第170話 唯一王 闇市へ

 そして、数日間の間、街の下見をしたり、体を休めたりして、いよいよ闇市へと潜入する。

 夕方。オレンジ色の空、夕日が落ちかけている時間帯。


 ホテルの外、俺達は集まった。


「フライ、準備は大丈夫?」


「大丈夫だよ、ミュア」


「私も大丈夫です」


「じゃあ、出発よ」


 そして俺たちは出発。

 人通りがそこそこある大通り。


 取りあえず、この後のことについて話しかけてみる。


「ミュア、闇市に着いたら一緒に行動する? それとも、別れた方がいいかな?」


 闇市についてから、何があるかわからない以上、まとまった方が身の安全は確保しやすい。しかし、何かを探すなら別れた方がいい。流石に単独はまずいから二手か──。


 すると、ミュアが残念そうな表情で顔の前で両手を合わせる。


「ごめん。それは無理みたい」


「参加証が、確保できなかったのよ。だから中に入れるのはあなたたち二人だけ。


 キルコも、どこか残念そうな表情をしていた。


「そ、そうなんだ。ごめん──」


 俺は罪悪感を感じ軽く頭を下げる。

 ミュアは、大丈夫だと言わんばかりに両手を振って、作り笑顔をふるまう。


「大丈夫大丈夫。私達が入ったって、足手まといになるだけだし。ね、キルコ──」


「まあね、無理して強い奴のところにいったって、ろくなことにならないもんね」



 キルコが言うと説得力がある。

 以前ゴブリンたちに滅茶苦茶にされたもんな。



 キルコはそれを思い出したのか、気まずそうな表情で髪を撫でた。


「スキァーヴィのことだって、情報は入ってるよ。私じゃ、絶対勝てないような強さだって。だから、いいやって思ってる」


「私達は、あなた達のお役に立てればそれいいか。これからレディナだっけ、あの人達の迎え、行くことになっているの。ね、キルコ」


「そう、あの人たち、もうすぐ着くみたいだから」


 ああ、レディナ達か。三人は遅れて別々に来るんだった。


「じゃあ、これからもよろしくね」


「任せて、フライ」


 ミュアのどこか自信を持った言葉。俺の名を言っちゃったけど、なんていうか、どうでもよくなった。

 これからも、二人とも報われてほしいと思う。



 それからしばらく歩く。夕日が完全に落ちて夜になる。


 一般層の人が住んでいるエリアから、治安が悪そうな、貧困層の人が住んでいるスラム街のようなエリアへ。


 道の脇にはゴミが投げ捨てられていたり、ボロボロの服を着ている貧しそうな人が、腰を曲げ、悪そうな姿勢で歩いていたり、いかにも悪そうな人が多いエリアだと感じた。



 そして、そこを抜けてすぐに、それは現れた


 この辺りでは一番大きな建物。

 大きな入り口には、警備役らしき兵士の人。そこにいろいろな人が並んでいる。


「あそこよ」


「随分人が多いですね」


「表向きは兵器や商品などの展示会だからよ、フリーゼ」


 キルコの言葉に俺は納得する。

 確かに、違法なやり取りをするにしては大々的に人が集まっている。

 表向きは合法的な市場で、実は違法なものになっているということか。


「ちなみに、この裏に兵務庁、その隣に大商会のが建物あるわ」


「いい情報、ありがとうキルコ」


 入口に立った俺たち。

 そして俺たちとミュア、キルコはここでお別れ。


「二人とも、ありがとう」


「こっちこそ、生きて帰ってきてね」


 ミュアの言葉、必ず帰ってきてみせると誓う。二人とも、本当に助かった。

 一時は俺のことを追放したりしたけど、今はこうして俺たちに協力してくれている。

 俺は、そのことがすごくうれしい。



 二人の想いにこたえるためにも、この作戦絶対に成功させよう。

 そう強く、心に誓った。





 ──行こう。




 それから、門番の兵士に参加証を見せると、建物の中へ。

 赤じゅうたんが敷かれた、豪華そうな道。


 そして大きな地下へと続く階段。


 人々はその階段を下っている。

 俺達も同じように階段を下って、石造りの薄暗い道。


 その先に大きな広間と、警備の人らしき姿。


 方角的に闇市が開かれるのは、街の軍をつかさどる兵務庁の隣にある、大商会のビルの地下。


 これは、本格的にきな臭くなってきた。


 そして入口へ。


 黒いタキシードをまとった俺に、ブラックドレス姿のフリーゼがギュッと手をつないで中へと入っていく。


 入り口では黒服のガードマンによる厳重なチェック。


 体を触れられ、危険なものがないか調べられる。

 俺もフリーゼも特に問題はなく通ることができた。


 そして、闇市へと入って行った。

 周囲の商人たちの言葉から、この場所は地下市場といわれているらしい。


 地下市場の名前の通り、表の市場では売られていない様々なものが売られていた。

 見たことがない希少な肉や魚。古代の金貨や、聞いたことがない画家の美術品。


 そして、フラスコの瓶にある明らかに怪しい薬品の数々。

 緑色だったり青だったり。


「これは、なんの薬ですか?」


 フリーゼが首をかしげながら呟くと、その出店の腹が出たおじさんの商人がにやりと笑った。


「兄ちゃん、この薬吸ってそこの妻とヤッてみなよ。天国じゃないかってくらい気持ちくなれるぜ!」


「……やめておきます」


「じゃあ、一つだけ……」


「やめてフリーゼ。どんなものかわからないんだからさ!!」


 俺はきっぱりとNOを告げる。フリーゼは、顔を真っ赤にして黙りこくってしまった。

 

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