第2話 王都の錬金工房

 ルディールの転移魔法でスナップと王都に転移した先は、いつものリノセス公爵家だった。


 許可はされているが他人の家を好き勝手に歩くのは何か嫌だったのでいつもの様に呼び鈴を鳴らし迎えのメイドさんが来るのを待った。


 迎えが来る間にスナップが少し気になった事を尋ねる。


「シュラブネル家の方が錬金工房に近かったと思いますけど、リノセス家なんですのね?」


「リージュも良い子じゃから居れば誘うが……シュラブネル公爵に見つかれば嫌味を言われ、執事殿に見つかれば古書の翻訳を頼まれ、夫人に見つかると緊張するからのう……シュラブネル家に転移する時は臨時講師やる時でええじゃろ」


「なるほどですわ……慣れた所に来るのが無難ですわね」


「うむ。リノセス家ならたまにお偉いさんが来ておっても裏口から逃がしてくれるからのう」


 そんな話をしていると扉がノックされ眼鏡をかけたメイド長が現れて、今日は誰も来ていませんのでご安心をと言ってからルディールとスナップに挨拶をする。


 ルディール達も挨拶を交わしてから三人で部屋を出た。


「でもあれじゃよな?貴族とかは誰かしら呼んで遊んでおるイメージがあるが、リノセス家ではあまり他の人を見んよな?広すぎると言うのもあると思うんじゃが……」


 ルディールが前を歩くメイド長に質問するとすぐに答えを話す。


「今でこそ、王都で公爵の仕事をしていますが……元々は田舎の貴族ですのであまり王都の貴族達とは付き合いが無いと言うのが本当の所ですね」


「なるほどの~。それでシュラブネル家とかに呼ばれた次の日はぐったりしておるんじゃな……」


「はい。リノセス家が公爵家になった事で妬みや嫉妬なども多いようで疲れたと良く言っていますよ。ですが王都での味方が強すぎるので嫌がらせとかはありませんが」


「国王陛下と大公爵がリノセス家の味方じゃし……娘さん達が友人どうしじゃしな~」


「本当にありがたい事です。それでルディール様はどなたかに会われて行かれますか?と言っても本命のセニア様はいらっしゃいませんが……」


「じゃったら今日は来た意味がないの~」とメイド長が冗談を言っていたのが分かったのでルディールも悪乗りしながら答えリノセス家の広い家を進んで行く。


「セニアは何処に遊びにいっておるんじゃ?」


「はい。王女様から呼び出しがあったのでミーナ様とリージュ様と共に城に行っています」


 王女様も暇なんじゃな~等と話ながら三人で話し進んで行くとようやく玄関の巨大な門が見えてきたのでそこから庭を抜けるまで馬車で送ってもらった。


「顔も出さずに悪いが、リノセス公爵にはよく言っておいて欲しいのじゃ」


「分かりました。ルディール様もお気をつけて」


 門まで送ってくれたメイド長に丁寧に礼をいってからルディールとスナップは別れ、目的の錬金工房へと向かう。


「そういえばメイド長にはお祭りの意見を聞かなくてよかったんですの?」


「うむ。聞いても良かったが公爵に話が行くじゃろうからサプライズ的な楽しみが減るかと思ってのう。まぁ決まったら許可がいるじゃろうからその時はその時じゃな」


 そして二人は大きな石で出来た橋を渡り王都の商業区へと入っていった。


 馬車が鉱石や様々な物を運ぶ道を邪魔しないように歩き錬金組合の前を通り最近よくいく場所に向かう。


 そして路地を曲がった所で目的の錬金工房が見えると丁寧な字で書かれた看板が置かれていた。その看板の横を通り重厚で少し古びた扉をルディールが叩く。


 すると中から声が聞こえたのでルディールはゆっくりと中へと入って行った。


「こんにちはー。テテノちゃんあそびーましょー」


「あのー……ルディール様、中に他のお客様がいたらどうするんですの?」


 スナップが呆れていると奥から姿勢の良い老婆? が現れ私以外居ないのが分かっていってるんだろと笑っていた。


「ルディールとスナップかい。いらっしゃい。テテノならまだ学校から戻って来てないよ」


 その老婆に二人は頭を下げると中に入れと言ってくれたので二人は礼を言ってから奥へといき、コーヒーを入れてもらい年期の入った椅子に座り工房を見渡した。


「それであんた達は何の用だい?」


「なんというか……テラボア殿はいつ見ても元気じゃのう。髪の染色薬が切れそうなので買いに来た所じゃな」


「その綺麗な金色の髪を染めるのは何か嫌なんだけどね……」テラボアがそう呟くとスナップもコーヒーを飲みながら頭を縦に何度も振っていた。


「あれならすぐに作れるからテテノが帰って来るまで待っててもらえるかい?私は錬金術師じゃないからね。自分の物を作るのはいいけど人様の物を作るのは止めているんだよ」


「わらわは用事が無いから良いが、テラボア殿は良いのか?」


「ああ、特にかまわないよ。地酒作ろうとしてたぐらいだしね」


 そして三人で世間話をしていると店内に設置してあるマジックポストがうっすらと発光し何かが届いた事を知らせる。


 そのポストにテラボアが近づき中を空けると手紙が入っており読み始めた。


 どうやらその手紙は孫のテテノからだったようで、生徒が錬金術で聞きたい事があるので二、三時間帰るのが遅くなるという内容だった。


 テラボアがその事をルディールに伝えるとルディール達も大丈夫だったのでそのままその場で待つという事になった。


 そしてスナップが先ほどのマジックポストをずっと見ていたのでルディールが話しかけた。


「ウチの家のより光量が少ないのが気になるのか?」


「それも確かに気になりますけど……手紙は送れるのですけど、転移装置とかはまだ聞かないと思いまして少し気になった所ですわ」


「本には理論上は可能と書いてあるし、王都の城壁ぐらい大きくすれば出来るみたいじゃが……法律的に送るのは禁止されておったのう転移魔法なら問題はないみたいじゃが。莫大な魔力もいるからかのう」


 二人がマジックポストを見ながら話しているとテラボアが煙管に火を入れて話し始める。


「面白い話じゃないけど、二人がいうみたいに作ろうと思えば転移門はできるよ」


「どうして作らないんですの?」


「そうだね~。簡単に言えば転移した後の人が転移する前の人と同一人物じゃない可能性が否定出来ないんだよ」


 テラボアが煙管をふかしながらそう言ったがスナップは頭の上に?マークを浮かべているだけだったのでルディールが少し古い本だったが前に読んだ話を伝える。


「簡単に言えば入る前に肉体をバラして出る時に再構築するんじゃよな?マジックポストの原理がそうじゃし」


「ほぼ正解。というかルディールも色々本を読んでるね~感心したよ」


「転移させる為に小さくしているんですわよね?それが駄目なんですの?」


「駄目じゃないけど、二百年くらい前に錬金組合が完成させて何匹かの動物を使って実験したんだよ。その時に間違って錬金組合が飼ってた犬も一緒に転移させてしまったんだよ」


「失敗して死んでいたのか?」


 ルディールが息をのみながら尋ねるとテラボアは首を左右に振りながら話を続けた。


「いや、成功してたよ。送った動物全部が元気だったんだけど、その懐いていた犬は職員達の顔も全部忘れていて、性格も変わったと聞いてるよ。それから議論が始まって魂は転移できるのか?というややこしい話になったってことだね」


「なるほどのう……テラボア先生。裏話はあったりするのか?」


 ルディールの質問にテラボアは目をパチパチさせた後に少し笑ってから答える。


「どこの国までかは言わないしもう関係ない事だけど、罪人を使って実験はしたと聞くね。まぁ結果は犬と同じ様に記憶が消えて別の人格が入ったらしいね」


「転移装置では魂は転移されずに再構築の際に別の魂が入るって事ですの?」


「それが一番可能性が高いと言われているけど今の技術じゃ解明されてない事だね。私は同じ別の世界に引きずり込まれて、別の魂が流れてくるんじゃ無いかと思ってるけどね」


「スナップが変な事聞くから思った以上に怖い話になったのう……」


「私のせいですの!?」


「まぁそんな感じでマジックポスト系の転移装置で人や生き物の転移は禁止って話だね。まぁ他国が極悪人の記憶消すときは似たような装置使ってるって聞くけどね」


 そしてテラボアは今のローレットの法は先人達が血を流して作ってくれた血の法律だから無駄にする事はしては駄目だよと締めくくった。


「そうなると……わたくしの妹も転移してくるから別人の可能性も……」


 スナップの呟きに二人は大きくため息をつきテラボアが答える。


「現物は見てないけどノイマンの転移装置はこの世界の物と作りが違うから大丈夫だよ」


「……と言うかスナップとテラボア殿が顔見知りだった方が驚きじゃったがのう」


 ルディールが二人の顔を見ているとテラボアが無駄に長生きはしていないと笑うとスナップも同じように笑った。


「懐かしい顔すぎて別人かとは思ったけどね。そのうちノイマンの墓に花でも供えにいくよ。喜ぶかどうかはしらないけど」


 そんな話を続けていると思った以上に時間が経っていたようで玄関の大きな扉が開きくたびれた工房の主が帰ってきた。


「ただいま~。死ねる……」


 ルディール達が三人そろっておかえりと言うと少しだけ元気になったようで重い足を引きずりテーブルまでやって来て屈服した。


「……テテノ。お客さんの前なんだからもう少しシャキッとしな」


「ルディールさんは冗談がいえる人だから大丈夫。私は大丈夫じゃない」


 いつも疲れてはいるが割と元気なテテノを見てルディールとスナップは不思議に思い尋ねると割とくだらない理由だった。


「最近の学生のレベルが高すぎて私程度の錬金術師が講師してて良いのかと私の心情がヤバい」


「割としょうもない理由じゃったな……」


「ですわね……」


「しょうもなくないですよ!……お給料が良くなかったら行きたくない。ぶっちゃけ貴族の子供達は生意気ですし。ルディールさんもそう思いません」


 初めて会った頃に比べたら打ち解けたの~と思いながらもルディールも頷きながら答える。


「貴族と言っても侯爵とか公爵の子はしっかりしておるのう。砂都の王子もじゃが自分がやる事が分かっているのかしっかりと聞いておるぞ」


「という事はもっと下の爵位のお子様が問題ですの?」


「まぁ男爵と子爵辺りじゃな~。絵に描いたようなワガママっぷりじゃからわらわは楽しんでおるが」


「もう……最近の学校にいく楽しみはルディールさんとお昼に学食いく事と給料日ぐらいしか……」


 その話を聞いたスナップは思う事があったようでルディールに質問する。


「ルディール様はお弁当を持っていっていますよね?食堂で食べるんですの?」


 スナップの記憶ではデスコックがミーナ父の宿屋に働きに行く前にルディールのお弁当を作ってから行っているはずだったのでそこに疑問を感じた。


「ん?休憩時間に食べて昼は昼で食べておるぞ?」


 なんとなくは考えていた事だったが主の口からでた言葉に少し呆れ、デスコックにお弁当を追加するように頼みましょうかと伝えるとテテノから待ったがかかった。


「駄目ですよ!スナップさんルディールさんとお昼いくと私のおかずが増えるので私のオアシスを奪わないでください」


「……お弁当のおかずをもらえばいいのでは?」


「それはもらってます。今日のエビフライは美味しかったです!」


 テラボアは孫と最近できたその友人達のやり取りを微笑ましく見守りながら変な事を言い出した。


「ルディール。男女変換の秘薬を作るから男になって孫を嫁にもらっておくれよ」


 その話を聞いた三人は一斉に吹き出し孫が呆れながら話す。


「お婆ちゃん……何言ってるの」


「あんたを放っておくとばばあになっても一人で錬金してそうだしね」


 孫と祖母が言い合いを始めたのでこういうときは黙ってるのが得策とルディールが静かにしているとスナップが少し考えた後に二人に参戦する。


「ルディール様が男になられたら、とりあえず周りに黙っておいて、妹のスイベルとくっつけますわ!」


 男女変換の秘薬の事は気になったが三人とも変に盛り上がっているのでルディールは我関せずと言った所でコーヒーを飲みながら別の事を考える。


(わらわが男になったらのう……わらわじゃ変じゃし余とかの方がええんじゃろか?……YO YO姉ちゃんよ~……この世界でもラップとかあるんじゃろか?)


 それからしばらくして嵐が収まったのでルディールは話の流れを変えるのにここにきた目的をテテノに伝える。


 その話をきいてテテノ本人も疲れていたようだったが、錬金できるのが嬉しい様ですぐに用意をして錬金を始めた。


「ああ……楽しい。私はこの薄暗い部屋で錬金釜と向き合ってるのが天職なんだ」


「この光景だけみるとヤバい奴にみえるから不思議じゃな」


「眼鏡は光っていますし釜からは紫の煙がでていますわ……」


「錬金術師ってどこでもあんなのだよ」


 テテノの染色薬は完成にまだ時間がかかりそうだったので、ルディールは思い出したかの様に孫を眺めるテラボアに村で祭りがあるからなにか目玉になる催し物は無いかと尋ねた。


「祭りね~。どんなのでも良いのかい?」


「うむ。盛り上がればなんでも良いと思うがあまり金がかかるのは無理じゃとおもう」


 テラボアは腕を組み人差し指で二の腕トントンとやってリズムを取った後に大きく煙管をふかすと考えが纏まった様で伝えた。


「武道大会とかどうだい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る