第4話 イブキの気持ちとハルカの想い

イブキがこちら側の世界に来てから一ヶ月が過ぎた、結局イブキはゴードンの家に居候する事になった。普段はゴードンの手伝いをしながらこの世界の事について学び、夜は納屋を改修した離れで就寝している。

 今、イブキはとても気になっている存在がある。

 ハルカだ。

 ハルカはゴードンの家に住み込みで働いている、仕事内容は主に雑用である。

 雑用とは言ってもゴードンの仕事が、わりと特殊である為にその雑用も必然的に特殊なものとなる。ゴードンは死霊師と呼ばれる仕事をしている。

 死霊師の主な仕事は墓守である、墓守とは言ってもこのような農村部には、明確な墓と言える場があるわけではない。

 イブキの今いる村では死者は山に埋められるのだ、よってゴードンは山の守り人でもあると言って良い。そう言った理由もあり、ゴードンの自宅は山の入り口にある。そしてゴードンは医者としての役割も務めている、それは山の中にある薬草等にも詳しいからだ。また人の死と向き合う機会が多いために、そこから医療に関する知識も豊富となってくるのだ。

 そんなゴードンは村の中でも皆に一目置かれる存在となっている、村長等も色々な相談事をゴードンにする。

 そんなこともありハルカの雑用や手伝いとは、より専門的知識を必要とする、ハルカの専門的知識はゴードンの下で学んだものである。

 今イブキはハルカの事が気になっている、毎日ゴードンの職場に雑用こなす為にやってくるハルカが気になるのだ。

 パッチリとした目、髪は栗色で緩い天然パーマのショートカットで上背はイブキよりも頭一つ分程低い。真っ直ぐな視線がいつもイブキを焦らせる。

 ちょっと前にイブキはハルカが御用聞きの為に村人達の家を回った時に同行した、それはイブキを村人達に紹介すると言う意味もあった。

 その時イブキは楽しいと感じた。

 要するにイブキはハルカが好きなのである、会って間もないが好きなものは好きなのだ。

 それだけにハルカが時折見せる哀しげな雰囲気がたまらなくイブキの胸を苦しくさせるのだ。そしてそのハルカの哀しさが何処からくるのか気になっている、それはイブキにとって極めて本能的感情と言えよう。

 今のイブキの状態は悩んでいると表現できる。

 そしてそれはイブキの生活に余裕が生まれている証拠でもあった。イブキは村人達に顔を覚えられ、イブキ自身も村に馴染んでいているのだ。

 そんな折であった、事件が起きたのは。


 イブキは天秤棒を担いで歩いていた、ゴードンの家で使う生活用水を水瓶に溜めるために天秤棒の両脇には水の入った桶がぶら下がっている。この作業は今のイブキの朝の日課となっていた。

 今イブキは村の外れにある川から水を汲んで帰る途中である。

村人達はイブキとすれ違う時に軽く挨拶をする、「精が出るね」とか「おはよう」とか様々な反応だが、イブキは村人達に割と好意的に迎え入れられている様である。

「オッス! イブキ君は今日も元気だね」

 後ろから誰か話しかけてきた、女の声だ、無論イブキにはそれが誰の声か一発でわかる。

 ハルカの声だ、イブキはチラッと後ろを見て言った。

「おはよう」

「どう? ここの生活には慣れた?」

「まあ慣れたと言えば慣れたかな」

「ふふ、イブキはいつも曖昧な返事だね」

「そんなに曖昧だった?」

「なんかね、言葉を選んでいる感じはするよね」

 イブキは水瓶に桶の水を移しハルカと二人で並んで歩きだした。そしていつもの木の前で立ち止り二人は村を眺めた。イブキは満足するとそこで座った、その隣にハルカが座った。ハルカはイブキを軽く覗き込む様に見つめてきた、優しい目である

「まあ生活には慣れてんだけどね、いかんせん環境が今までと変わりすぎてるからその辺がまだ馴染めてないのかもな」

「イブキの前にいた世界との違いって事?」

 イブキは軽く頷いた。

「そっか……私、もっとイブキの事知りたいな」

 ドキッとする言葉だ、イブキは思わずハルカを見た。

 優しい目で見つめている。

「私ね、イブキのいた前の世界の話すごく好きなんだ」

 イブキがこの世界で目覚めてから、イブキはゴードンの家でこの世界の話を聞き学んでいた。その流れでイブキは前の世界の話をするのだが、ハルカにはそれが楽しいらしい。時にはハルカが聞く話の方が多いこともある。

「そっか確かにいつも色々聞きたがるもんね」

「私もイブキのいた世界の方が良かったな、とか思っちゃうんだよね」

 ハルカは気が付いたら遠くを見ていた、それはどこか哀し気な表情であった。イブキはハルカを見つめている、他に出来る事がないからだ。

 ハルカの正確な年齢は当人自体もよくわかっていない、何故ならこの階層の人間には無意味だからだ。パッと見た印象ではイブキと同年代だ、もしもハルカがイブキの住んでいた現代の日本に生きていれば高校に通い、授業を受けたり友達と遊んだりしていただろう。

 イブキは思わず制服姿のハルカを想像してしまった、しかしここは現代の日本ではない。時代背景も文化形態も現代日本とはまるで違う、だがこの世界にはこの世界なりの良さがあるとイブキは考える。ではハルカのこの哀し気な表情は何処からくるのか? イブキにはまだ理解出来ていないものが多くあるのだ。

 社会全体の構造を把握できていない、だからイブキはハルカに対して無力感を覚えてしまうのだ。しかしそんなイブキの感情も所詮は理屈でしかない、それも若さゆえなのかもしれない。



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