第184話 そして、地下へ──

 街の中央にある大聖堂。スワニーゼが祭司の人に話しかけると、しばらく話してから俺たちの元へ戻ってくる。


「入って、大丈夫だそうよ」


 そして俺たちは大聖堂の中へ。

 神秘的な礼拝所を通り過ぎると、狭い螺旋状の階段で地下へと下る。

 先頭を歩いているスワニーゼが持っているランプだけが頼りの真っ暗な埃かぶった道。

 それを一列にしばらく歩いていると、階段が終わった先に扉があった。


 さっきの大聖堂を思わせるような神秘的な幾何学模様をした、濃厚な鋼鉄で出来た両開きの扉。


 南京錠がかかっている。


「開けます──」


 スワニーゼがポケットから鍵を取り出し、かちゃりと鍵穴へ入れ、鍵を開けようとする。

 鍵が開いて、両開きの扉を押して先へと進む。


 先頭にソルトを歩かせ、彼女を守るように俺たちが周囲に警戒を配りながら歩く。

 さっきまでのような暗い道を再び歩き、再び道を歩く。


 しばらく歩くと、大きな部屋にたどり着き、その奥に再び扉。

 今回は、さっきより大きく、重厚感がある。


 そしてソルトが扉に手をかざした。


 ソルトは体に魔力を込めたのか、体がうっすらと青白く光る。


「行きます!」


「鍵が──違う?」



 スワニーゼが慌てて鍵をガチャガチャと上下左右に動かすが、鍵はびくともしない。

 すると──。


 ビィィィィィィィィィィィィ──。


 耳が破裂しそうなくらいの音がこの場全体に鳴り響き、俺達はたまらず耳をふさぐ。


 そして、それが終わると、後方から声がした。


「引っかかったな……」


 ここにいる全員が後方を振り向く。


 そこにいるのは、赤い髪のロングヘアに、天使特有の白いワンピースの服。

 やや釣り目な瞳に、挑発的な笑み。


「熾天使、アズレイル……」


 呟いたのは、レシアだった。


「ニセ鍵とすり替えていたことにも気づかず、ホイホイ引っかかってくれちゃってよぉ」


「なんでお前が、ここにいるんだ」


「なんだよ、レシアじゃねぇか。こりゃ楽勝だな」


 アズレイルはレシアを指さすなりにやりとあざ笑う。その姿に、俺はイラっと来た。


「待て、レシアをそんなふうに言うな」


「言うなって、本当のことだろ。自分のスキルすら使いこなせないクソザコ野郎じゃん。


「お荷物確定だな。楽勝楽勝!」


「あんた、後悔するわよ」


 レディナの注目に、アズレイルは耳を貸さない。二人は以前にもあったような感じみたいだ。何があったんだ、二人の間に。

 すると、隣にいたレディナが耳打ちしてくる。


「因縁があるのよ。アズレイルは、未熟だったレシアをずっとあざ笑い、バカにしていたの」


「なるほど……」


 レシアにとっては、因縁の相手だということか。


「じゃあ、とっとと終わらせてもらうぜ!」


 そう言ってアズレイルはピッと指をはじいた。

 すると、灰色の光が一瞬この場を包む。そして──。


 ヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!


 俺の背丈の数倍の大きさを持つ怪物が出現。


 出現したのは、二足足の筋肉質な牛の怪物あれは、ミノタウロスだ


 ミノタウロスは大きな咆哮をあげ──。


「わ、私──」


 ミノタウロスが何をソルトを目掛けて襲い掛かってきたのだ。

 俺達は慌ててソルトの方へと向かおうとするが、間に合いそうもない。


 そしてミノタウロスがその腕をソルトに向かって振り下ろした時──。



「スワニーゼ!」


 間にスワニーゼが割って入る。スワニーゼ、戦っているところを見たことないが戦えるのか?


「待ってください。そいつはの攻撃は簡単に受けきれません、死にますよ!」


 フリーゼが慌てて警告する。スワニーゼはギッと顔をしかめて、手をかざす。その瞬間、スワニーゼの体が一瞬だけ緑色に光った。

 そして──。



 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 障壁を作った。出来た障壁にミノタウロスの振りかざした拳が直撃。障壁はミシッと音を立てたものの、スワニーゼとソルトを守り切る形となった。



「今の──」


 フリーゼがボソッとつぶやく。

 何かあったのだろうか……。しかし、悠長に考えている場合でもなさそうだ。



 そして、大きな怪物はこっちを向いて暴れだした。俺とレディナが何とか対応する。


「ハハハ、苦しめ苦しめぇ──」


 アズレイルが俺たちをニヤリと見下しながら笑う。

 すると、誰かが俺の肩をたたいてきた。


「フライさん」


「フリーゼ、何?」


「アズレイル、油断しているようなので、対応してきます。注意、ひきつけてください」


「わかった」


 そしてフリーゼはすぐにアズレイルの方へ向かう。


「まあ、レシアなんかがいるようじゃ、お前たちのレベルなんてたかが知れてるぜ」


 アズレイルが自信満々に俺たちにイキリ散らす。俺は彼女の後ろの人影を見て、何とかこっちに意識を向けさせようとさらに話しかけた。


「そんなことない。レシアは、強くなった。お前にだって、絶対に勝てる」


「ハイハイ、面白い面白い」


 アズレイルは、そんなことありえないとでも言いたげにケラケラと笑っている。

 見ていろ、その報いを、味合わせてやる──。


 そしてその間にもアズレイルの後ろにいる人影──、フリーゼはアズレイルのほぼ真後ろまでたどり着く。

 そのままアズレイルの右手に近づいて……。



 パッとアズレイルが持っていた鍵を奪い取ったのだ。


「……スキだらけです。策がはまったと思って、油断しましたね」

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