第86話 採掘場-2
池田さんはふうっとためいきをついた。
「そうはいっても、厳しいことを言うようだが、ここに来てもらっても困るんだよなぁ……。山風さん、現場の人間ってのはあんたが思うほどお上品じゃないもんでね、特にこういう危険な現場は。あんたの前にきた本部の人間が、いったい何日もったと思う?」
「わかっています。だけど、どのみち僕はこの仕事をやらなくちゃならないんです」
『センター』の求める仕事を失敗すれば、僕の安全は保障されないだろう。もしそうなったら、誰がジーナを探すというのか?
「じゃあお前さんが、ここの奴らを説得するんだな。俺は生産部門の調整担当としていろんな現場を渡っちゃきたが、ここの人間は一筋縄じゃいかねえぞ。俺は厄介ごとはごめんこうむる」
「わかりました、僕が説得します……」
池田さんは僕を見つめたまま間をおいて、それからテーブルを手の平でポンと打つと、椅子から立ち上がってお湯を沸かし始めた。僕はふと自分のビジネスリングが震えるのを感じて、表示を見ると、なんと10件以上もメッセージが入っていた。珠々さんからだった。
僕は池田さんにあいさつして詰所の外に出た。僕がコールすると、珠々さんは一回も鳴らないうちに出た。
「山風さん?」
「はい……」
珠々さんの心配そうな声に僕は昨日の『かわます亭』でのことを思い出した。
「ああ、よかった……。昨日はどこに行かれたんですか? ひどい火事だって聞きましたけど、家は……」
「連絡もせず、心配かけてすみません。家は焼け出されて……」
珠々さんは電話口で言葉を失っているようだった。そうだ、僕は珠々さんも『かわます亭』にほったらかしですっかり忘れていたのだ。
「珠々さん、無事に家に帰れましたか……?」
電話口の珠々さんはそれを聞いて怒りを爆発させた。
「私のことなんかどうでもいいんです! 山風さん、いまどちらに? 会社にはいらっしゃいますか?」
「いえ、今日からもう採掘場の方へ……。実は昨日、採掘所の宿直室を使ったんです」
「……怜さんは……? いま一緒ですか……?」
そういえば、『かわます亭』を飛び出すときは怜と一緒だったのだ。僕は自分の口から乾いた笑いが漏れるのを感じた。
「いや、別です」
珠々さんがふっとためいきをつくのが分かった。
「今日、会社で山風さん用の新しい居住地を探しますわ。今日も『かわます亭』にいらしてくださいますね?」
珠々さんはたぶん僕を心配してくれていて、声が必死だった。僕はなんだかそれで逆に自分が落ち着いた。
「珠々さん、……冠城さん。僕は大丈夫です。家のことも、僕に任せてくれませんか……?」
「……だって、だって山風さん……」
珠々さんは少し泣き声になったようだった。けれど、少し間をおいて、落ち着いた声でこう言った。
「でしたら、怜さんは? あの方『センター』ですよね。安全な地域に家を見つけてもらえるんじゃないかしら」
僕は思わずえっ、と電話口で言葉を失った。怜が『センター』の人間だって?
「握手の仕方がそうでしたもの。それに、身のこなしも……」
僕は何が何だか分からなくなって、しばらく黙っていた。怜が『センター』の人間だって? いったい珠々さんは何を言っているんだろう……?
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