第41話 サラリーマン亘平のひみつ-3
その赤い縞模様は火星が意外と波乱万丈だったってことを教えてくれるんだ。
つまり、太古の昔にはこの火星にも海ってものがあって、火山がドカンドカン噴火していて(ちなみに火星のオリンポス山は高さ27000メートルの太陽系最大の火山だ)、山や川があった。
地球みたいに恐竜はいなかったけど、それでもそんな時代があったなんて不思議だろう?
コミューターはやがて火星の大地にできた赤い谷のすきまに出る。
そして、曲がりくねった谷の上に火星のむらさき色の空が現れる。
空が青くないのかって……?
人間が火星に来るまでは空は赤かったんだよ。
でも、人間がせっせと『空気』らしきものを作ったから、ほんの少し青くなった。
地球がぜいたくに持っている『青』という色は、命の惑星のあかしなんだよ、それは間違いなく、ね。
そして赤い縞もようの谷を抜けたときに見える、巨大な峡谷は見学者たちを圧倒する。
風によって削られた何本もの巨大な赤さび色の針が、空に向かって突き立っている。
針の先はいまにも折れて転がり落ちてきそうだ。
そうだ、人間はこの赤い星でまるで小さなバクテリアみたいに寄り添って生きているけど、火星というのは、本当は生き物に無慈悲な砂漠なんだ。
そしてコミューターは博物館につく。
……資料室じゃなくて、博物館にね。
……君たちの生きている地球では、博物館はきっとたくさんあるんだろう?
火星ではそれほど大きな博物館はない。
そもそも火星には歴史がそんなにないから当たり前だよね。
でも実は、僕の会社『グンシン』(ローマ神話の軍神マーズにちなんだ名前だ)は小さな科学博物館を持っている。
そのほとんどが火星の地理なんかに関係する展示だ。
ほかに博物館を持ってる会社はないから、よく子供たちの見学コースにはうちの会社が組み込まれている。
そして博物館の資料庫に会社の資料室もあるというわけさ。
僕が資料室についたとき、僕は案内受付(博物館と共通だ)がとても若い女性に変わっていることに気が付いた。
いつもはとても丁寧な、物腰のやわらかな男性がいたはずだ。
僕が火星の生産データの使用許可をもらいたいというと、その女性は感じよく僕に笑いかけた。
「アクセス許可がいつもですと三級になりますが、今回は生産部長より二級で承っております、お間違いありませんか?」
「はい、しばらくは二級でアクセス許可をもらえる予定です。……受付の方は変わったんですか?」
僕が何気なくそう聞くと、その女性は首を振って鈴の鳴るようなきれいな声でこう言った。
「わたし、部署は違うけど三時間ぐらい代わりを任されたんです。槙田さん本部に急ぎの資料で」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます