第201話 続く未来 (滞留END)

「ご主人様。萌え萌えきゅん」


 そう言ってメイド服を着た、薄い金色の髪に山羊の様な角が生えた少女は大剣を背負う剣士にオムライスを作りその上にハートをケチャップで書いて出していた。


 その光景に周りにいた者の表情はとても冷たかったがオムライスを出された人物は顔を赤くし鼻の下を伸ばした。だがすぐに我に返りテーブルに何度も頭を打ち付け始めた。


「くそっ!くそっ!ルー坊だぞ!なんで俺は!ちょっと可愛いやんけ?とか思ってしまったんだ!」


「はっ!所詮はバルケ!いくら彼女ができようが!それがお主の本性じゃ!ふっはははは!このロリコンが!」


「バルケさん!落ち着いてください!頭から血が出てますから!それにルーちゃんは行動はおかしいですが!見た目は可愛いですから!」


 栗色の髪の少女がバルケと呼ばれる剣士を頑張って止めようとしたが非力な彼女では止まる事はなく、叫びながらミーナちゃん止めるな! と言ってからとうとう頭突きでテーブルを破壊した。


 その事をメイド服を着たルディール・ル・オントが笑っていると厨房の方から凍てつく様な気配を感じたのでバルケに伝えた。


「バルケよ。怖いのが来たぞ」


「な……に?」


 バルケは声を震え上がらせながらその方向を見ると、そこにはルディールより少し背の高い黒色で流れる様な長い髪のメイドさんが笑顔で立っており、バルケに優しく話しかけた。


「バルケさん。死ね死ねきゅんですわ」


 顔は笑っているが全く声が笑っていないままメイドはバルケの前に光さえ吸収しそうな黒い固まりを置き、ケチャップを目の前で握り潰した。


「違うんだ!スナップ!あれはルー坊が!」


「わたくしという者がありながら!彼女の主に鼻の下を伸ばすとは言語道断ですわ!」


 そして一方的な喧嘩が始まったのでルディールとミーナと呼ばれた子が避難するとスナップによく似たメイドさんが現れルディール達に紅茶をそそいだ。


「うむ、スイベルよありがとう」


「スイベルさんありがと~」


 スイベルと呼ばれたメイドは少し照れながらどういたしましてと言ってルディールの近くに静かに待機した。


「相談してたはずなのに……どうしてこうなったんだろう?」とミーナが悩み出したので、ルディールは少し考えてから答えを言った。


「マンネリ化したカップルの末路じゃな」


「絶対に違うのよね!?正式にお付き合いしだしたのは昨日からってついさっき聞いたよ!?」


「じゃったら……未来は無いのう」


「いやいやいやいや。明らかにルーちゃんが悪いよね!?」


 何かが割れる様な音をバックグラウンドミュージックにルディールはそこだけ見れば一枚の絵画の様に紅茶を飲み、静かにこうなった経緯を思い出していた。




 ルディールが魔法を唱えると何も無い空間に大きな門が現れたが、それに触れる事もせず、静かにその門を眺めていた。


 するとドアをノックする音が聞こえスナップが入ってきた。


「……ルディール様……その門は?」と尋ねるとルディールは門を消してから静かに答えた。


「元の世界に帰る魔法じゃな……少し時間が出来てきたからようやく習得できたのう」


 ルディールがそう言うとスナップは悲しげな表情でルディールに問いかけた。


「では……もう元の世界に帰るおつもりで?」


 その問いかけにルディールは悩む事無く答えた。


「まったく帰りたくと言えば嘘じゃが……気になる事が山のようにあるから無理じゃな。わらわが帰ったら魔界の連中が攻めてくるかも知れぬしのう……」


「わたくし達は嬉しいですが……ルディール様はそれでよろしいんですの?」


「うむ。この世界は元の世界に比べて死が間近にあるからのう……こっちの世界にお主達を残して帰っても気が気ではないわい。それに戻ると微妙に嫌な予感がするからのう」


「と?言いますと?」


「この体は前の体と指輪の王達の体でできておるんじゃが……元の世界に戻ってもこの身体という可能性があるからのう……」


「そっそれは……国とかに捕まって管理されそうですわね……角とか生えた人間はいないんですわよね?」


「見た事が無いからたぶんおらんじゃろ……と言う訳でスナップよ。これからもよろしくお願いしますじゃな」


 ルディールがそう言うとスナップは花の咲いたような笑顔になり、これからもよろしくお願いしますわと頭を下げたので、ルディールももう一度頭を下げてから握手をした。


 そしてスナップが妹のスイベルにその事を伝えると「もう一つお祝い事が増えましたね」ととても喜んだ。


「ん?わらわの事はお祝いと言う事でも無いが……他に何かあったのか?」


 ルディールがそう尋ねるとスナップが顔を真っ赤にしながらゴホンと咳をしてから話し始めた。


「ルディール様……どう言えばいいか迷っていましたが……昨日からバルケ様と正式にお付き合いさせていただく事になりましたわ」


「おお!ようやくじゃな。それで今朝からバルケの動きが不審者ぽかったんじゃな~何はともあれおめでとうじゃな」


「はいっ!ありがとうございますですわ」


「バルケについてスナップも冒険者になるのか?」


「ここがわたくしのおうちですし、このリベット村での仕事も多いですから遠くに冒険に行くというのは無理ですわ。バルケ様はここを拠点に仕事をするとの事ですわ」


「建物は完成したから後一週間もしない内に職員さんが派遣されると言っておったが……護衛の仕事はあるが……そこまで人は来んじゃろな」


「採取と害獣駆除とここから他国への護衛が多そうですわね」


 等と話しているとスイベルがそろそろ飛空艇が到着しますと教えてくれたので、ルディールは礼を言ってから、その飛空艇に乗っている人物を迎えにいく為に席を立ち、スイベルに留守番を任せてルディールとスナップは家を出た。


 世界樹のツリーハウスを降りていくと門柱にバルケがもたれかかっており難しい顔をして腕組んでいた。


 その仕草が面白かったのかルディールは笑いながらバルケの背中を叩き話しかけた。


「まずはおめでとうじゃな。特にいう事はないが……喧嘩してもいいし少しぐらいは泣かしても良いが……ちゃんと帰って来てやるようにな」


 バルケは少し照れくさそうに顔を掻きぶっきらぼうにありがとよ。とだけ言ってルディール達に同行した。


 発着場のロビーに入り目的の人物を待っているとアナウンスが入り、ルディール達が見上げると塔に飛空艇が接岸し、商人のような人、貴族ような人など色々な人がおり、その中に少し青みがかったロープに身を包んだ友人を発見した。


 ルディールが声をかけようとすると向こうも気がついたようで、すぐに笑顔にルディール達の元に走ってきた。


「ルーちゃんもスナップさんもバルケさんも迎えに来てくれたんですか!?」


「うむ。忙しい事も終わって時間もあったから迎えに来たという感じじゃな」


 発着場のロビーで話をする訳ににもいかないので、ミーナを連れてルディールの家に向かう事になりその道中でミーナの実家に帰ってきた事を伝え、スナップがバルケと付き合いだした事を伝え祝われたりしして家へと帰ってきた。


 家に戻りミーナがスイベル挨拶をして食堂でゆっくりしながら皆で雑談を始めた。


「そう言えば校内戦はどうなったんじゃ?延期するか中止にするかと言う様な話になっておると来たが……」


 ルディールがそう尋ねるとミーナは机の上に倒れ込みうめき声を上げながらその質問に答えた。


「うう~……今日の朝礼で校長先生が言ってたけど中止だって~こう街とか燃えたりしたのも生徒の皆も見てて少しトラウマになってる子もいるからそういう子達の為の配慮だって」


「なるほどの~隕石降ったり家が飛んだりしておったしのう……学校の決定なら仕方あるまい。文化祭も中止か?」


「校内戦を止める代わりに文化祭が一日延びるんだって。街の事とかもあるから二ヶ月後に開催で、クラスでもまだ何も決まって無くて何をするか?って感じだね」


「何も無いよりはいいが……弟子の成長を見たかったの~」


 ルディールが笑いながら言うとミーナは盛大なにため息をつき「私が優勝したらルーちゃんにお願い事があったのに……」


「なんじゃい。薄い本に描かれていそうな事をするつもりじゃったのか?」


「薄い本って何!変な事考えてない!?……はあぁぁぁ……」


「まぁ来年の楽しみにじゃな~」と言ってルディールが入れてもらった紅茶を飲むと、来年と小さく呟いた後に笑顔になりこれから一年、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします師匠とルディールに頭を下げた。


 ルディールも笑いながらこちらこそよろしくお願いと頭を下げて二人で笑いあった。




「それでね、休みの間に文化祭で私達のクラスは何をするか考えて来なさいって先生に言われたんだけど……何をしたらいいの?」


「わらわが学生の頃は劇とかやったのう。裏方で小道具とか作っておったな」


「劇か~隣のクラスやるって言ってけど……私達もいいのかな?」


「ミーナ様は何をしたいんですの?」


「劇をやるんじゃったら……剣士とメイドとラブロマンスでええじゃろ。剣士ケルバの珍道中みたいな」


「おい!ルー坊!名前を逆にしただけじゃねーか!ラブロマンスって何だよ!」


「お主の事では無いわい!物語は天空の城でケルバがメイドさんに出会ってから始まる愛と勇気の冒険!脚本はわらわが担当!」


「誰も見ねーよ!絶対に三流以下だぞ」


 話が脱線しそうだったのでミーナとスナップが苦笑しながら二人をなだめて、何とか話を元の方向に戻し相談した。


「そうじゃな~……メイド喫茶とかでも繁盛しそうじゃな。こっちの世界では見た事無いし」


「ん?ルーちゃんメイド喫茶って何?」


「メイドが出てくるのはわかるんですけど……」


 その場にいた全員が頭の上に?マークを浮かべていたので喫茶店の店員さんがメイド服を着て入って来たお客さんにいらっしゃいませご主人様と言うお店と言うと、なんとも言えない顔をルディールはされた。


「それって……どうなんだ?ミーナちゃんのクラスはAだろ?貴族が多いからメイドとか見慣れてるんじゃね?」


「うむ。多いじゃろうが……物珍しいのと同年代の子達がメイド服着てたら来そうじゃがのう」


「メイド喫茶か~それ良いかも。私は裏で何か作る係だろうけどちょっと面白そうだと思う同級生のメイド服とかなかなか見られないと思うし」


 その話を聞いたスナップもスイベルも面白うそうだと言ってくれたがバルケは少し難しそうな顔をして爆弾を投入した。


「服だけで変わるもんかね~。ルー坊がメイド服着てても可愛いとか絶対に思わんけどな」


 その一言でルディールの笑顔が固まりバルケに話しかける。


「よし!その喧嘩買った!スナップよ今の言葉覚えておくんじゃぞ!バルケはわらわには興奮しないらしいからのう!」


「えっ?昨日からお付き合いさせて頂いていますので……流石に大丈夫とは思いますわ」


「スナップには悪いが本気を出させて貰おう!と言う訳でミーナとバルケはそこで待っておれ、着替えてオムライスでも作って疑似メイド喫茶をしてやろう」


「はいはい。ルー坊がメイドメイド。少し腹は減ってるから料理だけは楽しみに待ってるわ」


 バルケがそう言うとスナップは調理場に行き、ルディールは二階に上がり、スイベルはミーナとバルケに水を出して静かに待った。


「バルケさん……先に謝った方が良いような気がしますけど」


「ミーナちゃん。大丈夫。所詮はルー坊!」


 ミーナが心配する中でバルケが勝ち誇っていると二階から降りてくる気配がしたので、スイベルが確認の為に厨房に入り戻ってきた。


「義兄さん。謝るなら今の内ですよ?」


「大丈夫大丈夫」とヘラヘラとバルケが笑っていると厨房のほうでルディールが料理を作っているようで、美味しそうな良い匂いが流れてきた。


 そしてようやく料理ができた様で足音が聞こえその方向に目を向けるとその場にいた全員が言葉をなくした。


「お待たせしました。ご主人様❤」






「それで、ミーナはしばらくはリベット村におるんじゃよな?」


「うん。先生達も魔界に行く様に国から言われたみたいだから一週間ほどお休みだね」


「なるほどの~。ゆっくり出来そうじゃな」


「うん。そうだね。それと……ルーちゃんメイド服似合ってるよ」

 

「うむ。ありがとうじゃな」


 そう言って二人で少し恥ずかしそうに笑いあった。

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