第126話 角付きと雷光
ルディールが最後のお風呂から上がると今日の特訓で疲れたミーナ達学生はすでに寝たとスナップから教えてもらった。
「流石に装備無し魔法無しでもAランクPTのリーダーとの戦闘だから疲れたんじゃろな」
「……ちなみにスティレももう寝ましたね」
「まぁ、ミーナちゃんもセニアちゃんも思った以上に動けてるから、余裕なかったのかもな~」
「魔法剣士だし魔法使わなかったら剣士以下だしね。そもそも剣士としての技能は高くないって自分で言ってるし」
食堂でスイベルにつまみを作ってもらい冒険者組とルディールは酒をのみつつ世間話をしていた。
食堂の窓から外を見るとアコットとリノセス夫人はまだ起きていて、外に置いてある無駄に光るマジックポストに集まった虫を捕まえているようだった。
「明日か明後日にはミーナちゃん達が勝ちそうだな」とバルケが言うとスティレと同じメンバーのソアレとカーディフも同じ意見だったようで頷いた。
「……少し油断していますからね、勝つなら明日です」
「そうじゃな、スティレも考えて戦うじゃろうから難しい所じゃが……カーディフが戦っても良さそうじゃな」
「行っても良いけど学生ってアーチャーいるのかしら?ソアレが行っても良さそうだけど……手加減しなさそうだし」
「……ちゃんと手加減しますよ」
「そういや、雷光もリージュって娘と戦っていたが、どうだった?」
バルケがそう尋ねると不本意ですがと言ってからソアレが答える。
「合宿の時に少し見ていましたし戦っても思いましたが戦えてますね。魔法自体もそうですが駆け引きが本当に上手いです。絶対にああなって欲しくはないですが、セニアはリージュさんを見習って自分の得意分野で戦う事を覚えて欲しいですね。まぁ火食い鳥全員に言える事ですが……」
「お主、かなり煽られておったからのう……」
「話しかけられるとそちらに少し意識が向くので、そこを狙って来るような戦い方をしますからね奴は!ネクラマンサーとか向いてるんじゃないですか?」と昼間の戦闘の事を思い出し少しだけ怒っていた。
「私から言えばソアレを引きずり込んだ庭の主の方が気になるんだけどね……」
カーディフがジト目で主の方を見たがルディールは鳴らない口笛を吹きながら誤魔化していた。
それから少し話をしていると寝てしまったアコットを背負ったリノセス夫人が帰っていき、アコットをベッドに寝かせてから夫人も飲みに来たので日付が変わるぐらいまで飲み明かしそこで解散となりルディールは部屋へと戻った。
まだ眠れなかったので本を読んだりしているとドアがノックされ、開けるとそこには真面目な顔をしたソアレがいた。
「ん?夜這いに来ましたとか言いおったら追い返すが……そうでも無い感じじゃな」
「……ご期待に添えずすみません」
ソアレを部屋に入れハーブティーを入れてあげてソアレが話し始めるのをルディールは待った。
「ルディールさん、正直かなり焦ってます」と言ってからソアレは話し始めた。
「わらわは新しいタイプの人間では無いからちゃんと言わぬとわからぬぞ」
「……今の調子だとスティレやカーディフについて行けなくなりそうです」
「それは無いじゃろ?お主は単独Aまで言ったんじゃろ?PTとしてもAランクでやっていけておるみたいじゃし……う~ん」
「ルディールさんにちょくちょく魔法を教えてもらっていますが……カーディフやスティレほど爆発的に私は伸びていません、少し便利になった程度です」
「ソアレよ、それは絶対に気のせいじゃ。カーディフも望遠の魔法で虫の魔神に攻撃したが通じてなかったぞ?お主達はミューラッカと戦ったんじゃろ、どうじゃった?」
「……スティレだけルディールさんに教えてもらった身体強化の魔法を少しアレンジして攻撃が通りましたが私は全くだめでしたね……」
「と言う事は火食い鳥じゃとスティレが攻撃だけならトップという感じか……ミューラッカにダメージは通るのに条件が変わると学生程度に善戦か~振り幅がひどいのう……じゃったらお主は大丈夫じゃろ」
「……そうですか?」
「ソアレは調子が良いとか悪いとかほとんどないじゃろ?」
ルディールがそう言うと少し考えてから「そういうのはあまりないですね」とソアレは答えた。
「そこはお主の超強みじゃぞ。調子が良い時の仲間には劣るかも知れぬが悪い時はお主が支えてやれるんじゃからな。というかお主、わらわに自分を低く見積もりすぎと言っておらなかったか?今のお主ならカーディフとスティレと同時に戦っても勝てるわい」
「さすがにそれはないでしょう……」
「近距離でバルケ、中距離でスナップ、遠距離でソアレじゃぞ。その二人と並べられる辺りにおる事を忘れてはだめじゃな」
ルディールがそう言うとソアレは何か言おうとしたが言えずに黙ってしまった。
「じゃが雷光のソアレが本気を出せるのはやっぱり火食い鳥じゃと思うから、あまり思い詰めんようにな親友」
「……なるほど、いつのまにかルディールさんの親友になっていましたか」
「なんじゃい、嫌じゃったか?」
「嬉しさで涙ちょちょぎれそうですね」と前に聞いた事のあるような台詞を言い二人で笑い合った。
そしてルディールはおもむろに立ち上がり部屋に置いてあるアイテムボックスを漁りだし、ソアレは静かにその光景を眺めていた。
そしてルディールは目的の物を見つけた様で綺麗に畳んであったローブのような物をソアレに手渡した。
「ルディールさんこれは?」
「悩んでおるし魔神の事もあるから罰は当たるまい……戦力強化じゃな。ソアレの方が上手く使えるだろうからそれをやろう」
ルディールがそう言うとソアレは鑑定の魔法を唱えそのローブを調べた。
「……あの~ルディールさん?……やった!ルーちゃんありがとう!って言えるレベルの装備ではないのですが?」
「うむ。今でも使おうと思えば使えるからのう。今の所わらわの装備はいつも着てるので完成しておるから、いらないと言うなら返してもらうが返してもらった所でタンスの肥やしじゃな。ミーナ達にはまだまだ早い装備じゃしな」
ルディールがソアレに渡したローブは雷喝のローブという名前でルディールが装備している物に比べれば少し劣るが、それでもソアレが装備している物に比べれば遙かに高性能だった。
「……魔法発動短縮、消費魔力軽減などなど……えげつないですね」
「金さえ積めば出来ない事もないじゃろ?」
「……そうですねBランクだと一生かかっても払えない額がかかりそうです。オリハルコンの金属糸ですし……このカウンターマジックとは何でしょう?」
「雷喝のローブの本領じゃな、魔力がないと発動せぬが遠距離攻撃を受けると自動で反撃し相手に雷を落とすぞ、近距離は発動せんがな」
ソアレはその場で着替え始め雷喝のローブを装備しルディールの前でクルッと一回転しどうですか? と感想を求めた。
「お主、わらわがメイド服着た時に感想を言ったか?」
「…………似合いすぎていて言葉を忘れたと言う事にしておいてください親友」
「調子のよい奴め。わらわが着るよりは遙かに似合っておるから安心するとよいわい」
ルディールに丁寧に礼を言い、ソアレはまた部屋着に着替え少し冷めたハーブティーを飲み夜も更けていった。
追い返す訳にも行かなかったのでそのままソアレと一緒に寝て朝を迎えると、頬を突かれルディールは目覚めた。
「おはようございます、昨日はありがとうございました」
「どういたしましてじゃな……というか頬を突くでない」
などと話ながらルディールはいつもの服に着替えソアレは昨日もらったローブに着替え食堂に向かった。
朝も早かったので食堂には誰もいなかったが、キッチンではデスコックが朝食をつくっており、コボルト達が皿洗いや床掃除をしていた。ルディールとソアレはイスに座り今日の事を話し合っているとスイベルが降りてきて挨拶をした。
「ルディール様、ソアレ様おはようございます。本日のご予定は?」
「ソアレもおるし魔法開発でもしようかと考えておるんじゃが考え中じゃな」
「……どんな魔法ですか?広範囲殲滅魔法ですか?よい的(リージュ)もいるので是非作りましょう」
「作らぬわ!と言うかわらわが使う魔法はそっち系ばかりじゃぞ……それは良いが、離れていても連絡が出来る様な魔法か何かを作ろうと思ってのう」
「……合宿で借りた通信の魔道具のようなのですか?各国が一応作っていると言う話ですが現状はイマイチなようですね」
「マジックポストが優秀すぎて発展しておらんのじゃろな。小さな荷物とかなら送れるしのう」
「……使える人は少ないですが転移魔法もありますからね」
「魔法開発は無理でも通信用の魔道具は欲しいのう」
ルディールがそう悩むとソアレが現存している通信器具は大賢者ノイマンが作り出し壊れたら修理して使っていると教えてくれた。
「お父様が設計図を見せたが理解出来なかったと言っていました、あと大きくはありませんが戦争があり消失したとも言っていました」
そう言ってから少しお待ちくださいとスイベルが言い、エアエデンに残っているスイベル達に連絡し宝物庫を探しはじめた。
ルディールが朝食を食べながら待っているとスイベルの隣にもう一人のスイベルが転送され、テーブルの上に通信魔道具の様な物と工具を置いて戻っていき、元からいたスイベルが説明を始めた。
「壊れていますが中をみれば構造が分かると思います。私も姉さんも直せると思いますがどうしますか?」
「いや、これをバラして参考にしながら開発じゃな。スイベルよありがとう」
「いえ、ご期待に添えられてよかったです」と頭をさげた。
「と言う事でルディールさんは本日はミーナ達の修行をみながら魔法開発じゃな」
「分かりました。私も万年二位の女をぼこってからお手伝いします」
「ルディール様は、午前中は子供達の授業の日ですよ?」
スイベルがそう言うとルディールは忘れておったと言ってから文句を言い出した。
「村の子供達だけの時なら今日は面倒くさいから休み!と張り紙を出しておくだけでよかったのにのう……」
その言葉通り中央都市からもルディール魔法授業の前は泊まりで来る子供達もおり、始めた時よりは少し面倒な事になっていた。
「中央都市やスノーベインにも学校あるのに……アイスブロックとリベット村は無いから分かるんじゃが……」
等と話しているとミーナ達や冒険者組も起きて来て、静かだった食堂がかなり賑やかになった。
朝食を食べ終わりミーナがセニアとリージュと村を見て回ると言って出かけ、ルディールは授業の為に図書館へ向かう所でリノセス夫人とアコットとソアレが着いて来た。
「アコットよ、勉強するんじゃぞ?休みの時は無理に勉強しなくていいんじゃぞ?」
「るーちゃんの授業ならだいじょうぶ」
娘の仕草をニコニコしてみている夫人に変なプレッシャーをかけられながらルディールの空き部屋まで向かった。
次々に子供達が集まってきて、ルディールに挨拶をし何故かミーナ達やソアレも席に着き授業がはじまった。
一人の生徒が今日は何をするのですかと尋ねたので外で実際に魔法を使うと言って教卓の上に全ての属性が書かれた羊皮紙を用意し好きな属性を取ってもらい子供達と外に出た。
「わらわがかなり頑張って怪我しないような魔法を作ったから、それでしばらく攻撃魔法に慣れるとよいぞ、転んで怪我したら治してやるから楽しんでくるのじゃ」
ルディールがそう言うと子供達はぞれぞれに羊皮紙に書かれた魔法を唱えると、火、水、風、土、大地、海、空、光、闇、の属性の球体を作り出しそれを木に向かって撃ったり、友達同士で戦ったりし始めた。
「アコットもなじんでいるようじゃな~」と感想をいっているとソアレが話しかけてきた。
「簡単そうに見えて超高度な魔法やめてもらえませんか?」
「魔眼でみたか……」
「魔力が無い子がいますからどうやって使っているのか気になりますからね」
「うむ、アコット用の飛ぶ魔法を作った時に自分の魔力を使わずに辺りを漂ってる魔力を使う方法を思いついたからのう。無駄という無駄をそぎ落としたからかなり少ない魔力で発動すっぶふっ!」
言い終える前にルディールの顔面に水球が飛んで来たのでその方向を向くと、村の勇者様ご一行がいた。
「魔王かくご!」
「……魔王の力、見せてやろう!クリスタルビット!オールレンジ攻撃!」
ルディールは自身の周りに大人げなく大量のクリスタルビットを出現させ子供達が使っている魔法で勇者達に攻撃を開始した。そのままミーナやソアレも巻き込み授業終了までその調子だった……
「ルディールさん、中央都市か王都で教師やりません?」と昼食中にリノセス夫人が唐突に言ってきた。
「やりません」
「子供のレベルに合わせて教えても大丈夫な範囲で教えているので向いていると思うので是非やりましょう、アコットの専属の先生でもいいですよ?」
「アコットには優秀な家庭教師さんがいるので大丈夫です」
リノセス夫人の勧誘を断りながら昼食を取り終わり午後からルディール達はまた庭で模擬戦を始めた。
「……さてそこの万年二位の女、かかって来なさい」とソアレがリージュを指名した。
「あの~ルディールさん……何か言ってやってくれませんか?」
「ん?昨日の雪辱を果たしたいんじゃろ……ミーナ達も勉強になるじゃろうからリージュがよほど嫌で無い限り相手をしてやってもよいぞ」
ルディールがそう言うと仕方ありませんねと言ってリージュがソアレの前に立った。
「さて、万年二位の女が相手をして上げましょう。モブ子さん」
「……ふふふ、グレードアップした私の前でよくそん事が言えますね。謝っても許すことは無いので覚悟してください」
そう言って手加減して魔法を唱えたが、ルディールにもらった雷喝のローブのおかげで威力、速度と供に上昇しリージュを狙ったがかなり逸れルディールの家の窓を突き破り食堂辺りに着弾し爆発した。
そして中から包丁を持ったデスコックが現れた……
「……まさかリージュが二勝するとは思わなかったのう」
「私も思いませんでした……」
ルディールとリージュが話しているとスティレとミーナとセニアの戦いが始まった。
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