第180話 唯一王 キルコとミュアから「サンドイッチ」をごちそうになる

 あの一件から数日が立った。


 朝起きて、顔を洗って歯を磨く。

 顔を洗って鏡を見る。


 自分の意識が、どこかに行ってしまっているような感覚があって、それが今も消えない。

 無意識に思い出してしまう。


 スキァーヴィの事。


 後悔しかない。


 あの選択は、本当に正しかったのか……。

 今でも疑問に残る。


 いけないいけない──。


 俺はもう一度顔を洗う。洗う手に思わず力が入る。

 まだ戦いは続いている。十分、取り返せる余地はある。


 朝食を食べた後、キルコとミュアの部屋へ。


 この街のことや、これからに関することなどを話す。

 それから、

 二人で街を散策。


 スキァーヴィのことは、すぐに街中に知れ渡ったようだ。

 先日までとは違い、人々は意気揚々に街を歩いている。


 どこか街がにぎやかになった印象も受ける。

 羽目を外しすぎて、暴れまわったりしている人や、悪いことをして、兵士にとらえられた人も多かったけど。



 そして夜。





 フリーゼが寝静まった後、俺はキルコとミュアの部屋へ。



 今日は夕飯は軽めに済ませた。

 理由は簡単、キルコとミュアが「サンドイッチ」をご馳走してくれるとのことだ。それだけじゃない。元パーティーとして大事な話があるとか。


 だから今回は俺だけで行く。フリーゼには悪いけれど、決してやましいことがあるわけじゃ無いから。

 夜遅くということもあり、静かに歩き、ノック。


「入って」


 ミュアの声がして、俺は中へ入る。


 キィィィ──。


 ドアを開け、部屋に入る。俺たちと同じような間取りの部屋。

 妙な違和感を感じる。キッチンにも、机にも、料理がある形跡はない。


「えーと、サンドイッチをご馳走してくれるってことだったよね?」


「そうよ」


 ミュアの自信を持った言葉。これは、いたずらか何かなのかな?

 俺は言いずらそうに二人に言葉を返す。


「何もないなら、部屋に戻りたいんだけど、ダメかな?」


「ダメよ」


「ミュアの通り、これからごちそうなんだから!」


 どういうことだか意味が分からず、戸惑う。

 すると、二人とも予想できない行動に出た。


 バサッ──。


「これが、私達のごちそうだよ」


 いきなり二人ともバッサリと寝間着を床に落としたのだ。


 そして手を後ろに置き、胸を見せつけるような体制になる。

 下着もつけていなかったので、全てが見えてしまっている。



 生まれたままの姿。俺は顔を真っ赤にし、どうしても視線が二人のふくらみへといってしまう


「ま、まって。状況が読み込めないんだけど……」


 キルコが挑発的な笑みを受かべて言葉を返す。


「フライ。私達の身体、ガン見してる──」


「なんだかんだ言っても、フライも男の子なんだねっ」


 あ、当たり前だろ。二人とも、それなりに異性としては魅力的なものを持っている。

 こんな姿を見せられたら、男なら誰だって意識してしまう。


 ミュアが、うっとりとした目つきで話しかける。


「キルコ。じゃあ、やりましょう」


「そうね」


 するとミュアは俺の前、キルコは俺の背後へと移動。何が待っているんだ?

 ミュアは正面に移動すると一度ウィンクをしてから両手を広げ──。



「たっぷりと召し上がれ~~」


「私達の──」


「「サンドイッチ~~」」


 そして前からはミュア、後ろからは俺に迫ってくる。

 二人は俺にぎゅっと抱きつく。それだけでなく、俺にまとわりつくように両手をつないだ。


 おかげで俺の体は、完全に二人の体に密着されてしまっている。

 二人とも、ほど良い肉付き。


 柔らかい肌が、全身に密着された状態。


 さ、サンドイッチってこういうことだったのか……。


 俺の胸の下にはミュアの控えめなふくらみが、背中にはキルコの豊満なふくらみが俺の体に押し付けられる。



 欲情せずにはいられない。まるで引き付けられるように、目線が大きなふくらみへといってしまう。


 そして、キルコが一度俺の耳に息をかけた。


「ふぅ──」


 甘く、生暖かい吐息。

 思わず力が抜け、ミュアにもたれかかってしまう。

 キルコはさらに俺に密着。


 二人の柔らかい肉体を全身に感じていると、キルコが耳元でささやいてくる。


「フライ──もう一度私達と組まない?」


「えっ。組む?」


 予想もしなかった言葉。唖然とする。


「私たち、わかったのよ。今までSランクで入れたのは、フライがいたおかげだって」


「あなたがいなくなって、私達は没落した。フライの加護がないと、私はダメなんだって──」


 なるほど。溶けてしまいそうな理性を総動員させ、頭を働かせる。


 確かに、二人が大変な目にあったというのは聞いた。

 時にキルコ──。ゴブリンたちに、あんな目にあったもんな。


「そうよ。本当に後悔しているわ。あなたを追放したこと──」


「キルコと通り、本当は、外れスキルなんかじゃなかったんだって」


「それは、ありがとう」


 気付いてくれたのか。その結論を出してくれただけでも、嬉しい。

 アドナとは違って、これからも二人は、それなりにやっていけるだろう。


 だ、だけど──。


「もし、もう一度仲間になってくれるというのなら──」


「こういうことだって、もっと先のことだって何でもしてあげるよ──」



 俺の本能が叫ぶ。この先のことが、したいと──。

 欲望に任せて、二人の言うことを聞けと。


 けれど、けれど──。


 俺は残っている理性を総動員して

 そのこと自体はとても嬉しい。



 それに俺には──いるんだ。フリーゼが。



「ごめん。二人の気持ちは受け取ったし、その言葉自体は、本当に嬉しい。けれど──」


「あっ……」


 二人の表情がはっと変わる。二人とも、長い間いた関係だ。俺の感情を、理解したのだろう。


「俺には、決めた人がいるから──。その一線は、絶対に越えられない」



 ミュアは、あきらめたのか、達観したような笑みを浮かべる。


「ごめんね、フライ」



「負けたわ。もう、あなたを仲間にするのはあきらめることにしたわ」


 二人の言葉に俺はほっと胸をなでおろす。とりあえず、今夜はお愉しみにならなくて済みそうだ。


「こっちこそ。わかってくれてありがとう。二人とも、応援してるよ」


「ありがとう。こっちこそ応援してるわ」


「私もよ」


 二人とも、穏やかな笑みを浮かべながら、言葉を返して来た。


 取りあえず、この場は何とか丸く収まった。

 しかし、二人がここまで大胆に出て来るなんて思わなかった。おかげで服を脱いだ時は完全にフリーズしてしまった。


 俺のことを考え直してくれたのは素直に嬉しかったけれど、流石に驚いた。

 俺には決めた人がいるし、一緒にはなれない。

 けれど、二人の今後は応援しているし、何かあったら力になりたいとは思っている。


 二人とも、俺と別れた日からいろいろと考えたのだろう。どこか変わったなとは思う。

 これからも、頑張ってほしい。

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