第158話 唯一王 全面対決へ

「分かったよ。彼女は、貴様達を倒した後に、しっかり助けさせてもらうよ」


「あと、私が倒しちゃう前に聞いておくけど、あんたたちの目的は何なの?」


 自信満々にクリムが聞くと、ゼリエルはポケットから一つの物を繰り出す。


「大天使様は、大昔この場所で、人類のためにと一つの物を渡しました」


 それは手のひらサイズの石だった。ただの石ではない。まばゆいくらいに、青く光っている。どう考えても、この世界にあったものではない


「強力な魔力を纏った、私達の世界の石です。最初、この力を受け取った人々は歓喜しました。そして、その力を争いへと使ってしまったのです」


「全くよぉ。ふざけんなって感じだぜ! 大天使様はよぉ。平和のために力をよこしたってのに、それを争いのために使ったんだぜ。だから、黙って俺たちが皆殺しにしちまった」


「はい。そして、この石は放っておいたのですが、その後、この国に文明ができ、大きな街ができました。なので、悪用を防ぐためこの石は回収させていただきます。そして、二度とこんなことが起こらないよう、あなた達を滅ぼすのです」


「分かったよ」


 俺は特に言葉を返さず、二人に剣を向けた。何を言っても聞かないだろうと、理解していたからだ。


「ほう、俺たちとやるってのかよ──」


「そうですね。私達とあなた達の目的は相反しています。それは否定しません」


 確かにそうだ。ここまで来て、剣を向けた以上戦う以外に道はない。それは否定しない。

 だがその前に──。


「まず一つ、聞きたいことがある」


「トランのことだ。あいつに、ニクトリスの副作用のことは、話したのか?」


「副作用? ああ、あれ人間が使うと強い力に体が崩壊しちまうんだよ。ゲルみたいに──、面白かったろ!」


 軽く笑い飛ばすタミエル。こいつ……人が死んだんだぞ──。




「待て、トランは、そのことを知らなかったぞ。それを知らないでお前はあんな力を与えたってことかよ」


「そうだ。何か悪いことでもあるのか?」


「当然でしょ。死ぬなんて副作用を教えなかったんだから」


 クリムも叫び返す。


「ああ、意図的に教えなかったんだ。当然だろう? そんなことしたら力を使わなくなっちまうだろう? 何か問題でもあるのかよ」


 タミエルの返す言葉に、罪悪感のような物はない。どうして俺が怒っているかすらも、わからないのだろう。


「──もういい、わかった」


「大体トランや国王と王子はお前たちの敵じゃないか だったら別に死んだってかまわないじゃねぇか。なんでそこまで怒る必要がある?」


 ゼリエルの言葉に、クリムは歯ぎしりをしている。怒りがたまっているのだろう。

 それは、俺だって同じだ。


「お前が、人の命を奪ってもなんとも思わないクソ野郎だっていうのは理解した」


「へっ、関係ねぇよ。あいつらは大天使様を信仰しないゴミ同然の存在。別にそんな黒どもが死んだって、なんとも思わないね」

 

 そしてクリム、我慢できなくなったようで、一歩前に踏み出し言い放つ。


 感情こそ高ぶらせていないものの、その表情からは強い怒りがにじみ出ているのがわかる。


「……好きにほざいていなさい。すぐに、吠え面をかかせてやるんだから」


「ほう、ずいぶん強気なのですねぇ。私達の策にまんまとはまったくせに」


 ゼリエルの余裕ぶった物言い。確かにそれをつかれると反論しずらい。

 しかしクリムは表情を崩さず、冷静な物言いで言葉を返していく。


「確かに、私はあんたの策にはまった。それで、フリーゼと同士討ちをさせられた。私は、未熟者だって、心の底から分からせられた」


「わかってんじゃ~~ん。お前みたいなイノシシ女は、逆立ちしたって私達には勝てねぇんだよぉ!!」


 タミエルがにやりと笑って挑発するように言い放つ。

 今までのクリムなら、感情的になり激しい言い合いになっていただろう。


 今回は、そうはならなかった。自分を、全く見失っていない。


「けれど、私にしかできないことだってある──」


「なんでしょうか、それは」


「あんたたちに勝つ。そして、ステフやみんなを絶対に守り切って見せる!」


 クリムの真剣で、強い口調の言葉。

 その言葉から感じた。今のクリムの、強い気持ちを──。

 それなら、俺だって必死にならなきゃ。


「そうだ、お前たちの好き勝手なんか──絶対にさせない!」


「フン──勝手にしろ。グラン、行くぞ」


「ああ。約束だったな」


 そしてグランがゼリエルとタミエルの前に出ると、二人はグランに向かって手をかざす。

 その手には眩しいくらいの強い光と強い魔力。


 さっきまでトランと死闘を繰り広げていた俺には、それが何を意味するか理解できた。



「待てグラン! その力は危険だ。やめるんだ!」


「黙れ、貴様などに何がわかる」


「死ぬぞ。こいつらは、お前のことなんてな駒としか考えていない。実験体の様に使い、ダメだったら使い捨て、そういうやつらなんだ」


「わかってるじゃないか。そうだよ、俺たちの魔力。グランの魔力の要領に収まるかわからねぇ。力具合によっては死ぬかも知れねぇ」


「グラン聞いた。だからやめなさい!」


 俺もクリムもグランを必死に説得する。しかしグランは目をつぶり、その力を受け入れている。

 そして、両目を見開き、俺たちに言い放つ。


「だからどうした。これは、俺の復讐なんだよ。例えこの身が滅んでも、お前たちを抹殺してやる。これが俺の生きがいだ。俺の生きる目的なんだよ」

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