第130話 鉱都ヘルテン

 雲の無い空を緩やかに飛空艇が飛び、とても綺麗な歌声が流れていたがその内容はとてもひどかった……


「はじめてーのチュウ~。君とチュウ~。デュフフ。毎日~オーマイガッ!」


「ルディール様ぶっ殺しますわよ!と言うより本当はどっちなんですの……」


「頼む。ルー坊どっちか教えてくれ……」


 ルディールが飛空艇に乗った時にスナップとバルケをからかったせいで二人は微妙に悩んでいた。


「戻ったらアバランチの隊長殿に聞けばよかろう」


「お前な……あいつの性格を知ってて言ってるだろ」


「からかわれるに決まっていますわ!」


「さてとあまりからかってもあれじゃし、この話はこれで仕舞いじゃな」


 バルケとスナップが仕舞わないで!と言ったがルディールはそれを無視して大地を眺めていた。


「一日ぐらいで着くと言っておったのう……それはそうとスノーベインからヘルテンまで飛んでおるじゃろ?今の所見える大地は雪と山と魔物ぐらいしか無いんじゃが……徒歩とか馬車で行けるものなのか?」


 飛空艇から見える景色は本当に雪か山ばかりで、たまに巨大な生き物が歩いたり飛んだりしているぐらいだった。


「上から見ればほとんど見えないが、洞窟のような場所に村がいくつかあるからな。険しい事に変わりは無いが行けない事はないぞ。俺も若い頃にスノーベインからヘルテンまで徒歩で行った事あるしな」


「前から思っておったんじゃがバルケは色々と行っておるのう」


「冒険したくて冒険者をやってるからあっちこっち行ってるぞ。まぁ金がかかるから護衛や傭兵まがいの仕事もするけどな」


「この辺りの魔物はどんな感じなんじゃ?凶悪なのとか多いのか?」


「好き好んで人間を襲う奴はいねーな基本的に火が嫌いだし。後、飛空艇から見てもわかると思うが大型種が多いから人間を2~3人食った所で腹が膨れる訳でもないから、つえーのは多いがそこまで驚異じゃねーな」


 バルケの説明を聞きながら足下に広がる山脈を見て時折出てくる大型の魔物の説明を聞きつつゆっくりと飛空艇は目的地へと向かっている。


 そして思い出したかの様にルディールがバルケとスナップに話しかけた。


「少し前にお主等と火食い鳥達と模擬戦したじゃろ?わらわの近接戦闘はどうじゃった?」


 ルディールがそう尋ねると俺達をボコボコにした奴がいう台詞か……とため息をついたが少し考えてから意見をくれた。


「そうだな~全体的に大技が多いな。ルー坊ぐらい身体能力高いなら手数で押しても相手は倒せるから大技は狙わなくていいかな?とは思うがそれが持ち味っていえば持ち味だしな」


「ですわね。ルディール様が魔法を使う時の感じで良いと思いますわ。弱めの魔法も使ってますし」


「火食い鳥のスティレとおんなじ様な感じになってるな。身体能力や目が良すぎて、見た物ばかりに反応してしまうから俺とかスナッポンの攻撃が入るんだよな、かといってルー坊の本来の魔法戦で戦われると俺達じゃ何もできねーし」


「そもそもルディール様はどうして接近戦をされるんですの?憧れている方々が接近戦の達人だとおっしゃっていましたが……」


「うむ。最後は肉弾戦じゃからなと言うのもあるが……わらわがおった世界じゃと魔法無効化とかそういう魔神とか魔物がおったからのう。こっちの世界にもいるかと思ってな」


「へぇ~そんなのまでいるんだな。魔法使いの天敵だな。基本的に雷光みたいな魔法がメインで戦う奴が魔法使いっていうからな~」


「ルディール様のように接近しつつ魔法で戦うのは何て言うんですの?」


「魔法剣士か……モンクか?何かぱっとしねーな……殴り魔女とかでいいんじゃね?」


「雑じゃな!もっと格好いいのがあるじゃろ!魔拳闘士とか!」


「それだと魔法を使う拳闘士になるぞ?ルー坊は蹴る殴る投げるの魔法使いだろ?」


 そんな感じの会話をしたり戦闘の事などを相談して時間を潰してようやく日が変わり、太陽が真上に来る頃にようやく大地に空いた大穴が見えて来た。


「ぬ?あの大穴が鉱都ヘルテンか?本に書いてあった通りじゃな。思った以上に穴は大きいのう」


 その大穴の真ん中に鉱都ヘルテンがあり大穴の崖の部分にもドワーフや人が岩を削り、木を植え住居にして暮らしていた。


 そしてその崖の部分に大きく作られた飛空艇の発着場があり、ゆっくりと崖に近づいて行き船が接岸するように止まった。


 そして防風の魔法がかけられた橋がかけられ、ルディール達とスノーベインからの使者はゆっくりと降りていった。


 ルディール達が発着場のロビーでこれからの事を話し合っているとスノーベインの使者達が話しかけてきた。


「ルディール様達は帰りはどうされますか?遅くても明日の朝には我々はスノーベインに戻りますが……」


 ルディールが疲れた表情で今初めて見る顔なのに、わらわの事知っておるんじゃと尋ねると、アバランチの隊長と似た様な事を言われたので諦め、わらわ達は自分達で帰るから大丈夫だと伝えた。


「分かりました。お時間に都合が付きましたらまたスノーベインにお越しください。ミューラッカ様も喜びますので」


「……行く度に攻撃されておるのに喜んでおるんじゃろうか?」とルディールが言うと後ろからスナップがボソッと変な事を言うルディール様も悪いですわと言っていた。


「攻撃されるのはミューラッカ様の照れ隠しだとお思いください」


「物騒な照れ隠しじゃな……」


 それから少し世間話をしてバルケにも「バルケ様もミューラッカ様に会いに来てあげてくださいね」と行ってロビーから出て行った。


「さてとわらわ達も宿を探さぬとだめじゃな」とルディールが言うとバルケがルー坊はそういうのあまり聞かないよな?と言ってきた。


「ん~気になると言えば気になるが聞いた所で、お主やミューミューへの見方が変わる訳でもないからの~。まぁバルケがミューミューを子供の時に襲ってあんな性格になったとかなら流石に海に沈めるがのう」


「しねーよ!」


「じゃったら別にええわい。大方の予想は付くが……良い男も良い女も少しは謎があるもんじゃぞ。わらわの様にな!」


 二人にあーはいはいと言われ流され、スナップがバルケを上から下まで見て言った。


「バルケ様が良い男というにはもう少し頑張らないとだめですわね」


「スナッポン知ってるか?世の中にはブーメランって物があって投げたら帰ってくるんだぞ」


「どういう意味ですの!?」とロビーで口論になりそうだったのでルディールは二人を連れ宿を探した。


 ロビー外に出ると崖の部分にも家や店があり中央を見下ろすと金属で作られ蒸気をだす大きな城が見えた。


「木や植物ほとんど無いがこの金属や油の匂いがまた良いのう!」


 ルディールが感想を述べていると女はそう言うの嫌がるのにルー坊は変わっているなと言っていた。


「バルケ的にはどの辺りで宿を探すのがおすすめなんじゃ?」


「そうだなー。崖の方が景色はいいし安いが少し作りが雑な宿が多くて、中央に行くほど高くはなるがいい宿が多いな。ローレットの王都や中央都市の高級な宿に比べるとかなり安いぞ。俺はそこまで高い所には泊まらないからなんとも言えないけどな」


「なるほどのう。じゃったら一週間ぐらいは居るつもりじゃし、先に崖の方に泊まって後から中央の方に泊まるのもありじゃな」


 そういうとバルケがどんな感じのがいいのかと尋ねてきたので、すこし高くても良いから景色が良く治安がよい所とリクエストを出すと、分かったと行って歩き始めたのでルディール達も後を追った。


 何カ所か宿に行ってみようと言う話になったので街中をゆっくり観光しながら辺りを見ているとローレットより遙かに多種多様な人や魔族が生活をしていた。


「……う~ん?もしかして結構あぶない場所じゃったりするか?」


「ローレットやウェルデニアに比べれば危ない所かもな。ってよく分かったな?」


「そりゃ、わかるじゃろ。お主もスナップも若干警戒しておるし、大きい声では言えぬが悪魔族やこの感じ的に魔神族までおるからのう」


「まぁな、ここで話すのもあれだし宿を見つけてから話すか」


「うむ、それで良いぞ」


 宿を回っているとルディールのお目にかかる宿があったのでそこでバルケのとスナップの分も一緒に支払い泊まる事にした。


「スノーベインと同じようにバルケとスナップが同じ部屋でわらわが一人でよいか?流石に三人同じ部屋はまずかろう」


「さらっと過去を改変すんなですわ!」


 バルケは無視する事を決めたようでルディールにこんな高い部屋代まで出してもらって良かったのかと尋ねた。


「うむ、ええじゃろ。わらわはヘルテンの事は全然知らぬからの案内料と情報料と思っておくと良いぞ。というかお主がわらわに今更遠慮などするではないわ」


「わかったよ、だが礼ぐらいは言わせてくれ。ありがとよ」


「どういたしましてじゃな。ではわらわ達の部屋で先ほどの話をするか?」とルディールが言うとバルケは自分の部屋をチェックしてから行くと言って一旦分かれた。


 ルディールがスナップと部屋に入ると値段は確かに王都の宿に比べれば安かったが素人のルディールに違いが分かるわけもなく十分に豪華な良い部屋だった。


「宿の人が荷物とか運んでくれんぐらいじゃろな?良い部屋じゃと思うがのう」


「わたくしも十分良い部屋だと思いますわ。外の音がうるさい訳でも無いですし、冷蔵庫の飲み物は飲んでも良い様ですし……景色もよいですわね」


 と言って部屋の中の感想を言っているとドアをノックする音がしてバルケが入ってきた。


 そしてスナップが全員分の飲み物を入れテーブルを囲むように座り話し始めた。


「それでさっきの話なんだがな」


「敵意とかそういうのは無いと思うんじゃがな~」


 鉱都ヘルテンは魔界と繋がっておりローレットの様な角狩り信仰があるわけでも無いので魔界から来た魔族がそれなりにいると話した。


 魔族は確かに交戦的なのも多いが人と変わらず平穏を望んでいる者を多く、そういう魔族達がドワーフの国に来たりしているらしい。


「ほーすごいもんじゃな。それでスノーベインとヘルテンは友好国なんじゃな」


「ああ、ミューミューもそうだが基本的にスノーベインの女王には魔神族というか魔族の血が入っているって話だからな」


 その事がありローレットは魔族を少し毛嫌いしているのでヘルテンとは仲が良い訳でもなく悪い訳でもなくお互いにあまり関わらないスタンスを現状は取っていた。


「それは良いのですけどかなりお強い方も普通に歩いておられましたが危なくは無いんですの?」


「大昔は結構あったみたいだけどな、通行禁止にして困るのはお互い様だからドワーフも魔族もおとなしくしてるんだろうな。俺もちょくちょくヘルテンに来るがローレットと変わらないぐらい平和だしな」


「という事は魔族がおるから人の観光客が少ないから安いんじゃろな。お主達より強いのが普通に歩いておったら確かに怖いのう」


 ルディールがそう言うとバルケとスナップがお前が言うなという顔を思いっきりしていた……


「まぁかなり強そうなのが普通に歩いていたりするが、悪さをするような事はないから特に気をつける事はねーかな?何か有った時にはすぐ反応しないとダメだけどな」


「王都と対して変わらん感じじゃな。あそこも普通にSランクとかAランククラスの人間が歩いておるしのう……仕方が無いことじゃが外見の事もあるんじゃろうな」


 そう言って窓から外を見ると人からすれば確かに嫌悪感を抱きそうな悪魔達が歩いていたり、屋台で何か食べていたりしていた。


「ルー坊って結構そういうの大丈夫なのか?カタコンベの地下施設の時はダメっぽかったが」


「あれは別じゃろ……お主は言わんでも分かっておると思うがわらわは魔神族じゃからな~もしかしたら人より悪魔とかに近いかもしれんのう」


「ミューミューも魔神族だしな。探せばローレットにもいるから気にしなくていいぞ、人間からしたら魔人と魔神なんて区別つかねーからな」


「蝶と蛾みたいなもんじゃしな」


「ルディール様ご自分の事ですから、もう少し良い様に言ってくださいですわ……」


 それからバルケの知っている情報を元に話を詰めていきローレットや他の街と変わらないという結論に至った。


「相手の見た目が怖いだけでこちらから喧嘩を売らない。スリには気をつける。他なんじゃ?」


「目立たない様にする?」


「困ってる人がいたら助けるぐらいですわね?」


 ルディールがミューラッカはヘルテンには来れぬなと失礼な事を考えていると、スナップがバルケにヘルテンでの予定を尋ねていた。


 ルディールもその話を聞いていると今日は少しゆっくりするが明日は中央にあるよく行く鍛冶屋に行くと言っていた。


「……よし、面白そうな気配がするからわらわ達も同行してよいか?」


「おう、別にいいが武器とか鍛冶屋とか行くだけだぞってルー坊そういうの好きだったな」


「良かったですわね。バルケ様、両手に花と言うヤツですわ」


「どっちかというと珍獣使いの気分だな……」


「ぶっ殺しますわよ!ルディール様!何か言ってやってくださいですわ」


 スナップがそう言うとルディールは後で吠え面をかくのはどっちなんじゃろな?と笑っていた。


 その日は本屋に行って地図などを買ったりまた大量に本を買い店主に驚かれたりしたり、夕食代をバルケが出してくれたり三人で酒場で盛り上がったりして過ぎようとした時に通信魔道具が鳴った。


「……ルディールさん。すみませんリージュさんに勝つ方法ないですか?」


「いいんじゃが結構しょうもない事でかけてくるのう……なにか、んーんー聞こえるがどうしたんじゃ?」


「……はい。口喧嘩で負けたのでスカートめくって頭の上で結んでおきま……」


 ゴツン!と音がしてソアレの話が途中で途切れる……


「あんたは大公爵の娘に何やってんのよ!あールディ?ちょっとソアレを怒るから切るわね」


「うっうむ……」


 ルディールが思っている以上に異世界は平和だった。

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