第18話 唯一王 ポルセドラと対決

「ちょっと待て、ここから先は何かがおかしい」


 予想通りというか、ウェルキは言うことを聞かず、にやりと笑いながら俺に言い放ってきた。


「怖じ気づいたのかよ、どうせ見掛け倒しの雑魚トラップだろ。お前には脅威かもしれないけど、S級ランクの俺たちなら怖くもなんともねぇよ!」

 

 無警戒に進んでいくウェルキ。それに ──わかったよ。勝手にしてくれ。


 そしてそう考えた直後、異変が起こり始める。







 ゴゴゴゴゴゴゴ──。


 この場一帯にそんな音が流れ始めると、地震が起きたような横揺れがし始めた。


「皆さん何か来ます。気を付けてください」


 フリーゼの叫び声に周囲が視線をきょろきょろさせる。





 その瞬間──。



「グォォォォォォォォォォォォォォ──」



 突然この広間の中心に巨大なモンスターが出現し始めた。



 体長は十メートルほど。怪獣のような外見に、深海魚のような奇妙な顔つき、俺はこんな外見見たことがない。


 すると、フリーゼはその正体を知っているようで、こいつの情報を周囲に向かって伝え始めた。


「彼は上級魔物の一人、ポルセドラ。ここにいる魔物たちを束ねる主です。強力な魔物です。心してかかってください」


 そしてポルセドラが完全に出現した瞬間、水が道の奥に吸い込まれるようになくなっていき、最後には完全になくなってしまう。


「おい、水が消えたぞ。これで動きやすくなった」


 冒険者の一人が叫ぶ。確かにそうだ。

 そして俺は神経を集中させ、フリーゼやアドナたちに加護の力を与えた。

 あいつらに力を与えるのは抵抗あるけれど、ここはポルセドラを倒すのがまず大事だ。仕方がない。


 そしてフリーゼとアドナたちは一斉にポルセドラに立ち向かっていく。

 フリーゼと俺が最初に遠くから攻撃を繰り出す。


 攻撃はポルセドラに直撃。命中はするものの大したダメージにはならない。

 しかし、そのスキを他の冒険者が見逃すはずがない。


「ぶっ殺してやるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 そう叫んだウェルキとアドナ、そしてトランが一気に突っ込んでいく。


 俺が与えた加護のおかげで、普段より威力が倍近くになっている。


 そして彼らが与えた斬撃に、ポルセドラが大きく叫んで悲鳴を上げる。


 それからしばらく、冒険者たちとポルセドラの激しい戦いが続いた。両者とも力を消耗していき、冒険者側には、脱落者も出始めた。


 それでも、俺たちは戦い続けた。決してよいコンビネーションではなかったが、それでもポルセドラを追い詰めていく。


 そして最後──。



「もうちょっとね、これでとどめよ!」


 そう叫んだキルコが杖をポルセドラに向け始め、魔力を杖に込める。強力な術式を打ち込むつもりなのだろう。


 そしてキルコも魔力によって杖が黄色く光始めたその時。


 グォォォォォォォォォォォォォォッ──。


「ちょ、ちょっと、何よ!」


 何とポルセドラが叫ぶ声を上げ、キルコの方に向かってきたのだ。

 キルコは動揺し、慌てて後方に移動し距離を取る。


「確か、ポルセドラは黄色を見るとそれに向かってくる習性があるんです。気を付けてください」


「んなこと、最初に言えよバカ」


 そう叫んだウェルキ、アドナと一緒に慌ててキルコのところに向かうが間に合わない。


 俺はすぐにキルコとポルセドラの間に立つ。


 グォォォォォォォォォォォォォォ!


 大きく叫び声を上げながら俺に襲い掛かってくるポルセドラ。

 俺は冷静になり深呼吸をする。そして剣をポルセドラに向け──。


 ──殲滅せよ。スターダスト・エアレイド──


 そして魔力を伴った手のひらサイズの星が出現。星たちは意志を持ったようにポルセドラへと向かっていき──。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!


 大爆発を起こし、ポルセドラの肉体が宙に吹き飛んでいく。


「これでとどめです!」


 そこにフリーゼが飛び上がっていき、その肉体を一刀両断。

 ポルセドラの体は地面に墜落。真っ二つに切断された肉体を見て理解。



 勝負は、ついた。




 俺たちに、安堵の表情がこぼれだす。



「とりあえず、大きな敵は倒しましたね」


「あと、問題はこれからだな」



 周囲の状況をよく観察する。俺たちや、まがりなりにもSランクの肩書を持つアドナたち。実力のあるトランはそこまでダメージを受けていない。


 しかし、他のパーティーたちは体力を消耗していたり、中には怪我をしている人もいた。


 そしてこれからどんな罠が待っているかわからない。


 それを鑑みて俺は一つの判断を下した。

 その言葉を継げるために、俺はCランク、Dランクのパーティーたちのところに行った。


「すまない。これから先、どんな罠が待っているかわからない。だから、君たちを返したい」


 気まずい時間が俺たちの中に流れる。


 そう、俺が下した決断。

 ウェルキたちと、トランのパーティー以外はすべて返すという決断だ。


「あ、私はまだ戦えます」


 そのうちの一人が手を上げて話しかけてくる。確かに一人一人見れば、中には戦える人もいるだろう。

 しかし、個別に返すと彼らは一人で戦うか、普段から連携をとっていない人と一緒に戦うこととなる。

 コンビネーションが取れない状態では実力を発揮することができない。


 戦えるものを返すのは惜しい部分もあるが。命を落としてしまっては元も子もない。

 そう丁寧に説明する。


「おい、早くしろよ。そんな雑魚のために、俺たちを待たせるんじゃねぇ」


 ウェルキの罵声。もう慣れた。俺はため息をついた後、言葉を返す。


「ちょっと待て、こいつらを返したらすぐ行くから」


「では、皆さんを今から返します。今までありがとうございました。お疲れ様です。もしギルドから報酬をいただけたら、分け前は必ずお渡しいたしますので。それでは──」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る