第179話 決断
宮廷魔道士に頼み城壁へ上がりローレットの王女、シェルビア・ローレットは燃えている街を眺めていた。
「王女様、ここは危ないのでお下がりください……」
自分の魔法の先生でもある宮廷魔道士にそう言われたが、友人達が王都を守るために戦い、他国の王女にもこの国を守ってもらう為に戦ってもらっている……何もできない自分がふがいなく拳を強く握りしめた。
(魔法は使えるようにはなりましたが、ルディールさんや火食い鳥の皆様にもつながりませんか……中央都市から連絡はありましたがスナップさん達にもつながりません……)
いくら考えても最善の答えが出ない中でルディールが言った言葉を思いだした。
(連絡がつかない時はリベット村に逃げろとのことでしたね……私が逃げる訳には行きませんから国民達を逃がさなくては……)
そう考えた後の行動は速く陛下に無理矢理許可をとり、転移魔法を使える宮廷魔道士を呼び、怪我人から優先的にリベット村へ運び込んだ。
そしてリベット村の村長とカーディフの祖父が護衛としてリベット村からやって来たので王女は村の様子を尋ねた。
「こちらの現状は見たとおりですが……村の方は無事なようですが襲撃はなかったのですか?」
「自分も信じられませんが……」と言ってから話し始め、十数体ほどの魔神が巨大な転移門から出現したが……ものの十分もしない内に全て倒されたといった。
「はい?」
「いえ、仰りたい事もお気持ちも分かりますが事実ですので……」
村長やコピオンやミーナの父親など村でも腕が立つ部類の人間が魔神の気配に気がつき外にでると、地面から大木のようなドラゴンの頭蓋骨が実った様な植物が現れ、あっという間に数体の魔神を種を植え付け倒し、残った魔神もルディールの家のコックが捌いて倒した。
その事に恐れをなして森に逃げた魔神もルディールの群れの炎毛猿達に倒されたので、魔神に襲撃されたと言う実感が無いままかたが付いたと村長は混乱したまま話した。
「……この戦いが終わったらルディールさんに詳しく聞きます」
「……私もそうしようと思います」
言いたい事も聞きたい事も山のようにあったがまずは民間人を避難させるのが最優先なので、王女は村長に頼みリベット村の人達の力も借り少しずつ避難を始めた。
その直後にローレット城では大きな大爆発が起こり城壁の一部が吹き飛んだ。
「村長も王女も気を付けろ。孫や娘がいる国だ、少し手を貸してやる」とだけいってから弓を持ち爆発があった方へとかけていった。
ありがとうございますと王女は頭を下げ、直轄の部下達にコピオンを援護する様に指示をだした。
その頃ルディールはミーナに寄生したアトラカンタに言葉を無くし他五体に囲まれていた。
ここで慌てた所でどうしようも無いかと呟き、一度深呼吸してからルディールはアトラカナンタに話しかけた。
「それで?決着をつけると言うておったがミーナを乗っ取ってどうするつもりじゃ?」
「あはっ!なりふり構わず攻撃をしてくるかと思ったけど案外冷静だね。前の体の時と同じだね君の友人なら盾として使えるからね」
「冷静なフリをしておるだけであってまったく冷静ではないわい」
等と親しげにルディールとアトラカナンタが話しているのを見て、女性の姿をした魔神が話に割り込んできた。
「それで?アトラナナンタ様。このちんちくりんがターゲットかしら?」
「あはっ!ルディール。ちんちくりんだって。そうだよ、本人はなる気がまったくないけど名乗りさえすれば正当な魔王だね」
誰がちんちくりんじゃ!とルディールは言い返しながらも魔神達を確認したがゲームには出て来た事が無い魔神ばかりだった。
「しらん奴ばかりじゃな……それでお主は?」
「あら?私の事をしらないのかしら?みれば分かると思ったけど?」
そう言われたのでルディールがもう一度上から下まで眺めたが全く記憶になかった。
「見れば分かると言って外見的な特徴で言うなら……大きな瞳に美しい唇じゃろ……そして魅惑的な体じゃから……魔神タラコ唇半ケツ目玉じゃな!」
ルディールが戦闘中にもかかわらず変な事をいったので、少し時間が止まったかの様に魔神達は固まり、アトラカナンタが吹き出してからようやく動き出した。
「誰が!タラコ唇半ケツ目玉よ!」
「いや、お主が見れば分かると言ったから外見的な特徴を言ったんじゃろ」
「ハンティアルケーツよ!」
「だったら略してもハンケツじゃろ。アトラカナンタならカナタンじゃし」
ルディールがそう言うとハンティアルケーツは顔を真っ赤にして怒り、アトラカナンタは一人腹を抱えて笑っていたが、残りの魔神は一体ずつ糸の切れた人形の様に地面に落下していった。
「と……遊んでおったが残りはお主達二人じゃぞ?ミーナの体を返すなら加減はしてやるがどうする?」
今までの優しげな雰囲気はなくルディールはもう戦闘態勢に入っていた。
「あはっ!遊んでいるのかと思ったけど……もう仕掛けて来てたんだね!油断したよ!」
アトラカナンタの言葉通りルディールはアトラカナンタやハンティアルケーツと話している間に、他の魔神達に知恵と知識の指輪で精神に攻撃を仕掛け、魔神達が生まれてから今までの記憶を全て消した。
飛び方、話し方、本能の中にある事すらを忘れさせたので只、死んでいないだけの状態になっていた。
「知恵と知識の力だったかな……なかなかひどい事するね。上位魔神なのに手も足も出ないとか君は本当になんなのかな?」
「さてのう……わらわも知りたい所じゃよ。ここでお主とやり合うのは得策では無いから、わらわと一緒に狭間の世界に行ってもらうぞ」
ルディールがそう言った瞬間にアトラカナンタとハンティアルケーツは渦の様な物に飲み込まれた。
「はやく倒して救援にも行きたいが……ミーナよ、待っておれよ。すぐに助けてやるからのう」
そう言ってからルディールもすぐに狭間の世界へとむかった。
白と黒の世界にたどり着くと、ハンティアルケーツはルディールが指輪の力をなんなく使えてることに驚いたが、アトラカナンタは分かっていた事なので、いつでも戦える様に態勢を整え自身の回りに水で出来た竜を何匹も漂わせていた。
「この、体の持ち主のミーナちゃんだっけ?ほんと凄いね。神々の果実を食べて限界が伸びてるのもあるけど……」
「わらわの一番弟子じゃしな」
(水魔法のほぼ最高クラスの攻撃を誇る水竜か……やはりミーナが魔法を極めれば使えるんじゃな……しかもこれだけ数か……骨が折れるのう)
体はミーナなのでソアレの時の様にアトラナナンタが体から出れば元に戻ると考えたので、直接攻撃を当てる訳にもいかないので攻められずにいるとアトラカンタが笑いながら先に仕掛けて来た。
「あは!この体には攻撃できないでしょ?この子、君の事が好きなんだって!」
水の竜がルディールに向かって一斉に攻撃を始め、数匹は距離を取り巨大な岩でさえ簡単切り裂く圧縮された水を打ち出し、数匹は何もかも飲み込む津波のように体当たりをしてきた。
流石のルディールもまともに食らえば只ではすまなかったので距離を取ろうとしたが、アトラナナンタ自身が魔法を唱えルディールに向かって雷を落とした。
「ちっ!ソアレの魔法まで使うか!」
「もう私の勝ちは確定してるからこのまま遊んであげてもいいんだけど、君自身の能力も真なる王の指輪もかなりの不安材料だからね!そろそろ決めてローレット王国を滅ぼさせてもらうよ!」
「やらせると思うか!」
「君の様な強者がいても勝てる見込みがあるから仕掛けたんだよ。ラフォールファボスを倒した時に魔王になっておけばこうはならなかったのにね。じゃあバイバイ。ルディール・ル・オント」
何か仕掛けてくる気配があったが防壁すら張っていないミーナの体に攻撃すれば簡単に壊れてしまうのは分かっていたので、ルディールは自身に最上級の防御魔法を展開した。
だがアトラカンタの何かを魔法を唱えると張った防御魔法が簡単に砕け散り、空間から白く美しい植物様な物が現れルディールに絡み付いた。
「この程度!」とルディールが叫びその蔦を引きちぎろうとしたが、絡みついた蔦の様な物はルディールを魔力を吸い取り自身の蔦の強度を増していった。
「絶対に切れないよ。その魔法は勇者と聖女が千年前に使った天使や悪魔の力を封じこめる魔法。対象の魔力が強ければ強いほどとれないよ」
「くっ!この!」
その話を聞いてルディールは残っている魔力を全て使用し一気に引きちぎろうろしたが……魔力自体を封印されているのか、まったく力がでなかった。
「頑張る分には止めないけど、魔王軍も千年前はそれでかなり苦戦を強いられたからね、その力の為に無茶をしてまで聖女を取り込みに言ったわけだよ」
そして藻掻くルディールに勝利を宣言しハンティアルケーツに一つ命令をする。
「ハンティアルケーツ。流石にこれで勝ちだと思うけど……君の魔法でさらにルディールを封じておいて。さっきの一瞬で他の魔神を瞬殺できる化け物だから完全に心が死ぬまではその体も指輪も奪えないと思うから」
「分かりました。アトラカナンタ様。クリスタルプリズン!」
ハンティアルケーツが魔法を唱えるとルディールを飲み込む様に巨大なクリスタルが現れ、まるで監獄の様に組みあがった。
「これでほぼ勝ち確かな?君が生きてる間は抜け出せない監獄……ハンティアルケーツはこれからルディールの監視をしてもらうけど絶対に余計な事をしないでね」
「お言葉ですが……聖花で封印され私の監獄でさらに拘束しましたから、生きる以外のことは出来ないかと」
「あはっ。言いたい事はよく分かるから質問に答えてあげよう。千年前もね人間とやりあった時に勝ちか確定する場面で油断して勇者と聖女の力が目覚めてさらに泥沼化したんだよ。だから絶対に余計な事をしないでね。これは命令だよ」
ハンティアルケーツは分かりましたと頭を下げ、アトラカナンタに次の行動を尋ねた。
「私はクリスタルプリズンの中に入り言われた通りあれを監視しますが……アトラカナンタ様は戦場へ戻りますか?」
「うん。ルディールがいないからもう勝ちだけど、これ以上、部下が減らないようにしておかないとね。寒い不安材料も来たっぽいからね」
絶対に余計な事をしないようにと念をおしてアトラカナンタはソアレから覚えた転移魔法を使いローレットへと戻った。
そしてアハンティアルケーツが自分の作った監獄の中に入るとルディールは聖花に拘束され身動きを封じられていたが、意識ははっきりとしていた。
「気分はどうかしら?」
「魔法が全く使えんし体にも力が入らんわい……魔法の方はこの白い花のせいじゃが……体の方はお主の魔法か?」
「ええ、私のクリスタルプリズンという魔法よ。この中に入った者は、簡単に言えば体の自由を失うわ」
「のう……ハンケツよ。初めて会った仲じゃしこの魔法を解く気はないか?」
「誰がハンケツよ!解く訳ないでしょ!解いた所で聖花が咲いているから貴女は何も出来ないわよ」
そう言ったが何とかこのクリスタルプリズンや聖花を破壊しようとするルディールに何故か興味というか懐かしい気持ちが湧いたので少し話かけた。
「ルディールと言うお名前だったわね。一つ聞きたいだけどいいかしら?」
「ここから出してくれるなら答えてやるぞ?」
「はいはい。貴女は上位も魔神を一瞬で倒せる力もあるし、真なる王の指輪の持ち主で本来なら次の魔王様でしょ?どうして人間の味方などしているの?」
「それはわらわは人間じゃしな……それにこっちの世界に来てからも色々と助けられたからのう。出来る範囲でのお返しじゃ」
「意味は分からないけど甘ちゃんと言う事かしら」
等と余裕がありそうにルディールは話していたが、実際、本当に余裕がなく指先一つ動かせる状況ではなかったので、動ける様になった時の為に目の前の魔神から少しでも情報を得ようと出来る範囲の事をしていた。
そして何も無い世界でしばらくハンティアルケーツと話していると唐突に彼女が外の世界を見たいかと言ってきた。
「もう人間側の敗北は決定よ。アトラカナンタ様には私から言ってあげるから貴女は魔王軍に下りなさい」
「それは嫌じゃが王都の様子と中央都市の様子は気になるから頼む」
「……なにかむかつく奴なんだけどそこまで気分が悪いものでも無いのよね」と言ってため息を大きく付いてから魔法を唱えると、の目の前の壁に王都の様子や中央都市の様子が映し出されその光景にルディールは言葉を無くした。
王都の城壁は大きく破壊されており、中に魔物が流れ込み始めていた。そして映像が切り替わる様に場面が変わるとリノセス夫人が夫と娘二人を庇う様に戦っていたが魔力も尽きた様でたっているのがセニアに支えられかろうじて立っている状態だった。
そしてまた切り替わるとリージュも護衛達と民間人を守る様に戦っていたが……数体の魔神に囲まれている。
次に場面が切り替わるとミューラッカが城門あたり全てを氷り付けにし、見えるだけでもかなりの数の魔神を守護竜と友に倒していたが、アトラカナンタが援軍に加わってからは押されているようでノーティアを庇いながらなんとか戦っていた。
ソアレ達、火食い鳥達の映像になったが動かないスティレとカーディフが写り、ルディールと戦った時の雷翼を生やした状態で巨大な狼と戦っていたが……ちょうど時間が来た様で元の姿に戻り尻尾を叩きつけられ決着した。
場所が中央都市に移りセルバンティスを映すとそこには粉々に破壊されたスプリガンが写っているだけでスナップやバルケ、スイベルの姿は確認出来なかった。
「どう分かった?貴女達の敗北は決まったでしょ。あきらめなさ……ひっ!」
王都や中央都市の映像を見せたことで今まで優しげだったルディールの表情が一変し何も出来ないとは分かっていたがハンティアルケーツは気圧された。
「脅かさないでよ……いくら凄んでも何もできないわよ」
そう言われた所でルディールが、はいそうですかと諦める訳もなく体に無理矢理力を込めなんとか脱出を図ろうとした。
だがルディールの意思に体と魔力は反応しなかった。
どうすればいいどうすればいい?と焦りながら考えていると真なる王の指輪が意思を持ったように光りだし、ルディールは指輪の中に眠る戦女神の指輪の事を思い出した。
(皆が皆、危険な力じゃというが……良くも悪くもこれしか状況を打破する方法は思い付かぬな……指輪よ。わらわはどうなってもいい、友人達や世話になった人達を守れるだけの力を)
そう願ってからルディールは今まで使う事の無かった戦女神の指輪の力を解放しその魔法を唱えた。
「
叫ぶ様に魔法を唱えると八つの門がルディールを囲む様に現れゆっくりとその扉が開かれた。
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