第6話 暴力と狂乱の宴

  イブキは途中で村人の家の近くに立て掛けてあった樫の棒を拾っていった、長さは大体60cm程である。武器としては少し頼りない気がしたが無いよりはマシである。そして樫は堅いので武器としての能力は十分に発揮できると考えたのだ。

 イブキ達は街道沿いの村外れまでやって来た、逃げ惑う村人達で辺りは騒然としていた。

 既に始まっている様だ。

 イブキが盗賊団を確認でき出来る場所まで来た頃には多くの村人が逃げ惑う中、凄惨な略奪劇が繰り広げられていた。

 女子供は捕らえられ男は殺されていく、そして闘争手段を知らない心優しい村人達にはなす術がなかった。犠牲者の中にはイブキに親切にしてくれた者や仲良くなった者達もいた。

 イブキは純粋に怒りを覚えた。

「ハルカちょっと離れてろ」

「やめなよ、あいつ等いっぱいいるよ」

 ハルカは乾いた表情で言った。

「もう終わりなんだね、もっとイブキと一緒にいたかったな……」

 ハルカは泣いていた、諦めの涙だ。

「泣くなよ、守ってねって言ったじゃないか」

 ハルカはこの事態をある程度は予想していたのかもしれない、しかし現場を目の当たりにした時その精神が耐えられなくなってしまったのだ。

 イブキはハルカに近付き抱きしめた。

「大丈夫だ、俺が守る」

 ハルカの全身から力が抜けていった。

「イブキ……」

「待っててくれ」

 イブキは盗賊団のいる方へ歩き出した、イブキの耳に入る人々の叫び声が徐々に大きくなっていく。

 盗賊団の中の一人の男がイブキ達に気付いた。下卑た笑いを浮かべ近付いてくる、目線はハルカの方に向いている。

 男は悠然と歩いてくる。

 体はイブキよりもデカい、全体的に筋肉を感じさせるが、脂肪もしっかり付いている。デブではないが痩せてもいない、見た感じでは力には自信がありそうなタイプだ。

 右手には両刃の剣が握られている。

「ヒッヒッヒ、こいつあ中々の上玉だぜ。楽しいなあ」

 この男の顔がイブキには酷く醜く見える、ハルカに汚い視線を投げ掛けるこの男に抑え難い嫌悪感と拒絶反応を表しているのだ。

「何してるの? イブキ! 早く逃げようよ」

 ハルカはある種のパニック状態にあるようだ、イブキは逃げ場など無い事は分かっている。そもそもイブキはこの世界で目覚めてからこの村の中でしか暮らしていない、村の外の世界を知らないのだ。だから今のイブキには村の外に逃げるという発想が無いのだ。そしてイブキは前の世界にいた時は柔道をやっていた、中学高校と共に柔道部に在籍していたのだ。その中で徹底して戦う事を教育されていた、逃走はある意味での『死』を表す。イブキが戦うのは自然な事と言えた

 ハルカの声にならない悲痛な叫びがイブキの闘争本能を激しく揺さぶった、そして目の前にいる下卑た笑いを浮かべる男に対する負の感情がイブキの心を冷ましていった。

「小僧があ! すっこんでろや!」

 男が剣を振り上げ、イブキに向かって振り下ろしてきた。この瞬間、イブキの理性のたがが外れた、この男は「俺を殺そうとしてる」と認識した。だからイブキはこの男に対し全力で挑まなければならないと感じた、例えこの男が結果的に死のうとも。

 イブキは軽く後方へ下がり剣の一撃をやりすごした後に、すかさず深く沈み込み右足を大きく踏み込んだ。そして男の右膝を樫の棒で力任せにぶん殴った。

「ウアア!」 

 男は唸り声をあげた、そしてイブキは間髪入れずに男の背後へ回り込んだ。男はイブキの動きに対応すべく、体を反転させようとしたが、右足が先程の膝への一撃で完全にその機能を失っていた。

「アアアアアアアアアァ!」

 男は壊れた膝に体重を乗せた為に激痛が走った。そして激痛によって叫び声を上げる事しかできなかった。

 イブキは男の背後から飛び掛かり、棒を男の首に回し引き倒した。男はイブキの足下で無防備な顔を晒す結果となった。イブキは足下にある男の醜悪な顔を滅多殴りにした。暫く殴った後に、男が動かなくなっている事に気付いた。

 村では激しい怒声と悲鳴とが交錯し、時折り笑い声等も聞こえてくる。イブキは男を行動

不能にしたことを確認するとすぐさまハルカを探した。

 少し離れた場所でハルカはたたずんでいた、ずっとイブキに視線を固定していた。

「ハルカ!」

 イブキは思わず叫んでしまった、ハルカはビクッと驚いた様子だ。

「やはりここは危険だ! すぐに離れよう」

 イブキは今の行動の軽率さを後悔していた。まさかこれ程の事態になっているとは思ってもいなかったのだ。

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