九章 知らない戦い

第162話 胎動

「スナップはわらわの右腕じゃからな」


「ルディール様……」


 二人がそう話す数時間前のこと……ルミディナ達が未来に帰ってから一週間ほどが過ぎ、ルディールはリベット村の自室で子供用の魔法を書いていた。


「地味に子供用に魔法を作る方が難しい気がするのう……」


 ルディールがそう言うとメイドのスナップが空になったカップにお紅茶を注ぎながら返事をする。


「子供の方が柔軟さがありますわ。思いもよらぬ使い方をしますから悩みますわね……それでどのような魔法を作ってあげたんですの?」


「うむ、大空のアコットじゃしな。雲を発生させたりする感じの魔法ならそこまで危なくないじゃろ」


「視界が悪くなりそうですから逃亡の際に使われそうですわね」


「それぐらいでリノセス家の戦闘メイドからは逃げられんじゃろ」


 等と話しているとマジックポストに何か届いたようで、スナップの妹のスイベルがルディールにそれを持って来た。


「ルディール様、ローレットの王女様からお手紙が届きました」


 なんじゃろな?と言ってからその手紙を受け取ると丁寧に封を切り読み始めた。


 その内容は魔界に行ったときの事と勇者の消息を聞きたいと言うものだった。ルディールも王女様やリージュに少し相談したい事があったのですぐに返事の手紙を書き始めた。


「一応、王女様に書くんじゃから無駄に丁寧に書いた方がええんじゃろか?拝啓なんたらかんたら、どうのこうの~みたいな感じで」


「一応ではなくれっきとした王女なので……丁寧に書いても問題無いとおもいますけど……かなり砕けた感じにその手紙も書かれていますのでご友人に出すような感じで良いとおもいますわ」


「今更じゃしな……くだけた感じでええじゃろな」


 ルディールはそう言って、いつでも良いから王女様の都合の良い時に行くからリージュを呼んでおいて欲しいと手紙に書きスイベルに渡すとマジックポストに丁寧に入れて来てくれた。


 そしてすぐに返事が返って来たのでスイベルがまた手紙を手に取りルディールに届けた。


「相変わらず行動がはやいのう……自分の部屋にマジックポストとかあるんじゃろか?危険物とか送り込まれたらどうするんじゃろな……」


 と少し呆れながら手紙を読むと、「じゃあ今からシュラブネル家に集合でお願いします!」と書かれていたのでルディールは大きくため息をつきスナップとスイベルにその手紙を見せた。


「こう見ると年相応の娘さんって感じですわ、では今から王都に向かいますの?」


「うむ、スナップとわらわで行くか。スイベルよ済まぬが留守番を頼んだぞ」


「分かりました。ルディール様、姉さん。お気を付けて」


 王都に行く予定が出来たのでルディールは先ほど書き終わったアコット用の魔法書を手に取りスナップと一緒に王都のリノセス家に転移した。


 そしていつもの様に呼び出し用のベルを鳴らすととても意外な人物が現れ、ルディールとスナップが見ても明らかに落ち込んでいるのが分かった。


「……あの~リノセス公爵どうしたんですか?」


 ルディールがそう尋ねると生気のない顔あげ理由を話し始めた。


「ああ……アコットの魔法書を破っただろ?」


「はい……その節はありがとうございました」


「それでな、残して置く方が危険だから燃やして証拠隠滅しようと、火を付けたタイミングでアコットが部屋に入って来てだな……それから口をきいてくれない」


 その事でルディールとスナップは言葉をなくしたが公爵は続きを話し始めた。


「今朝、ようやく話をしてくれたと思ったら何て言ったと思う?パパ……嫌いだぞ?俺はどうしたらいいんだ?数年ぶりにパパと言ってもらえたのに天国から地獄に落とされた気分だよ……」


 ルディールは心の中では平和じゃな……と思っていたがそれを日頃からお世話になっている公爵に言える訳でもないので優しく声をかけて、アイテムバッグの中から一冊の魔法書を取りだした。


「リノセス公爵こちらををどうぞ。今朝書き終わったアコット様用の新しい魔法書です」


「おお!これか!」


 ルディールがその魔法書を手渡すと目に生気が宿り、本を奪い取る用に受け取り天に掲げた。


「これがあれば!ルディールよありがとう!さっそく娘のご機嫌を取りに行く。セニアはミーナと遊びに行っているらしく、いないがゆっくりしていくといい」


 そう言ってスキップしながらリノセス公爵は部屋を出て行った。


「どこの親でも娘に嫌いと言われたら凹むんですのね……」


「ん?スナップもそういう経験ありか?」


 そう尋ねるとかなり呆れた様な表情をしてから思いだし、過去に一度言った事がありその時はショックのあまり大賢者ノイマンはエアエデンから飛び降りて大変だったと話した。


 そんな事を話ながらリノセス家を出て貴族達が多く住む地区を歩いてシュラブネル家に向かった。


「王都なんじゃがこの辺りはあまり人が歩いておらぬから変な感じじゃのう」


「身分の高い人が多くて家も多いですものね。移動は馬車を使うでしょうし……ルディール様が何かしでかして隠れるなら案外、良い場所かもしれませんわ」


「おぬしな……その時はエアエデンに隠れた方が安全じゃろう」


「それもそうですわね」


 そんな事を話しているとシュラブネル家の立派な門にたどり着いた。門の前には全身をフルプレートで固め、右手には大きな盾左手にはハルバートを持った屈強な門番がおり屋敷を守っていた。


「バルケやスティレの様な軽装もいいんじゃが……顔まで隠す重装備も格好いいのう!こう魔法を撃って地面が融解してもその程度か?とか言って歩いてくるんじゃぞ」


「それもありですわね。わたくしは……上からの攻撃を受けて地面が陥没しひび割れても、何かしたか?とか言ってもらいたいですわ」


 その話が聞こえていたようで門番達は絶対に無理と言う様な感じで首を左右にぶんぶんと振っていた。


 そしてその門番達に事情を説明するとリージュも王女もまだいないが話は伝わっていた様でどうぞと言い門を開けルディールとスナップを中に入れた。


 敷地内に入るとシュラブネル家の執事がルディール達を待ってくれており丁寧に頭を下げてから、こちらへと案内をしてくれた。


「王女様やリージュ様はまだ戻っていないんですよね?」ルディールが執事に尋ねるとリージュは王女に用事が有りローレット城にいると教えてくれた。


「じゃったら別に城に集合でええと思うが……まぁよく考えんでもわらわは身分的な物は何もないしのう」


「それもあるとは思いますけど……ルディール様の性格を考えての事だと思いますわ。王女様に城に来てくださいと言われても嫌というのでは?」


「……間違いなくそれが原因じゃな、そういえば何回か理由をつけて断っておったわい」


「でしたらそれが正解ですわね」


 庭園を歩いていくとあずまやの様な所に案内されるとリージュの母が静かに紅茶を飲み、静かに庭園を眺めていた。そして執事がリージュ様と王女様が到着されるまでここでお待ちくださいとルディールとスナップにも紅茶を用意した。


 ルディールはその事で色々と諦めシュラブネル夫人に頭を下げてから椅子に座った。


「えっと……ルディール様。リージュ様のお姉様ですか?たしか一人っ子だと思いますけど……」


「スナップも同じ事思うんじゃな……リージュのかーちゃんじゃな」


 ルディールがそう言うとスナップは何度も目をパチパチさせてから驚き、感心したように何度も夫人を見た後に自己紹介を始めた。


 そして夫人が話せない事も少し驚いたがルディールを通してなら会話が出来たので、スナップにも自己紹介を始めた。


 しばらく三人で話しているとようやくリージュと王女様が戻って来た様でシュラブネル夫人は屋敷に戻りますのでゆっくりしていってくださいと頭をさげ、迎えに来た馬車に乗り帰って行った。


「女性のわたくしが言うのも変な気もしますが……お美しい方ですわね」


「うむ、安心せい。わらわもそう思う。かーちゃんの方の遺伝子が勝っておったらリージュ無双じゃろうな」


「ルディール様……言いたい事は分かりますがここで言う事ではありませんわよ」


 スナップが呆れて主の失言をわびる為に執事の方を見ると、そのやり取りがツボにはまった様で笑うの我慢してぷるぷると少し震えていた。


 そしてようやくリージュと王女が到着し、先にリージュがルディールさんお待たせしましたと頭を下げた。


「急じゃったが……お主も城に用事があったのにすまなかったのう」


「いえ、私の方は急用というより、今度のテストの為の勉強を教えに行ったので大丈夫ですよ」


 くわしく話を聞くと勉強一割で残りは世間話のような物で、思い出したかの様にルディールに勇者の行方を尋ねねばと言い今に至ると話した。


「別にいいんじゃが……また赤点王女にならぬようにな」


「大丈夫ですもう魔法も使えますからね。余裕のヨーゼフですよ!ふふん」


 自分でフラグを踏んだな~とかルディールが考えているとリージュが執事に下がってもらい庭園にいるのが四人になったので、ルディールは魔界であった事やセルバンティスに聞いた勇者の行方などを話した。


 王女はその事を少し考えていたのでリージュがルディールに少し呆れて話かけた。


「あの~ルディールさん……相談してもらえるのは光栄なんですが、私達もまだ学生ですから国の偉い人に相談する方が良いとおもいますよ」


「いや、お主等はわらわより賢いし頭も柔らかいんじゃから、そんじょそこらの連中には負けておるまい。というかわらわがそう言った所で信じてもらえまい」


「そう言ってもらえると嬉しいですけど、リベット村の冒険者ギルドがもう完成するはずですからいっその事、冒険者になってみては?」


「あのな、リージュよ。冒険者になるとそこの王女に手足の様に仕事させられるんじゃぞ?有事の際とか毎回言って毎日働かさせるとかお断りじゃな」


 そういうと考え事が纏まった王女様が帰ってきて、分かってるならさっさと冒険者になりませんか?とため息をついた。


「まずはルディールさん、ローレットの王女としてもう一度礼を言います。ソアレさんの事や魔界の事など本当にありがとうございます」


「どういたしましてじゃな。それで王女様とリージュはどう思う?」とルディールが尋ねると先に王女が話し始めた。


「そうですね……私だったらこの混乱に乗じて仕掛けますね。ラフォールファボスという前の魔王の命令で氷都や樹都に攻撃を仕掛けて目がいっていますから……国内が少し手薄になっている所を仕掛けますかね?相手は魔神なので何をするか分かりませんが……」


 そういうとリージュも同じ考えだった様でルディールとまともに戦わずに、退かしたアトラカナンタの方がかなり厄介だと話した。


「直接、王都に仕掛けてくるかもしれませんね……ソアレさんの体は返して弱体化したとはいえソアレさんの魔法は使えるという話ですから……転移門を魔都から繋げて王都を直接攻撃を仕掛ける事も出来る訳ですから」


「やはりカナタン面倒くさいのう……となるとすぐに仕掛けてこぬのは何かあるんじゃろうな?」


 そう言って頭を抱えると王女がルディールを指さして、その何かの一つはルディールさんのおかげですよといった。


「魔界側もルディールさんが転移出来るのを知っていますから、人間界にいればすぐに飛んで来るというのも分かっているので負ける戦いはしない筈ですから……ルディールさんがいる限りはまともに仕掛けてこないとおもいますよ?」


「ん?~じゃが魔法無効化する狼の魔神とかもおったしのう。わらわもかなり苦労するとはおもうが……」


「私はルディールさんの強さを目の前であまり見てないので詳しく分かりませんが……ミューラッカ様を圧倒できるなら魔神にとっても災害みたいなものだと思います」


 王女が話すとリージュが付け加えるように尋ねた。


「と言う事はルディールさんをどうにかしてから仕掛けてくるという感じですか?」


「可能性ですけどね、同時に仕掛ける事もできるでしょうし……魔神も一枚岩では無いでしょうから捨て石で魔神をけしかけるかもしれませんしね」


「なるほどのう……やはり二人に相談してよかったわい」


 王女も良い情報をありがとうございますと頭を下げ、関係無いかも知れないがここ数週間で浮浪者やガラの悪い連中が数人消えたという情報が入っているので街の見回りの騎士達を増やすと話した。


「シュラブネル家でも護衛の人数を増やしたんですよ?ルディールさんが好きそうな門番さんがいませんでしたか?」


 リージュがそういうとルディールは紅茶を吹き出しそうになりよく分かっておるのうと言ってから少し休憩を挟み話を続けた。

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