた。

 マルコは離れた場所で意識を失い倒れている。二人は囲まれているとは言ったが、実際には盗賊団の者達がイブキ達を意識的に囲んだわけではなく、彼等の侵攻が進みイブキ達がその波に飲まれただけである。


 略奪行為は激しさを増すばかりだ。

 そしてニヤニヤと笑う男は馬から降りてイブキ達のそばまで来た、イブキは泥だらけの顔で男を見上げている。

 イブキは片膝をついた状態になっている、イブキが見上げている男はマルコをぶん殴った奴だ。右手にはメイスと呼ばれる長めの棍棒が握られている。

 男はメイスをイブキの顔に向けてきた、軽い威嚇のつもりだろう。

 その時イブキはメイスの柄をすかさず掴み手前へと引き込みつつ男へ近づき立ち上がった。左手でメイスをつかみ続けている。

 さらにイブキは右手で男の右肩の辺りの衣服を掴んだ、これにより男の右腕は完全に封じられた。そのまま片襟の状態からイブキは担いで投げた、背負い投げだ。

 そしてイブキの足下には男の無防備な顔が晒されている。イブキは男の頭にサッカーボールキックを見舞った、何発蹴ったか分からないが気付けば男はぐったりとして動かなくなっていた。

 ハルカは不思議なモノを見るような顔で立っていた、顔は泥で汚れている

「クックックッ……お前なかなか面白い技を使うじゃねえか」

 気付けばイブキの前方に一人の男が立っていた。

 その男は美しい姿をしていた、髪は長く肩よりも下まで伸びているがキチンと手入れがされているのか、ぼさぼさの印象はない。

 むしろ清潔感がある。

 そして、その髪は金色である。

 肌は白くきめ細かく瞳はサファイアブルーに輝き、ある種の気品を感じさせた。

 服装も盗賊団のものとは思えず、何処か洗練された感じで、都会に住む者の雰囲気を醸していた。

 そして身長もわりと高めで何より顔が良かった、確実に女にもてるタイプだ。

 イブキは真っ直ぐに、前方に佇む美しい男を睨みつけた。

「余裕かましてんじゃねえよ、殺すぞ……」

 今のイブキは興奮状態にあり、物事をまともに考える事が出来ない為にこの様な言動をしている。実際の所は今のイブキは盗賊団に囲まれなす術もないと言える。

「そんなに粋がるなよ、流石にお前一人じゃこの人数はどうにもなんねえよ」

「お前一人位なら殺せるかもな」

 イブキの周囲の空気が微かに危険な色へと変化し始めた、そしてイブキが微かに足を踏み出した。

「で……俺に襲い掛かって後ろの女は守れるのか?」

 イブキはハルカを見た、ハルカはすぐに目を逸らしてしまった。

「その女は中々の上玉だぜ? 街の変態共の慰みものにされるにゃもったいないからよお、俺等でキッチリ可愛がってやるよ」

 金髪の男は歪んだ笑顔で舌なめずりをした、ハルカを舐めまわす様に見ている。

「下衆野郎がああ……」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます