第19話 砂漠の空
太陽が水平線に沈み少し暗くなり始めた頃、飛空艇はサンファルテの国境に入り砂漠が見え始めた。
見えた砂漠はルディールが想像していたものより遙かに広大で一面が砂で覆われ、所々に天まで届きそうな砂嵐が発生していた。
その光景を飛空艇のデッキにいたルディールは子供の様にテンションが上がり、知り合いの冒険者達に温かく見守られていた。
プリーストのタリカは恥ずかしくて近づかなかったが同じ様に目をキラキラさせていたテテノはルディールに質問する。
「私は砂漠は初めてですけど、ルディールさんはどうですか?遠い国の方と聞きましたが……」
「色んな砂漠に行った事ならあるが……安全な所じゃとお金払うとラクダに乗れる砂丘に行ったり……危険な場所じゃとわらわの様に角が二本生えてサボテンが主食の飛龍を大剣もって二足歩行の猫と一緒によく狩りに行ったもんじゃ」
「ラクダはまだしも後半はまったく想像がつかないんですが……」
「そういう世界もあると言う事じゃな」
世界は広いですね……とテテノが呟いていると日が落ち始める。魔法で障壁は張ってあったがデッキの気温が下がり始めたのでルディール達は飛空艇の中に戻り食堂へと向かう。
食堂の中に行くと他の冒険者達は酒を飲んだり情報交換などをしていた。
ルディール達はタリカがCランクの冒険者なのでCランクの冒険者パーティーという扱いになっているので、あまり目立たないように食堂の端に行き静かに食事を始める。
タリカが野菜中心の料理を頼みテテノは魚中心でルディールは肉料理を中心で頼んだ。
そしてすぐに料理が運ばれてくると食べながらリーダーはタリカなのでサンファルテの事をたずねる。
「明日の朝には砂都に着くんじゃよな?」
「大きな問題がなければ着くとは思いますよ。ですがさっき見たような砂嵐に巻き込まれたら着かないかも知れません」
「タリカさん……そういう事を言うのは止めてください」
「冗談ですよ。行って確認する事はできないので原因まではイマイチ分かっていませんが、発生する場所は決まっている様なので飛空艇はそこを避ける様に飛んでいますからね」
「へー、サンファルテも歴史が長いのに分からない事が多いんですね」
「何かの本に書いてあったが……この世界の七割は未発見らしいぞ?海に至っては九割は到達してないと書いてあったしのう」
そうなんですねとテテノとタリカが感心している間にルディールなりに同じ場所に発生する砂嵐について考えていた。
(もしかしたら……砂の下に大量に魔石があるのかも知れんのう。大地に魔石が埋まっておると浮島になるし海の底じゃとドーム型になっておったし……砂自体が軽すぎて溜まった力が抜ける時に吹き上がって砂嵐になるのかもしれんのう)
と考えながら三人で静かにご飯を食べているとAランクの冒険者達がルディール達の元にやって来て話しかけてきた。
「ルディールさん……なんでそんな端で静かにご飯食べてるんですか……」
「お主達の様に座右の銘が『ウェ~イ』というようなキャラでは無いからのう」
そのAランクの冒険者達は魔界の鉱山で採掘をする際に護衛として参加しており、ルディールが度々助けたりしている内に仲良くなり冗談を言える程に仲良くなっていた。
ほとんどAランクの冒険者が魔界の鉱山でルディールに助けられているので高位の冒険者の中ではルディールは割と有名だったりもする。
そしてそのまま勝手に席を移動しルディール達をとり囲む様に座りだしまた飲み食いを始めた。
文句の一言でも言おうと思ったがテテノもタリカも特に気にしていない様だったのでそのまま食事を続け情報交換などをする。
「そういえばバルケは乗っておらんのじゃな?」
「依頼があった時に話しましたけど、ピラミッドがヤバそうな感じだから止めとくっていってましたよ。あいつは剣士ですから魔法的な罠とかには弱いですからね。今回参加してる冒険者も魔法剣士や魔法使いや召喚師や魔法に精通したものが多いですからね」
「なるほどの~。簡単に調べてきたがサンファルテはどんな感じの国なんじゃ?ローレットにあるような本じゃと情報が少なくてのう」
ルディールの質問にサンファルテに行った事のあるAランク冒険者の男は少し考えてから答える。
砂の都と言うだけの事はあって砂や土の魔法を得意とする国だと話し、ルディールを驚かせたのは意外にも水の魔法も得意でサンファルテで魔法が使える人はほぼ全ての人が水の魔法を使える都教えてくれた。
その事に興味をもったルディールが詳しく尋ねると、砂漠には水が必須なので大昔からサンファルテでは砂や土の魔法より水の魔法に力を入れているとのことだった。
「意外と言えば意外じゃが、そう言われれば納得じゃのう。スノーベインとかじゃと見たまんま雪とか氷なのにのう」
「スノーベインはスノーベインで暖を取る方法がかなり多いですからね。魔法だったり魔石だったり薪だったりと。私はかなり前に用事でスノーベインの氷城に行った事がありますが、中はかなり暖かかったですよ」
余計な事は言わないルディールは氷城の事を思い出し確かに中はたしかに暖かかったと思い出しながらなるほどの~と相づちをうつ。
夕食が終わってからもしばらくは冒険者達と世間話や情報交換をしてからルディール達は割り当てられた自室へと戻った。
自室へ戻るとテテノとタリカの二人が不思議そうにルディールの事を眺めていたので、ルディールはどうしたのかと尋ねるとテテノが不思議そうに質問する。
「ルディールさんって……名を聞くほど有名って訳でも無いですけど、さっきのAランク冒険者の方もそうですけど有名な方々と仲良いですよね?ミューラッカ様とも仲良しですし」
「ミューラッカは別じゃが……Aランク冒険者とか高位の冒険者になってくると人間が出来ておるからのう。わらわの冗談にあわせてくれるぐらいには懐が深いんじゃろ。Aランクだからと言って尻込みせずに話してみれば案外普通に仲良くなれるとは思うがのう」
その話にテテノとタリカの二人は少し頭を抱えながら悩み、その仕草を眺めるルディールが苦笑してその日は飛空艇の中で就寝を迎えた。
◆
太陽が目覚めるよりも早く起きたルディールは大きな欠伸をしてから緊張してなかなか寝付けなかった二人を起こさない様に書き置きしてから部屋を出て行く。
静かに飛ぶ飛空艇の中を歩きデッキへとたどり着くとそれを狙ったかの様にゆっくりと太陽が昇り始め、暗かった砂漠に光が差し込み始める。
砂漠にいる生き物達も太陽を心待ちにしていたのか、巨大なミミズの様な生き物が砂漠から飛び出たり、乗用車よりも少し小さいぐらいの蝉の様な生き物が何十匹も羽化したりと騒がしくはあったが幻想的な光景をルディールは空の上から心躍らせながら眺めていた。
そんな光景が落ち着き始める頃には飛空艇のデッキにも人が集まり初めようやく地平線の先にようやく目的地の砂都サンファルテが見え始めた。
そのタイミングで飛空艇から後一時間ほどで到着するとアナウンスが入った。
そのアナウンスを聞いたルディールはテテノとタリカを連れて朝食に行こうと思い部屋に戻ったが……二人ともまだ眠っていた。
あまり寝ている人を起こすのは好きではないルディールだったが、流石に到着までの時間があまり無かったので二人を優しく起こし準備させた。
「まだ眠いです……」
「今日明日すぐにはピラミッドには行かんという話じゃし今日は早めに寝る事じゃな」
欠伸をしながらテテノが返事をすると飛空艇がゆっくりと下降を始める。
そしてもうすぐ着くとアナウンスが入ったんで忘れ物のチェックをしてから飛空艇の大広間へと向かう。
大広間へ着くと他の冒険者達やここで降りる人達は準備が終わった様ですでに集まっている。
窓から見える砂丘などの景色がゆっくりと低くなり少し揺れた後に飛空艇は発着場に着いた様だった。
飛空艇からロビーに出てくるとそこは石やレンガなどで出来た建物で冒険者やルディールを出迎えるようにサンファルテの王子が護衛に守られながら待っていた。
「ローレットの冒険者の皆様方。ようこそサンファルテにお越しくださいました。私はマカーラ・フォン・サンファルテと言いこの国の王子をさせてもらっています」
王子の出迎えに冒険者達はかなり驚いたが、冒険者達を纏めるようにSランクの冒険者も2パーティーほど来ていたのでその内の一人が代表して王子と話を始める。
(学校とおる時と同じで真面目じゃの~いつもの護衛も近くに隠れて居るようじゃし)等とルディールが考えている間に話が終わった様で王子が着いて来てくださいと先を歩き発着場から出て行く。
そして冒険者達も後を追い発着場を出るとそこは砂漠の街と言うにはイメージしにくい街中が広がっていた。
石やレンガで出来た建物の横には水路がありそこには綺麗な水も流れ小さな魚の様な生き物も確認できた。
水路の近くの家には苔の様な物も生えており植物なども生えておりオアシスの中に街が出来ているような感じだった。
その光景に初めて砂都に来るルディールや冒険者達が戸惑っていると、王子がこちらですと言ってサンファルテの魔法使いに転移魔法を唱えさせた。
「皆様がお泊まりする場所にご案内しますので着いて来てください」と言ってから砂で出来た転移門の中へと入って行った。
王子と護衛が先に行っては着いて行かない訳にもいかないので、先ほどのSランク冒険者が先に入って行った。
そしてAランクの冒険者と続き、ルディール達も入っていった。
砂で出来た転移門を抜けるとその先には立派な建物が目の前に広がっており、ここが冒険者が滞在中に宿泊するホテルだと王子が話しそのホテルを知っていた何名かの冒険者達がとても驚いていた。
「簡単なものですが、今晩は王宮で皆様の歓迎会を考えていますのでご参加くださいね」と王子がいい先ほどのSランク冒険者とまた打ち合わせを始めた。
そして王子が王宮に戻りSランクの冒険者が戻ってきてホテルのロビーに全員を集めて説明を始める。
「今回、ピラミッドにアタックする全員がこのホテルに泊まる事になっている。一応は貸し切りだが子供の様な事はするなよ。受付にいってパーティー名を言えば割り当てられた部屋を教えてくれるそうだ」
Cランク冒険者は子供の様に喜びAランクの冒険者もこのホテルの値段を知っていたので行動には出さなかったが顔には出して喜び受付へと向かい始めた。
テテノやタリカがは手放しに喜んで受付に向かったが、思う所が色々あるルディールは少し考え腕を組んで待っていると、先ほどのSランク冒険者が話しかけてきた。
「ルディールさん。鉱山では世話になったな……少しいいか?」
「うむ。その話を出してくると言う事は大丈夫なんじゃな。わらわの方も特に何かに引っかかってはおらぬが……」
「ああ。仲間に調べさせてるが大丈夫だ」
と言いながら二人は気配を消して死角へと移動し話を始める。
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