第143話 国王親子の、悲惨な最期
「うるせぇ。俺達は関係ねぇだろ。早くここから出せ!! このクソ野郎ォォォォ」
「むかつくぜ──」
「あ?」
「むかつくんだよ! てめえらみたいな成り上がる力もねぇくせに親の七光でいきり散らかしてるやつがよぉ!!」
トランは舌打ちをした後、すぐに二人のところに向かって走る。
その速さは、人間の物とは思えないくらい目にも見えない速さだ。
そして右手でジロン、左手でケイルの顔を掴むと腕いっぱいでその体を持ち上げ、頭から地面にたたきつけた。
ゴキっと、明らかに骨が折れた様な鈍い音が聞こえた。
二人は頭から大量の血が出ていて、叩きつけられた地面が軽くえぐれている。
「さあ、死ねぇぇぇ!」
何とトランは二人の両足の骨を折った。そのまま彼らの肉体を地面に投げつける。もだえ苦しむジロンとケイル。彼らがたたきつけられた地面は、あまりの威力に軽くえぐれていた。
そしてトラン。血まみれになった二人を見ながらブルブルと体を震えさせる。
その震えは時間が経っていくごとに大きくなっていく。
何かおかしい、表情も、怒り一辺倒から何かを感じているようなものに変わっていくのだ。
数秒もすると、トランは上を向いて叫び始める。
「人間、人間、人間を食わせろォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──!」
何と王族たちを食い始めたのだ。
必死にもがいて抵抗するが、ただの人間と魔物になったトランの体では力に違いがありすぎる。
そんな抵抗も虚しく、国王の腕からまずは口に入れ始める。それを見たジロンは恐怖で顔を引きつらせ、何とか動かせる右手で這いずりトランから逃げようとするが──。
ガシッ!!
それを見たトランは這いずりながら逃れようとしたジロンの左足をつかむ。そして──。
バギバギバギバギバギバギバギバギムシャムシャムシャムシャムシャ──。
口を人間とは比べ物にならないくらい大きく空け、その足からジロンの体を食らい始めた。
ジロンはトランから離れようともがくが、ただの人間と今のトランでは力の差がありすぎてどうすることも出来ない。
「おいお前たち、助けろよ助けろよ、死にたくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「お前ら、魔法が使えるんだろう、だったらわしらを助けんかぁぁぁぁぁ!」
ケイルとジロンは必死に助けを求める。特にケイルはその姿を見て体が縮みあがり逃げることすらできない。
おまけにあまりの恐怖に失禁したのか、股から異臭、じょろじょろとした音。
「仕方ない。フリーゼ、助けよう!」
「──はい」
嫌な奴だったが助けにわけにはいかない。俺とフリーゼはトランに迫ろうとする。しかし──。
「おっと、食事中に暴力は行儀悪いぜぇぇぇ」
それを遮るようにタミエルは俺たちに立ちはだかる。
俺とフリーゼは二人で何とかゼリエルを突破しようと攻撃を仕掛けた。とっさの出来事でコンビネーションの制度に難があるが、力いっぱい攻撃を仕掛ける。
しかしタミエルは剣から強力な電撃を出してくる。その攻撃はすさまじく受けるたびに剣を通って体に電撃が走りダメージを受けてしまう。対応するのが精一杯で突破することができない。
「お前、人が殺されようとしているんだぞ! わかっているのか」
「興味ねぇよ。俺たちの信仰を攻撃したクズ野郎。死んだって何とも思わねぇよ!」
こいつら──。やはり生かしてはおけない。
こいつらは信仰の有無で人の生死を決めてしまう。こんなやつらが権力を握ったらたくさんの異教徒の血が流れるだろう。
俺達はさらに攻撃に出る。俺もフリーゼも前のめりになって攻撃を続けるがどうすることも出来ない。そして──。
グシャムシャ──。ペッ!
「く、食っちまったぜ──。人間をよぉ」
そして無情にもトランは国王親子をすべて食らってしまった。
救えなかった命に落胆する俺たち。するとフリーゼが何かに気付く。
「しかし、トランさん。どこか苦しそうです……」
俺はその言葉に視線をトランに向ける。確かにそうだ。トランは地面にうずくまり、おぇ……と何かを吐き出しそうになりながらうずくまっている。
苦しそうにもだえている。
そしてゼリエルの方向を向いて話しかけた。
「おい、てめぇらあの秘薬に何か仕掛けたのかよ。さっきから人の血肉が欲しくてたまらねぇんだよ。教えろよ、あの薬に何をしたぁぁぁぁぁぁ!」
するとタミエルはやれやれとしたポーズをとって、にやりと笑いだす。
「ああ、もう飲んだなら教えてもいいか。じゃあ教えてやるよ、秘薬ニトクリスには代償があるんだよ。口にすれば細胞は人間の血肉が欲しくて欲しくてたまらなくなる。それ以外の物を養分として取り込めなくなる。他の物を口にしてもそれを養分として吸収することができなくなっちまう。もはや貴様は人食いの化け物になってしまったのさ!」
その言葉にトランは激高し、タミエルに向かって襲い掛かる。しかし──。
「てめぇら、この俺様をダマしたのかよ。ふざけんじゃねぇ! ぶっ殺してやる」
タミエルはその攻撃をひらりとかわした。
そしてゼリエルが余裕の笑みを浮かべながら話し始める。
「できるわけないです。今のあなたはしょせん私達の力のおこぼれを使っているだけなんですから。つまり私達の力の下位互換ってこと──」
「おいおい、そんな言い方無いだろ。ダマしたなんて言っていないぜ。意図的に私たちに都合の悪い事実を隠しただけ。お前がを飲み干すことを選択するようにわざと仕組んだんだよ。人聞きが悪いねぇ」
「大体、あなたがバカなのが悪いです。フライへの復讐に捕らわれ、私達から与えられたものを警戒をせずに口にするなんてね~~。
ちゃんと聞けばよかったじゃないですか。代償はあるのかとか。飲んだら体に変化は起こらないかとか。
大体苦労もせず楽して強力な力を得たいのならそれ相応の代償を得るのが当たり前でしょう。楽して力を得ようとした奴の末路にはぴったりな姿です」
二人の、悪びれもしないことば。その間にも、トランは首根っこを掴み、苦しそうな表情で叫ぶ。
「このやろォォォォォォ」
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