第192話 返ってきたもの


 瞬殺され目を回しているバルケを膝枕しているスナップをルディール達が笑いながら見ていると、リノセス公爵が盛大に愚痴を言いながら話し始めた。


「羨ましい……俺も仕事を忘れて十年ぐらいゆっくりしたい」


「公爵……それ、いらぬ誤解を生むパターンですよ。メイド長に呼ばれましたが、どういったご用件で?」


 ルディールがそう尋ねるとリノセス公爵は少し前までは田舎の貴族だったのにどうしてこうなったと頭を抱えしばらくしてから言った。


「少しはそこのルディオントさんに聞いたと思うが……今回の件は一部の悪魔が魔族が攻め込んで来たと言う事になり、そして魔王アトラカナンタがその事の賠償と友好の証として魔界の鉱山を差しだすと言う形になった」


「なんか……ルディオントの計画通りって感じじゃな」ルディールがそう言うとルディオントは膝を組みワインの様な物を飲みながら鼻で笑っていた。


「計画通りも何もあれは只の脅しだぞ……会談の時にいた護衛達も全員青ざめてるわ、見ていて可哀想だったからな。俺はそう言うの鈍感で分からないから助かったが……」


「殺気を向ける相手のコントロールくらい出来るさ。王同士の話に他の連中に茶々を入れられてはつまらないからな……なかなかこの酒は美味いな」


 リノセス公爵が何処の国の王様だよ。とため息を付くとソールがアホの国の王様ですとルディオントを煽ったので、また喧嘩が始まりそうになった所をルミディナとルゼアが頑張って止めていた。


「命の危機がすぐ近くにあるような気がする……それでルディールと火食い鳥、バルケと王宮騎士数人と宮廷魔道士で魔界まで魔王アトラカナンタを送って行き、その足で鉱山の確認という命令が下った」


「NO!と言う前に……魔界に人間はいけないのでは?もしかしてルディオントから人間が魔界に行く魔法を教えてもらいましたか?」


「お前な……その魔法が本当に使えるかどうかを試す為でもある。仮にダメだとしてもルディールは魔力が多いんだろ?あれぐらいあれば余裕で耐えられると俺の妻も教えてくれたからな、お前はもしも時の為でもあるしミューラッカ様より強いんだろ?」


 そして本当に使えるならその魔法をローレットが開発したと言う事にして他国に発表すると言い、一応は極秘だからよそで言うなよと釘を刺された。


 その話を聞いてルディールはスノーベインの事を考え、通信魔道具を開発したのに人が魔界に行ける魔法のせいで昔に戻る様な事が無いと良いがと考えていると、その事を表情から読み取ったのかルディオントがそう心配するなと言ってから話し始めた。


「昔の私はそんなに顔に出やすかったか?」


「ポーカーフェイスじゃぞ!読まれるはずが無い」


「ロイヤルストレートフラッシュのように鮮やかな顔色だがな。話を戻すが国の中での会談だがミューラッカはローレットの為に魔神と戦っただろう?何があったかは知る権利があるからな。そしてミューラッカも馬鹿ではない。鉱山はローレットと共同で管理という形になったから大丈夫だ」


 その話を聞いてルディールは少しほっとしてから詳しく聞くと、ルディオントもミューラッカがいるのを知っていて、その話を出し、簡単に言えばローレットの為に命がけで戦った見返りを求めた結果になったと教えてくれた。


「じゃったら良いか。見かけたらからかってやるか」


 ルディールがそう言うとルディオントはそれでいいと言ったがリノセス公爵はやめてくれといい逸れた話を戻した。


「どこまで話したっけな?」


「リノセス公爵がスナップの膝枕をうらやましいと言った辺りですね」


「言ってない!しかもそれは最初だろ!……それでルディールは魔界に行ってもらう。お前は角が付いてるから問題ないし、魔王アトラカナンタのご指名だし、他にも色々あるから断れないぞ」


「魔界には行こうと思ってましたからいいですが、アトラカナンタと一緒なのが嫌なんですが?」


 ルディールが嫌そうな顔して言うとルディオントは笑いながら、あれはお前が思っているより面白い奴だといい、ソールは一緒に殺しますか?とノリノリだった。


 その光景を見ていたリノセス公爵は盛大にため息を付いてからどうしてそうなったのかを伝えた。


 今回の襲撃から王都を救ったのは誰か? と言う事になったがルディオントにソールにしろその存在は多数の人に見られているが誰もその人物の事を知らない。


 だが国が国民達をわかりやすく納得させるにはわかりやすい英雄がいるが勇者も聖女もいない。


 その時に国王陛下はルディオントの顔をみてルディールが関わっている事が分かっていたので、ルディールを英雄にして上手く話を纏めようとしたらしい。


「光栄な事ですが……超迷惑ですね」


「俺はそうして欲しかったがな!」と何故か怒ってから続きを話し始めた。


 その案にシュラブネル公爵とミューラッカが同調し、それで決まりそうになったが王女様から待ったがかかり、ルディールさんを魔界に派遣するなら目立つような事をすると何処かに行きますよ? と言って止め、そしてウェルデニアにはルディールの存在は王宮の暗部として認知されているので、よほどの事が無い限りそっとしておきましょうと言った。


 その事で国王が国民達にどう説明するのか?と尋ねると王女は笑顔でリノセス公爵の方を見て「嘘を言うのは駄目ですし、ルディールさんはリノセス家の護衛なのでリノセス家が騒動を鎮火させた事にしましょう」と言って上手い具合に国王を丸め込んだとの事。


「シュラブネル公爵に呼ばれて会議に参加させられる前に逃げれば良かった……あの赤点王女め……」


「いいんですけど……公爵も王女様にかなりフランクな感じになりましたよね」


「ん?ミーナと同じでよく遊びにくるからな。公の場では別だが娘の友達にしか見えん」


 それで指揮をリノセス公爵が取り、ついでにしてはかなりの大事おおごとだがリベット村への魔列車の計画も任されたと頭を悩ませた。


「魔列車を王都まで引くよりリベット村の近くの滝にはゆがみがあるからな。そこから線路をひけばアイスブロックとリベット村の両方に鉱山から採れたものが運ばれると言うわけだ」


 ルディオントが付け加える様にそういうとルディールは納得したがリノセス公爵はまた机に倒れ込んだ。


「なるほどのう……魔列車を引こうと思えば魔界に行ける場所がいるんじゃな」


「そういう事だ。ちょうど魔界でも魔列車が通る近くに鉱山があるからな都合がいいだろう」


 ルディールがその事を感心していると、ルディオントは少しだけ寂しそうに人間界と縁が切れた者が考えた妄想だと笑っていた。


「元からリベット村には魔列車がくる予定じゃったし結果オーライか?」


 リノセス公爵はガバッと起き上がり仕事量が違い過ぎると元気になった。


「森を切り開くにしても猿共と相談しないと駄目だし……スノーベインと共同になるし……田舎の貴族と言われていた時代に戻りたい」


 ルディールが哀れんで大変ですねと言うと恨めしい目で誰のせいだ誰のせいと言っていた。


「と言うか……公爵。炎毛猿達を知ってたんですね」


「この前、リベット村に行ったら森から出て来て流暢に言葉を話して丁寧に説明してくれたから文句も出ないわ!なじんでる村人にもっと驚いたがな……それはいいが、ルディールが魔界に行くのは決定な。お前だけに楽はさせん」


「仕方ないですね。リノセス家の護衛としてお仕事しましょう。いつからですか?」


「少し急だが、魔王アトラカナンタが執事に昨日、伝えたから……ありがたい事に三日後に出発になった」


「少し時間はある感じですが……アトラカナンタはどうする気で?」


 ルディオントが私もあいつと話したい事があるからといい、監視兼護衛でルミディナと一緒に城に部屋を借りると話した。

 

 ルディールがなるほどーの言っているとソールが座ってる辺りから舌打ちするような声が聞こえた。


「まぁそう言う事だ。街もすぐに動き始めるだろうしな。観光でもするさ」


「ナイン・アンヘルはそこまでもつんじゃな……魔法としては本当に凄い魔法じゃな」


「別の世界だがそこのソールと一ヶ月近くは戦い続けたが大丈夫だったぞ、急にいなくなれば元の世界に戻ったと思っておけ」


「大丈夫とは思うが……体を奪われんようにな。その時はわらわにはどうしようもないぞ」


 そう心配しているとルディオントは少し笑いながら大丈夫だがもしも時はそこのソールに頼めと言った。


「中身がかわって簡単に扱えるような魔力量ではないからな。アトラカナンタがこの体になれる前に消滅させれば問題ないさ」


「わかりました。知恵と知識の指輪で操ってけしかける様にしますね」


 皆がソールの顔を見てこいつ何言ってんだと言うような顔をしたが当の本人は気にもせず、今のはどう考えてもフリでしょうと言っていた。


「後は……聞きたい事もあるが聞いても分からないからいいか……ルディールも魔界に行くまではリベット村にも戻ってもいいが王都にいるならリノセス家を使って貰って構わない。そこのソールとルゼアだっけか?お前達と火食い鳥もバルケもだ」


 まだ気絶しているバルケ以外はリノセス公爵に礼を言ってからこれからどうするかを皆に尋ねた。

 

 ルディールは王都がどれだけ壊れているのか気になるので、街の方を見にいくと言うとルゼアも一緒に行くと言い出したので了承した。


 スナップとスイベルは? と尋ねるとスナップは苦笑しながらバルケ様が起きるまでは一緒にいますと言いスイベルも他のスイベルがまだ治っていないので姉さんと一緒にいますと言った。


 ルディオントとルミディナは何かあった時の為に城を観光するといい、ソールはルディールに着いて行くと言った所でソアレに話しかけられた。


「ソールさん。お願いがあります」


「自分の事ですから分かりますが……思っていたより早かったですね。魔界に行ってから鍛えてあげようと思っていましたが……貴方は弱すぎます。ルディールさんの親友を名乗るならせめてXランクまでは行く事です。スティレとカーディフはどうしますか?」


 そう尋ねられたがスティレもカーディフも悩む事はなく、すぐに答えソアレと一緒に鍛えて貰う事になった。


 二人にソールが微笑みながら分かりましたとソールと火食い鳥の予定も決まった。


 そしてルディールがルゼアと一緒に外に出ようとするとリノセス公爵が呼び止め話しかけた。


「そうそう。シュラブネル公爵がお前を探してたが、何かやらかしたのか?なんでもいいが見つかるとめんどくさい事になると思うから逃げた方がいいぞ」


 リノセス公爵がそういうと今まで何も言わなかったメイド長が呆れて流石にそれはと注意したがルディールは礼を言ってからルゼアと部屋を出た。


「リノセス公爵ことおじじは変わりませんね~おばばはもっとかわりませんが」


「そう言えばお主のばーちゃんはローレットの七不思議じゃったな」


 そんな話をしならがルディールとルゼアが歩いていると、いつの間にか後ろに気配があり誰が七不思議ですか?と声をかけられた。


 油断していたのもあるが、急に背後から声をかけられたのでルディールとルゼアは驚き飛び引くと、そこにはリノセス夫人とアコットがおり、アコットはるーちゃんと言ってルディールに抱きついた。

 

「アコットも無事だったんじゃな」


「うん。そこのるーちゃん二号に助けてもらった」


 アコットがそう言うのでルゼアの方を見るとお助けしました!と敬礼していた。


 ルディールが二号というより力と技の両方をもっておるからV3じゃなと教えているとリノセス夫人から娘に変な事を教えないでくださいと怒られたが、ルディールとルゼアに助けてもらった事に丁寧に頭を下げ礼を言った。


「ルディールさん、ルゼアさん助けていただいてありがとうございました」


「私が……と言うよりはルゼアがですね。私もルゼア達に助けられたので……」


「ですが、ルゼアさんを呼んだのはルディールさんでしょう?」


 リノセス夫人が知っている様な素振りを見せたのでルディールが目をパチパチさせて驚いていると、ルゼアから念話が飛んで来ておばばは千年前の戦いを知っているのでもしかしたらナイン・アンヘルの事も少しは知っているかも知れませんと言ったのでルディールはさらに驚いた。


「そこのルゼアさん、とっても余計な事を言うのをやめてくださいね」顔だけは笑顔のリノセス婦人だったが背後には炎が見えていた。


 ルゼアがおびえルディールの背後に隠れるとリノセス夫人は大きくため息をついてからもう一度、礼を言ってからこれからの事を尋ねた。


 ルディールは公爵から聞いた事を夫人に伝えると、二人ともリノセス家を自分の家だと思ってゆっくりしてくださいねと言ってくれたのだが……


「ところで……話は戻りますがルディールさん……ローレットの七不思議ってなんですか?」


 先ほどの優しげな気配はなく明らかに獲物を狙う婦人にルディールがたじろぐと機転を利かせたルゼアが起死回生の一言を発した。

 

「おば……リノセス夫人!公爵が先ほどスナップさんに膝枕されてるバルケさんを見てうらやましいと言っていました!もう少し家族のスキンシップが必要かと!」


 その話を聞いてリノセス夫人はさらに笑顔になりアコットをルディールから奪い取り足早に公爵がいた部屋に向かった。


「るーちゃん!また後でね~」とアコットが言ったのでルディールとルゼアも手を振ってから逃げる。


 二人が心の中でリノセス公爵に謝ってから城から出ると外には学生達が多数いた。


「ルゼアも学生になるんじゃよな?行く必要は無さそうじゃが」


「魔法が使えないのでCクラスに通ってますよ。友達もいますし学校楽しいですよ!手加減の勉強もできますし」


「クラスメイトも気が気ではないじゃろな……くしゃみしただけでガラス割れそうじゃし」


「よく分かりましたね。花粉症の時期とか大変ですよ」


 ルディールが呆れているとルゼアは冗談ですよ。毎日、家族に能力低下の魔法をかけて貰っていますから少し身体能力の高い生徒になっています等と雑談をしていると生徒達の中にミーナやセニア、リージュ達がおりルディールに気がつくと嬉しそうにやって来た。


「個人的にはセニアお母様を押しますが……誰を選びます?」


「じゃあ、ルゼアで」と冗談で言ったつもりだったがそういう事に経験が少ないのか、顔を真っ赤にしてあたふたし始めた時にミーナ達がやってきて少し面倒な事になったが好きな日常が戻ってき始めた事を皆で喜んだ。


 そして少し日が進み魔王アトラカナンタを魔界に送り、人が魔界に行ける魔法を試す日がやって来た。

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