第181話 唯一王 みんなと再会

 翌日の夕方。




 今日は、レディナ達が来る日だ。

 到着は夜になるらしい。久しぶりに会えるとなると、やはりうれしい。


 まずは二人で入浴。


 軽くのぼせてきたこともあり、俺たちは浴場を上がった。

 上がって部屋に戻っても、なぜかフリーゼは俺にべたべたしてくる。


「だって、二人でいられるのって、今日が最後じゃないですか」


「まあ、そうだけど……」


 フリーゼ、俺と二人なのが今日までだからって、どこかベタベタしているように燃える。


「フライさん。その──」


「どうした?」


 顔を赤くして、もじもじしているフリーゼ。

 目をきゅろきょろとそらしながら答える。


「その──キス。お願いします」


「え??」


 予想もしなかった、思わず言葉を失ってしまう。


「さっきの入浴で。フライさんの背中を洗っていたら、その……。また、欲しくなってしまいました。フライさんの唇が……」


 フリーゼの、物欲しそうな、何かを要求するような目つき。

 ほんのりと、目に涙が浮かんでいる。


 なんていうか、フリーゼも変わったよな。最初の方は、感情を感じない冷たい所があった。

 今もそんな感じだけど、どこか自分を表現できるようになった。


 あれが欲しいとか、こうしてほしいとか。甘えたりとか。ちょっと嬉しいい。


 流石にキスは──、他の仲間たちのこともあるし、行きすぎな感じはある。

 けれど、ここまで欲しているなら、たまにはいいか。


「わかったよ。今だけだよ」


 フリーゼの表情がはっと明るくなった。


「あ、ありがとうございます。お、お願いいたします」


 そして俺は深呼吸をして覚悟を決める。以前もやったけれど、やっぱり緊張するよな。


 するとフリーゼが上目使いで話しかけてきた。


「えっと──、今度は、フライさんからお願いします」


 そう言ってフリーゼはそっと目を閉じる。


「お、俺から?」


「はい。お願いします」


 フリーゼはすでにその気になっていて、臨戦態勢に入っている。




 仕方がない。フリーゼのささやかな願い、かなえてあげよう。

 そして俺はフリーゼの肩に手を置き、顔を近づける。


「行くよ、フリーゼ」


 そしてそっと、俺の唇をフリーゼの唇につけた。フリーゼの唇。柔らかくて、ふわふわしていそう。


 初めは優しく、ついばむようなキス。


 痛くならないよう、しかしフリーゼにしっかりと感覚が行くように唇を何度もつける。


 本当に気持ちいい。何度でも、いつまでも口づけをしていたくなる。

 それは、フリーゼも同じようだ。


「んん……。最高です。もっと、欲しいです」


 フリーゼの方からもどんどんキスをしてくる。

 最初は俺がリードしていたのだが徐々にフリーゼは自分から積極的に俺の唇をむさぼり始めた。


 そして、フリーゼは自らの舌を俺の口の中に入れてきた。


 フリーゼの舌。生暖かく、柔らかい。

 もっと、もっととフリーゼの舌は俺の口の中をむさぼるかのようにいろいろな場所を暴れまわる。




 絡めあう舌。

 フリーゼは進んで俺の口の中に唾液を送ってくる。


 甘く、彼女のぬくもりが入った生暖かい液体。


 とろけるような舌の感触と一緒に彼女の全身を口の中で感じているようだった。

 もっと欲しいと、俺の心が叫ぶ。フリーゼからも、そんなことを思っているのが舌の動きからも理解できる。


 時間で言えば数分だが、俺にとっては永遠に感じた。



 トントンとドアから音がしたが、そんなことはどうでもよかった。

 フリーゼのとろけるような唇と愛を感じていたい。


 そんな感情でいっぱいだった。


 そして──。


 トントン──。


 誰かがドアをノックする。俺は唇を離して対応しようと思ったが、フリーゼはキスに夢中になっているせいか、口を離してくれない。


 そして、そのまま扉が開いてしまう。





「フライ久しぶり、調子はどう?」


「レ、レディナ!!」


 慌てて無理やり唇を離したがもう遅い。

 レディナではない。レシアとハリーセルもいた。全員、呆れたような、さげすんだような目線で俺を見ている。


「あーあ、ごめんなさいね。ちょうど二人が夜の営みをしようとしているところを邪魔しちゃって」


「フライとフリーゼ。もしかして大事な一戦を超えてしまったでフィッシュか?」


「けれど仕方がないよね。フライだって男なんだもん。フリーゼといつも一緒にいたら、性欲に負けて間違いを起こしてしまうよね。責めたりしないよ」


 どう考えても、かける言葉が間違ってるだろ。間違いなく三人とも変な誤解をしている。


「まてまてまて、決してお前たちが想像する痴れ事はしていないぞ」



 ちょうど部屋の中で、キスして抱き合っている中で合流してしまったため、誤解もやむなしという状況であったが。


 とりあえず、説得しなきゃ──。


 そして俺とフリーゼは必死に今起きていたこと。そして、この街に来てからの出来事を説明した。


「つまり、今にキスはお愉しみの前座ではなくて、ちょっと気分が盛り上がって、ほんの出来心だった。そういうことね」


「まあ、そんな感じです」


 フリーゼが顔を赤くし、レディナに目をそらしながら言葉を返す。


「はぁ~~、二人は、そこまで関係が言ってしまったでフィッシュね」


「そうだよ、いくら本番じゃないからってキスだなんて、もう付き合ってるよね……」


 ハリーセルとレシアの言葉に俺達は全く反論できなかった。


「ごめん……」


「とりあえず、二人の関係がどこまで進んでいるのか、吐いてもらうわ。」


 レディアの言葉に、俺とフリーゼは観念し、俺たちがどこまで行ったのかをすべて話した。

 一緒に居続ける以上嘘をつきとおすなんて出来ない。下手をすると、わだかまりが残り、パーティー活動に支障をきたすことだってあり得る。


 それも考慮してのことだった。


「つまり、本番行為こそはしていないけれど、互いに気持ちを告白し、大人のキス。そしてプロポーズ──ってことでいいのね?」


「は、はい」


「そんな感じです、レディナ」


 俺とフリーゼは罪悪感を感じながらベッドの隅に縮こまって座り、答える。

 改めて二人がしたことを行われると、どう考えても愛し合ってるし、その先へ行くのも時間の問題だろう。


 気まずい時間がしばらく流れると、レディナがオホンと咳をしてから口を開き始めた。


「別に、このパーティー恋愛禁止なんてルールはないし、とくに処分なんてしないわ



「こ、こっちだって、きた── 気まずいんだから、ちゃんと言ってよね」


 ぷくっと顔を膨らませ、残念そうな表情をしている。まあ、勝手なことをしてしまったのだから、当然だろう。


 みんなと過ごすにぎやかな時間が戻ってきたのは、とても嬉しい。

 この前はうまくいかなかったこともあるけれど、次こそはできるように、みんなで乗り切っていこう。

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