第42話 唯一王 励まされる

 そしてフリーゼは一気に飛び上がり、ガメスが放つ拳に向かっていく。


 突きの姿勢だ。それもただの突きではない。俺のベールによって強化され、圧倒的な威力によって強化された突きだ。


 フリーゼはその攻撃に対して何の防御策もとらない。当然攻撃を受けるも、俺の放ったベールでダメージは軽減できる。本人もそれを考慮して攻撃をあえて受けたのだろう。  


 おまけにフリーゼの圧倒的な魔力とその制御力によりすべての力を剣の切っ先に集中。

 自らの最高威力をたたき出す力だ。


 ズバァァァァァァァァァァァァァァァ──!


 そしてフリーゼの攻撃がガメスに直撃。


 身体を貫通、流石に致命傷になったようでガメスの肉体がよろけ始めた。


 その出来たスキを、俺達は見逃さなかい。


 俺も、レディナもフリーゼも、ほぼ同じタイミングで遠距離攻撃を放つ。




 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!



 三人の術式は大爆発を起こし、ガメスの体を吹き飛ばす。

 その後、地面を転がり、がくりと動かなくなった。


「やったフィッシュ。倒したフィッシュ!」


 強敵だったけど、なんとか勝ってよかった。

 俺は肩で大きく息をしていると、それに気づいたレディナが腰に手を当て、指を差して注意してきた。


「ちょっとフライ、どういうことなの?」


 突然のレディナの指摘に俺はたじろいでしまう。

 そして、力を使いすぎたせいか膝の力が抜け、座り込んでしまった。その場に


「あんた、魔力供給しすぎよ! もう息切らしているじゃない」


「わ、悪い……」


「確かに、私も感じました。いつもはそこまで感情的ではないはずのフライさんが──。珍しいですね。なにかあったんですか?」


 フリーゼも疑いの目を俺に向けてくる。

 ハリーセルもだ。ジト目で、じーっと俺の顔を見つめてくる。表情にこそ表れていないものの今までにないくらいの無言の圧力。


 仕方ない。隠し通せる自信がない。だったら、全部腹を割って話そう。

 俺はため息をついて三人が戦いながら俺が何を考えていたのかを打ち明ける。



「俺が思っていたのは。一言で言うと自分だけ安全なところにいていいのかってことだ」


 さっきの戦い。一番効率よく勝つ方法を示すなら、俺は後方にいて、三人に魔力の供給や支持をするのが一番の最適解だ。


 けれど、戦術や適性を考えると仕方はないとはいえ、みんなが戦っているのに、自分だけ安全な後方にいるってのはやはり罪悪感に見舞われてしまう。


 特に彼女たちはアドナたちと違って俺のことを大切に想ってくれている。

 だから、前線で戦っている彼女たちを見て俺ももっと頑張らなきゃと強く感じてしまうのだ。


 俺は、そんな自分の気持ちを手短に感じた。


「俺は、お前たちと出会って、一緒にいて、とても楽しかった。もっと一緒に居たいって思った。だから、お前たちだけ必死になって戦っているっていうのが、心のどこかで許せなかったんだ。そういうことだ」


 そしてこの場に沈黙が訪れた。

 三人とも俺の言葉を予測していなかったのか、なんとも言えない表情をして言葉を失っている。


 そして少しの時間がたつとレディナが俺の前に立つ。


「もうっ、このバカ!」


 レディナが軽くおでこにデコピンをしてきたのだ。

 そして──。


「そんなことしなくても、あんたが必死になって策を考えたり、自分の魔力を私達に供給してくれているのはわかっているわ。余計な思い込みっていうものよ」


 俺を励ましてくれるレディナの言葉。

 そして顔を赤く、照れるようなそぶりを見せ始め──。


「けど、その気持ちは、とても素敵だと思うわ。だから、これからも私達の下支えとして、よろしくね」


 そう言い放った。

 なんていうか、おせっかいなお姉さんという感覚だな、レディナは。

 ちょっと口うるさい所もあるけれど、本当は俺のことを想ってくれている。


 それから、次に話してきたのはフリーゼだった。


「フライさんが、私達のためにもっと力になろうとしているその心は素晴らしいと思います。大変感謝の一言です」


 まるで女神の様な、見ているものを安心させるような優しい微笑で話しかけてくる。


「しかしお気になさらず。フライさんがいつも私たちのことを考えてくれていることも、苦しくても魔力の供給を絶やさなくしていることもわかっています。私たちは、フライさんが楽をしているなんて、考えていないですから」


 その言葉に、俺の心が安堵し、落ち着きを取り戻してくる。

 彼女の言葉に心を落ち着かせる力でもあるかのように感じてしまう。


「私も、フライが一生懸命闘っているのは感じているフィッシュ。だから安心して今までのフライでいてほしいフィッシュ!!」


 ハリーセルも屈託のない元気な、満面の笑みで励ましてきた。


「みんな、ごめんな。俺、これからも、三人が活躍できるようにするために頑張るよ」


 三人が だったら、答えなんて一つしかない。

 みんなが活躍できるように、幸せになれるように全力を尽くす。それだけだ。


「もう、これからもよろしく頼むわよ」


「私も、フライさんの加護の術。頼りにさせてもらいますよ」



 三人とも俺を頼っていると言ってくれた。

 だから、俺はその想いに答える。絶対に!



 さあ、先へ進もう。

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