八章 知らない魔界

第141話 消えた友人


 飛空艇にいるルディールの元にリージュから助けが入ったがすぐに切れたので妙な胸騒ぎを覚えたのでバルケとスナップをすぐに呼び寄せた。


「バルケ!スナップ!転移する!」


 ルディールは周りの目を気にせず転移魔法を唱えた。


(ウェルデニアに行くと言っておったから……公爵家相手に街では何も無いじゃろう……わらわが飛べるのはコピオン殿の家と合宿場と世界樹か……)


 使節団が魔物が多い世界樹や、カーディフの祖父の家に行く可能性は低いと考えルディールはスナップとバルケに、火食い鳥やリージュに何かあったとだけ伝え合宿場に飛んだ。


 ルディールの考えは正解だったが……その場所の光景に思わず息を飲んだ。


 どうやって倒したのかは分からないが数匹の魔物が死んでいた。スティレがリージュに似た女性を魔物から守る様に立ちはだかっていたが、意識は無く片腕片脚がちぎれ、剣を杖代わりになんとか立っているだけだった。


 二人を囲んだ魔物達が一斉に襲いかかろうとした瞬間に、ルディールの圧倒的な魔力がはじけ一瞬で魔物達を消滅させた。


 だがその怒気を含んだ魔力は仲間のバルケやスナップの皮膚を焼くほどの熱量があったのでスナップが「ルディール様!スティレ様達を殺すおつもりですか!」と叫びルディールの頬を叩いた。


 頬を叩かれた事でルディールは我に返り、すぐアイテムバッグの中からロードポーションを取りだし、一本はスナップに任せもう一本はもう一人の元へ持って走った。


「リージュ!」ルディールがそう叫んだが魔物にかじられ判別する物は髪の色でしか判別できなかったが、ルディールにはそれがリージュだと確証があったのですぐにロードポーションを飲ませた。


 だが意識か無いのか死んでいるのか、自分で飲み込める力は無かった。


 変わり果てた友人の姿に大声を上げ泣きそうになったがその気持ちを抑え込み、ルディールはロードポーションを口に含み口移しで数回に分け祈りながら無理矢理飲ませた。


 するとリージュの体が光り出し、無くなった部分は盛り上がる様にゆっくりと再生していき見慣れた友人の姿へと戻っていった。


 ルディールが恐る恐る確認すると小さくだが胸も上下に動いていたのでホッと安堵のため息をつき、アイテムバッグの中から何か掛ける物を取り出し体を隠す様に掛けておいた。


「スナップ!バルケ!スティレは大丈夫か!?」


 ルディールがそう叫ぶとスナップはその場にペタンと座り込んだが、バルケが大きく手を上げ「大丈夫だ!」と叫んだ。




 二人はまだ起きる気配は無かったが、周りにソアレやカーディフの姿が無かったのでルディールはすぐに行動を開始した。


「バルケ、スナップ。リージュとスティレをまかせたぞ!わらわはソアレとカーディフをさがす!」


 ルディールがそう叫び、羽を生やし宙に浮くとスナップから待ったがかかり、耳に手を当てスイベルに連絡を取った。


「スイベル聞こえますか!わたくしの位置を確認し、リノセス家にいる者以外は全て集まりなさい!緊急事態ですわ!」


 スイベルが転送されてくる間にルディールが先ほど事の礼を言った。


「スナップよさっきは止めてくれてありがとう……あまりの事に我を失いそうになったわ……」


「いえ、叩いて申し訳ありませんでしたわ……皆さんに何があったんですの?」


「さっきルー坊が消滅させた魔物ぐらいだと火食い鳥なら苦戦なんて絶対にしない……」


 冒険者であるバルケはスティレとリージュを襲っていた魔物に見覚えがあったのであの程度では苦戦しないと教えてくれていると、スナップの周りに七つの光が現れ、七人のスイベルがやって来た。


「すみません、少し遅れました。緊急と言う事ですがどうしましたか?」と一人のスイベルが代表して話し始めたのでスナップが分かる範囲で事情を説明しルディールに指示を仰いだ。


「わらわも事が事だけに冷静さを失っておると思うから間違えてそうなら遠慮無く言ってくれ。まずはリノセス家に残った一人が公爵か夫人に伝えてくれ、シュラブネル家の使節団が襲われたと、わらわは今からソアレやカーディフや他の人達を探す」


「わたくし達はどうします?」とスナップがルディールに尋ねた。


「バルケとスナップとスイベルはここでリージュとスティレを守ってやってくれ。襲撃した奴が来てもこの場所ならわらわもすぐ転移出来るからのう」


「残ったスイベルはどうしますか?ルディール様とは別に索敵に回しますか?」


 その事でルディールは少し考え襲撃者がいた場合はスイベルでは荷が重いので、一人に対し十匹ほどのシャドーラットをサポートに付けた。


「そこまで強くはないが、もしもの時はスイベルが逃げる時間ぐらいは稼げると思う」


「ありがとうございます。それとルディール様、通信用の魔道具を少し見せて頂けますか?」


 ルディールはかなり急いでいたが、スイベルの考えも聞きたかったので通信用魔道具をアイテムバッグの中から出し手渡した。


 スイベルは礼を言ってから左手にのせ右手をかざすと魔道具が少しだけ光りすぐにルディールに返し説明した。


「ルディール様、これで私と姉さんにはすぐ繋がりますし、私達からもルディール様に繋がる様にしておきました」


 スイベルはそう言って簡単にだが通信用魔道具はお父様が開発したのでこういう事も出来ると教えてくれた。


「うむ、ありがとう。わらわの方でも索敵魔法を広範囲に探ったが生物が多すぎて捉えきれぬ。使節団やその辺りの痕跡を任せたのじゃ」


 ルディールとスイベルは空に飛び上がりお互いが頷き、思い思いの方向へ飛んでいった。


 その光景を見ていたスナップは緊張の糸が切れその場に崩れ落ちそうになったがバルケが大丈夫か? と言ってその小さい体を支えた。


「済みません……バルケ様……火食い鳥の皆様が……ソアレ様が……カーディフ様が」と言い整った顔が涙で歪んでいったのでバルケは大丈夫だ。と言って自分の胸に抱き寄せた。





 ルディールはかなり上空から辺りを見下ろしたが戦闘後の様な物は確認できずにいた。


(火食い鳥と戦って戦闘の痕跡がないじゃと?……いや、スティレが身体強化魔法の五段階目を使用して逃げたとしたらもっと遠くか?)とルディールが悩み動きを止めていると、真なる王の指輪が自己主張する様に光った。


「……全然、冷静に考えられておらぬな。王達よありがとう」と指輪に頭を下げその名を叫んだ。


「運命の女神の導きよ!わらわを友の元へ導け!」


 指輪が光り、いつもの様に光の小さな女の子が出て来たが、ルディールの前で小さく手で×を作った。


「どういう事じゃ?……まさか死んでおるのか?」


 ルディールがそう尋ねると言葉は話せないようだがジェスチャーで何かを伝えようとしていたので個人の名で尋ねた。


 ソアレはどうじゃ?と尋ねると首を左右に振り、カーディフはと尋ねるとその方角を指さした。


「ならば先にカーディフじゃな!運命の女神よわらわをカーディフの所まで案内してくれ!そしてわがままを言って済まぬが最短でたのむ!」


 そう言うとルディールの体からかなりの量の魔力が消費され小さな女の子の背中に幾何学模様の羽っぽい物が現れ、指さした方向に向かって飛んだ。


 ルディールもすぐに女の子を追い飛ぶとリージュやスティレがいた場所よりかなり離れていた。


 (遠すぎぬか?身体強化魔法の五段階目はそこまで長い時間は持たぬぞ?)等と考えていると運命の女神が少し速度を落とし川に向かって飛んで行った。


 そして急流にさしかかると動きを止め、大きな岩を指さした。


 そこにはカーディフがおりその岩に引っかかる様に止まっていたので、ルディールはその名を叫びゆっくりと水から引き上げた。


 その体は一部が欠損し前に抱き抱えた時より遙かに軽かったが、胸は上下に微かに動いていたのでルディールはアイテムバッグの中から最後のロードポーションを取り出しカーディフに飲ませると無くなった部分もすぐに再生し綺麗な姿へと戻った。


 その姿を見てルディールはホッとし、もう一度運命の女神にソアレの行方を尋ねると、先ほどと同じ様に何かをジェスチャーしていた。


「その動きじゃと……人間……世界じゃから人間界か?」そう言うと合っていた様で頷いたのでルディールは続けて解読していった。


「いない……?……人間界にはいないか?」


 それが正解と大きく何度も首を上下に振ってから運命の女神は静かに消えていった。


「人間界にはいないじゃと?どう言う事じゃ?……じゃがいないだけだから生きてはおるんじゃよな?……ソアレよ、何処へ行ったんじゃ……」


 その問いに答える者はいなかったが、待っているスナップ達も気が気でないと思い、先にカーディフの無事を伝える事にした。


「スナップよ、そちらは大丈夫か?」


「はい。こちらは問題ありませんわ。ルディール様の方はどうでしたか?」その声は答えを求めてはいたが、聞きたくないとも聞こえる様だった。


「カーディフは無事じゃ。ソアレの方は人間界にはいないと指輪に教えてもらったがわらにも分からぬから一度そちらに戻る」


 そう聞いたスナップはルディールにも聞こえるほど、大きく息を吐き出しお待ちしておりますわと言ったので通話を切った。


 カーディフを背負い転移する為の魔法を唱えようとすると、カーディフがうなされながらルディ助けて、と言ったのでルディールは安心させる様にもう大丈夫だと答えると、穏やかな寝顔に戻った。


 スナップ達の所に戻って来るとカーディフに掛ける物を用意してくれていたので、ルディールはスティレの横に静かにカーディフを寝かせた。


「それで、ルディール様。先ほどの話ですが……」


「うむ、それなんじゃが……お主と前に海底で幽船の御霊を探す時に使用した魔法があるじゃろ?」


「あの小さな女の子が出てくる魔法ですわよね?」


「うむ。あの子が言うには人間界にはおらぬらしい……じゃが死んでおる感じもせんかったのう。希望的観測かも知れぬが……」


「何処に行ったんだろうな?」


 ルディール達がそう悩んでいるとスナップ達と残ったスイベルが無人の馬車や戦闘跡や矢が刺さった遺体などを発見したと言った。


「どうする?ルー坊、確認しにいくか?」


「痕跡を確認もしたいが……まずはリージュ達を避難させたいのう」


「ですわよね……」


 その事で少し悩んでいるとスイベルがリノセス公爵と連絡が付きましたと言い、リノセス公爵から一度、王都のリノセス家まで来て欲しいと言われたとルディール達に伝えた。


「分かった。スイベル、捜索に出ているお主達は一度エアエデンとわらわの家に戻るのじゃ」


「私達なら替えはききますのでその場に待機できますが?」


「その方が効率は良いかも知れぬが……わらわが耐えられぬ。お願いじゃから戻っておいてくれ」


「分かりました。すぐに情報を共有させておくので誰か一人でも連れて行けば分かる様にしておきます」


 そう言ってスイベルは一人を残してエアエデンに帰還しルディールはリージュを背負い、スティレとカーディフをスナップとバルケが背負い王都のリノセス家に向かった。

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