第119話 殴る蹴るのバトル
虫の魔神イオスディシアンはいつでも戦闘に入れる態勢をとっておりルディールを待っていた。
「そこの二人のエルフとかかってくるがいい!全力で潰してやろう」
そう言ったが、ルディールは相変わらずいつも通りなので、イオスディシアンに友人達と相談するから少し待てと言いカーディフとコピオンに話しかけた。
「アンタは相変わらず緊張感がないわね……で?どうするの?」
「わらわがいた所のイオスディシアンとこっちのイオスディシアンは別物っぽいが勝てるとは思うが……」
ルディールが言葉に詰まったのでコピオンが尋ねた。
「何か問題があるのか?」
「うむ、コピオン殿は見た事がないと思うが狭間の世界で戦おうと思っておるんじゃが……スノーベインで守護竜に少し忠告されたからどうしようかと思ってのう」
「じゃあ、ここで戦ったら?」
「相手は魔神じゃからな……この辺り一帯の地形が変わったら嫌じゃし、ウェルデニアに近いから流れ弾の被害が怖いからのう」
「距離あるから大丈夫そうだけどね?」
「大丈夫とは思うが深樹の虫たちが浅い所に出て来たのはあやつのせいじゃろ。わらわが思っておるよりはかなり強いんじゃろうな」
ルディールは そう言って狭間の魔導士の祝福を目覚めさせ、まずはイオスディシアンを飲み込ませ続いて自身とカーディフ達を狭間の世界へと飛んだ。
白と黒と灰色の世界に出るとその世界を知っているイオスディシアンの顔は驚愕に染まっており明らかに動揺していた。
「狭間の世界だと!どういう事だ!なぜお前がこの世界に来られる」
「お主が勝ったらわらわに給料くれるんじゃろ?その時に聞けば良かろう」
「……わかった。全て語ってもらうぞ角付き」
そう言ってお互いの視線が交差した瞬間にイオスディシアンが距離を取り、先ほど同じように虫を呼び寄せたが、その種類は一つでは無く数種類いた。
「ルディ!私達はどうしたらいいの!」
「うむ!任せてくれと言いたい所じゃが見た事がない虫の方が多い、わらわはイオスディシアンを狙いにいくが仕留め損なったのは頼む!」
「分かったわ!」
ルディールはクリスタルビットを数個ほど召喚しカーディフのサポートに付け、コピオンはいつの間にか障害物に潜んだようで、どこにいるか分からなくなっていた。
そして本格的に戦闘が始まり大量の虫がルディール達に襲いかかってきた。
「さて角付き、貴様と接近戦をするほど命知らずではないからな、距離を取らせてもらう!卑怯とは言わせんよ」
「うむ、ぜんぜん良いが……接近戦の方がたぶん楽じゃぞ?」
「何を……」
イオスディシアンが言い終わる前にルディールはカーディフ達を巻き込まない様にディストラクションを唱え百近くいた虫達を全て消滅させた。
イオスディシアンがその事に気を取られるとカーディフがすぐに望遠魔法を唱え矢を放ち、コピオンも合わせる様に火薬矢で攻撃した。
だがコピオンの火薬矢はまったく通じず、カーディフの矢は器用に虫の爪の様な手で掴みへし折り捨てた。
「角付き、お前魔法使いだったのか?」
「どこからどう見ても魔法使いじゃろ」
魔法使いは接近戦をしない!と声を荒げ先ほどと同じように虫を召喚したが、また形が少し違っておりルディールに高速で接近すると爆発を起こし、自身の硬い殻などの破片を飛び散らせ攻撃した。
「お前に近づけば爆発する虫だ!小さな衝撃でも炸裂する!」
とイオスディシアンがそう話したので何匹か試すと本当にそうだったのでルディールは小さくため息をつき話しかけた。
「はぁ……お主もそうなんじゃが、なぜ相手に情報を教えるんじゃ?」
「教えた所でお前に対策が取れるか?そういう事だ」
「なるほどの~グラビトロン!」
ルディールは重力魔法を唱え全ての虫を浮かせてから風の魔法を唱えてイオスディシアンを囲む様に全ての虫を爆発させた。
すべての虫を一度に爆発させたので、爆炎がイオスディシアンを包み込んだのでルディールは一度距離を取りカーディフの元に戻った。
「ルディ、ごめん私じゃ役に立ちそうも無いわ……」
「これからお主がたぶん活躍する予定じゃぞ」
「はぁ?無理に決まってるでしょ、私の矢じゃダメージ通らないわよ。さっき掴まれたのみたでしょ」
「これから接近戦になると思うから奴に隙があったら狙って欲しいんじゃ」
「だから何で接近するか……」
カーディフに呆れた顔をされたので理由を丁寧に説明した。
「イオスディシアンには聞きたい事が山ほどあるから魔法で消滅させるわけにもいかぬじゃろ?あやつがこっちの世界におるんじゃったらもっと面倒くさい魔神がおる可能性が多々あるからのう……わらわの近接戦の技術が何処まで通用するか見ておきたいのもあるんじゃ」
「ルディが面倒くさいって言う魔神ってどんなのよ……出来る範囲で援護はするけど期待はしないでね」
爆炎に包まれたイオスディシアンの方を見ると煙がゆっくりと晴れ、少しはダメージが入ったようだったがすぐに再生し何かを話す前にルディールは急接近した。
「さて、魔神相手に何処まで通用するか少し試させてもらうぞ」
そう言っていきなり腹部に蹴りを叩き込んだがイオスディシアンの方も接近戦は出来るようで即座に足でガードした。
「ぬかせ!二度は蹴られ吹き飛ばされたが、不意打ちが成功したからだろう!」
イオスディシアンは直立した様な格好をしており人間で言う腕の部分が四本ありその先に着いている鉤爪のような鋭い爪が光りルディールを襲う。
よく切れそうじゃなとルディールは言い自分の爪を伸ばし受けたが切れ味はイオスディシアンの爪が勝っていた様で綺麗に切り飛ばされた。
「そんな柔らかな爪で私の爪が負けるとおもったか!」
「魔神と言うだけあって雑魚ではないが……」
そう話し次は手刀の様に指を揃え伸ばした爪を纏め魔力を流し横に払うと次はルディールが勝ち、イオスディシアンの脛節辺りから切り飛ばした。
「こうやれば切れるようじゃな!」
ルディールに中脚を切り落とされ驚きはしたがすぐに回復させた。
「脚を切り落とされたぐらいでだからどうした!」
治った中脚でルディールの意識を誘い死角になった上から両前脚で力の限り殴りつける。
その威力はルディールが思った以上だったのでガードは間に合ったが地面に叩き付けられ砂埃が舞いお互いの視界を奪った。
ルディールにとどめを刺す為にイオスディシアンは魔法を唱え攻撃しようとしたがカーディフが望遠魔法と自分の背丈ほどの大弓で攻撃し、追撃を阻止した。
「ふん、その程度、邪魔にもならんな雑魚が」
今度はカーディフを先に始末するために標的を決めたが、その瞬間にどこからとも無く矢が飛んでき、体の節の部分を狙われ数本の脚を飛ばされ、そちらに気が向いた瞬間に砂埃の中から影の剣が現れイオスディシアンの体を切り刻んだ。
「虫というだけあって硬いがイオスディシアンよ。余所見をしている余裕は無いと思うぞ」
魔法で外皮に大きな傷はできたが、やはりすぐに再生し始めたのでルディールはすぐに接近し次は魔力で拳を固め打ち抜く様にイオスディシアンの胸部を殴るとボン!という破裂音と共に貫通した。
「ぐっ!がはっ!」
イオスディシアンは口から緑色の血のような体液を吐き出したが、貫通した胸もゆっくりと治っていった。
「イオスディシアンの方がはるかに強いが……回復力だけなら前にやり合った大神官の方が上じゃな……」
「おっお前は何者だ……私自身は確かに魔神の中では弱い部類だ、それでも魔神の端くれ……角の生えた人間に圧倒される事など!」
「白旗は受付中じゃぞ。話してくれるなら見逃してやるがどうする?お主より強い虫は召喚出来ぬ筈じゃろ?」
「どうして私の力を知っている!」
攻撃しながら魔法を唱え攻撃しようとしたが、撃った瞬間に軌道を反らされ前足を掴みそのまま急下降し、次はイオスディシアンが地面に叩き付けられた。その衝撃で地面が少し揺れ大きなクレーターが出来また砂埃が舞い上がった。
(うむ、時間があれば炎毛猿達と訓練しておったから来た頃に連中と戦った時に比べれば近距離もある程度は戦える感じじゃな、イオスディシアンもいたからのうカエルの魔神も知ってる奴じゃろうな……出来る事なら魔法無効化の魔神は我関せずのスタンスでいて欲しいのう)
等とゲームで出て来た筈のイオスディシアンがこの世界にいるので、ルディールがプレイヤー時代に苦戦した魔神達も居る可能性が出て来たので戦闘にならない事を祈った。
「戦闘中に考え事などと!」
そう叫び自身の召喚できる虫の中でも上位の巨大なムカデの様な虫を召喚しルディールを襲わせ一度距離を取ったのだが……
ルディールはそのムカデを掴み鞭の様にしならせイオスディシアンに叩き付け、そのまま九匹の猫の炎で焼き払った。
「あっやば……」
ルディールが使うナイン・キャット・フレイムという炎の魔法はランダム性があり、猫の気まぐれ様な物なので猫達の機嫌がいいと想像以上の火力が出るちょっと危険な魔法だった。
強大なムカデを一瞬で焼き尽くしイオスディシアンも業火に飲まれたが焼かれながらも再生していき大ダメージは受けたが致命傷にはならない様だった。
そして焼けて炭化した外皮がゆっくりと回復している間にカーディフが近づいて来た。
「ルディ、切りが無い感じだけど……大神官の時みたいに回復しなくなるまで戦うの?」
「いや、戦った感じ的に細切れにしたり灰にしたらちゃんと死ぬっぽいぞ。世界樹といえど植物じゃしそこまで驚異的な回復能力は無い感じじゃな」
「あーそうか、殺したら話が聞けないから駄目だったわね……」
ルディールがそう言う事じゃ、と返事をすると復活したイオスディシアンがカーディフごとルディールに攻撃魔法を唱えたが、それ以上の魔法でルディールは反撃し押し返した。
「さてと切りが無い感じじゃし、決めて来るからカーディフは少し下がっておるのじゃ」
「ルディいつも通りなのは良いけど手負いの獣は気をつけなさいよ」
「うむ、前に空で油断して死にかけたから見た目以上には油断して無いはずじゃ」
そう言ってルディールはまた接近しカーディフはいつでも狙撃出来る距離まで離れた。
「ぐっ!はぁはぁ……お前は本当になんなんだ……私をここまで一方的に攻撃できる者など存在しない、前魔王様でもだ!」
「そーでもないじゃろ、ミューラッカとか普通に強かったし、魔界は知らぬがわらわはそこそこ人間界で危ない目にあっておるぞ?」
そう話しルディールはイオスディシアンの超回復を無効化させるために古の腐姫の嫉妬を目覚めさせ、イオスディシアンにかかと落としを決め地面に叩き付けた。
ある程度加減した蹴りだったのでヨロヨロとイオスディシアンは立ち上がり自身を回復させようとしたが全く回復せず、虫の顔が恐怖に染まって行くのがルディールにも分かりゆっくりと地面に降り話しかけた。
「その気配この力……古の腐姫の力だと……どうして、まさか……」
「ぬ?守護竜も知っておったが……お主も古の腐姫を知っておるんじゃな」
ルディールがそう言うとイオスディシアンは自身に回復魔法をかけ怪我を回復させ、今度はルディールを驚愕させたが膝をつき頭を下げた。
「新しき魔王よ……この度の非礼をお許しください」
そう頭をさげ戦意が喪失したイオスディシアンをみてルディールは呆気に取られたがすぐに我に返り誰が魔王か!と言い返し戦闘はあっけなく終わった。
「違います~魔王じゃないです~るるるの花子です~」
「ルディ……その話し方、味方でも聞いててウザいから止めなさいよね」
そう言われたのでいつもの話し方に戻し、おとなしくなったイオスディシアンに尋ねた。
「戦闘しなくて良いならそれで良いが……古の腐姫の愛を受けてどうして回復したんじゃ?」
「それは世界樹の回復の力と、忌々しい堕天使の力が相殺されて消えたのでしょう、もう一度その力で攻撃すれば私が死ぬまで回復しないはずです」
「……ルディの力ってエグいのあるわよねって……もしかしてその力で騎士とやり合った事あったりする?噂程度だけど何しても回復しない騎士がいるって話があるんだけど……」
「うむ、帰ったら教えてやろうってソアレやスティレに聞かなかったのか?」
ルディールがそう聞くと、大方わかった様で王族関係の事はあの二人も私も話さない様にしていると納得し話を戻した。
「ではイオスディシアンよ。わらわが勝ったようだから色々聞かせてもらうがよいか?」
「はっ!真の魔王様。仰せのままに」
その姿を見たルディールは魔王でないと否定しカーディフはスティレと仲良く出来そうな魔神だとおもい、コピオンは何も言わず事の行く末を見守ることにした。
「まずはお主達人間ぶっ殺す派の魔神には魔王がおるんじゃろ?何故わらわに頭をさげる?」
そう尋ねると今の魔王は前魔王の御子息だという話で、イオスディシアンもその姿を見たが確かに前魔王に似ているし同じぐらい強いと話した。
「じゃったらそやつが魔王でええじゃろ」
そう尋ねたがイオスディシアンは大きく首を振り只強いだけだと話し、魔王になるための条件の指輪を持っていないと話した。
その指輪は千年前の戦いのさなかに作られ人間界、魔界、天界の強者達が作った指輪で、その指輪を全てを集めた者が次の魔王だ。
前魔王が最後に言った遺言だとイオスディシアンは話した。
「その辺の安物の指輪買ってきて、オレオレ真魔王で良いのではないのか?指輪は誰も見た事ないんじゃろ?」
「魔王様は冗談も面白い、それをしているのが今の魔王様です、確かに力は強いし私では敵いませんが、あなた様の様に強者達が持ちえた能力を使える訳ではありません」
「いや、所詮は魔法の一種じゃから練習すれば使えるのではないか?」
「それで使えるなら人より遙かに長生きをする魔神は皆使えます。この狭間の世界も封印されて以降は特定の場所からしか出たり入ったり出来ず、好きな所からここに来られるのは狭間の魔導師の力を持った者だけです」
その事にルディールは反論したが、一つだけなら人間が進化してこの場所に来られる様になった可能性もあるが、古の腐姫の力まで使えるのはどうしてかと逆に問われた。
「人間の可能性は無限じゃからな!」
「なるほど、それで私に人間に手を出すなと忠告してくれたのですね」
「全然違うがのう……」
そう話しルディールが他の事も尋ねようとすると遠くに女の様な声が聞こえた。
「あはははは……魔王様見つけた」
その瞬間に影という影から触手の様な物が盛り上がりルディールを見境なく攻撃してきたがすぐにコピオンが煙幕の張り、四本の矢を何かの液体に浸し即座に声の主の四肢を打ち抜いた。
「皆!戻るのじゃ!」
ルディールはそう叫び白黒の狭間の世界から色鮮やかな元の世界へと戻った。
「あははは……魔王様に逃げられた。顔も見えなかったから……わからないけど……ご光臨されたならまた会える?あは?ああそうだった私、目が無いんだった」
その顔には目があった部分には何も無くただ真っ黒な闇が詰め込まれていた、それがルディール達の後を追おうとしたが何故か動けず足を見ると、突き刺さった矢が根を張り花を咲かせその場につなぎ止めた。
「あは?これじゃ動けないね……手足切ってもいいけど、まぁいいか時間ならある?誰か来ないかな?」
なんとも気味の悪いそれを笑い声が狭間の世界にいつまでも響いていた。
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