第99話 守護竜

「その毒を治せば、守護竜は元に戻るのか?」


「可能性があるだけという話じゃな」


 ルディールがそう伝えると、一緒に来ていたアバランチ達に命令を出し解毒の魔法や状態異常を治癒する魔法を唱えさせた。


 アバランチ達に続きルディールも世界樹の祈りなどを目覚めさせ、守護竜に状態異常回復の魔法を唱えるが少しは和らいだ様だったが回復するまでは行かなかった。


「う~ん、最高クラスの毒じゃから同じレベルの解毒魔法かその辺りを掛けないと治らぬか……ミューラッカよ。万能薬とか持っておらぬか?」


「万能薬とは何だ?解毒薬の事か?」


「ん?読んで字のごとくという感じなんじゃが……毒とか麻痺とか状態異常は片っ端から治す薬で呪いは別なんじゃが……知らぬか?」


「ああ、初めて聞いたなローレット王国にはあるのか?」


 ミューラッカがそう言ってミーナとセニアの方を見たが二人とも初めて聞いた様で頭を左右に振っている。


「私は初めて聞いたけど、セニアは知ってる?」


「いえ、私も聞いた事はないですね。そのような夢の様な薬があるんですか?」


「微妙に話がかみ合わんのう……見せた方が早いか」


 ルディールはそう言うと、自身のアイテムバッグを漁り残り少ない万能薬を一つ取り出した。


「こんな薬なんじゃが、見た事ないか?」


 その場にいる全員に見せたが心当たりは無いようで、首を左右に振った。


(う~ん……もしかしたら生産職の上位職が少ないのかも知れんのう、ロードポーションが、たまに市場に流れるんじゃから作れる奴はおると思うんじゃが……どうなんじゃろうな?)


「ちなみにわらわの国で手に入ったお薬じゃから、追加でくれ!とか言っても無いんじゃぞ」


「貴重な薬なんだろう?使ってくれるのか?」


「うむ、見せるだけ見せて使わんとかありえんじゃろ」


 ルディールはそう言うと、守護竜をシャドーステッチで縛り動きを封じてから口をこじ開けてから万能薬を流し込んだ。


「やはり飲ませた方がいいのか?ポーションならかけても効くぞ?」

 


「薬は注射より飲むのに限ると教えてもらった事があるからのう。しかもドラゴンじゃし」


 などと話していると守護竜は倒れ意識を無くしたが、腹の辺りが白く光り全身を包んだ。

 

「これで死んでいたら笑えるな」


「笑えぬわ!ミューラッカよ変な事を言うでない!心配になるじゃろう!」


 ミューラッカはそう言ったが竜が治る事を期待した瞳で見つめ、ノーティアもミーナ達も心配そうに竜が起きるのを待った。


「わたくし達を助けて頂いた時も思いましたが、ルディール様はなんでもお持ちですわね」


 と、まだ起きない竜を警戒しているとスナップがルディールに話しかけてきた。


「いや、家に帰ったらちゃんと確認せぬといかぬが、回復関係はもうほとんどないぞ、元から持ってこれたのも少ないがな」


「無駄に使ってる訳でもないですしね……仕方ないところですわ」


「ロードポーションの様に極まれにでも手に入る可能性があれば使いやすいんじゃが、万能薬とかその辺りは要検討じゃな」


 それから少し話していると守護竜の瞼がゆっくりと開きその瞳がルディール達を捉えたのでミューラッカが話しかけた。


「守護竜ディスフィオラよ。私達がわかるか?」


「その髪、その気配……ヴェルテスの家系か」


 万能薬のおかげで狂乱の猛毒からは完全に治った様で意思疎通が可能になり、ノーティア達やアバランチ達は涙を流し喜び、ミーナ達はほっと肩の荷を下ろした。


「ディスフィオラよ。お前がスノーベインに起こしている異常気象を止められるか?」


 ディスフィオラは少しだけ考えミューラッカの問いに拒否すると答えた。


「貴様達ヴェルテス家の盟約だ。我に従わせたくば力を示せ、貴様の先祖との約束だ」


「ミューラッカのご先祖様って感じじゃのう……」


「そういうことだ小さき魔王よ。私を治してくれた事に深い感謝を」


「魔王と違うがのう……わらわからも少しよいか?」


「我と戦って勝てればな」


 そう言うとミューラッカはすでに戦闘態勢に入っておりいつでも攻撃できる準備が整っていた。


「時間がかかるのは嫌いでな」


「短気な小娘だ一つ面白い事を教えてやろう」


 ルディールの表情がわらわもそう思うという顔をした瞬間に、ミューラッカから氷の刃が飛んでき、もう少しで直撃しそうな所で躱しスナップにお顔に出やすいのですから変な事を考えない方が良いですわと注意された。


「今の私ではこの異常気象は止められん、見ての通り三つある首が一つしか残ってはいない、この首は氷を司り残り二つが太陽と月を司る。その二つの力が無ければ収まらぬよ」


 ディスフィオラがそう言ったので戦闘態勢を解きもう一度尋ねた。


「お前が発生させたんだぞ」


「毒が我に作用しこの気象を発生させたんだろう。理性がほとんどなかったのだ覚えているわけが無い」


 ディスフィオラがそう言うとならば仕方ないと、ミューラッカがまた戦闘態勢に入り一触即発の雰囲気になったが、ノーティアが怯えながら二人の間に入り話しかけた。


「現女王のノーティア・ヴェルテス・スノーベインと言います。守護竜様、何か方法は無いのでしょうか?」


「そこの短気な小娘の子か……力だけではどうにもならん事はわかっているか。そうだな……ロードポーションではこの無くなった頭は戻らん。命の雫と言うアイテムを知っているか?それがあればこの首は治るだろう」


「命の雫ですか?私は聞いた事はありませんが……ミューラッカ様は知っていますか?」


「いや、私も知らないな」


 その場にいたほぼ全員が知らなかったが約一名だけ心当たりあった。


(さて、どうするかのう……持ってはおるが残り二つじゃぞ?ミーナ達に何かあった時に置いておくべきではないか?かといってスノーベインの人達の事を考えるとのう……)


 比べる物では無いか……と少しため息をつき、ノーティアを呼んだ。


「ノーティア・ヴェルテス・スノーベイン女王陛下。これを差し上げましょう。ただし私に何も聞かない事と私が持っていた事を言わないのが条件です」


 そう言ってルディールはノーティアに命の雫を手渡した。


「え?ルディール様どういう事でしょうか?」


「流石は魔王か……まだ若き小さな女王よ。それが命の雫だ」


 その言葉を聞き、ノーティアは時間が止まったかの様に動きが止まりそしてかなり驚き、命の雫を落としかけたが、ミューラッカが即座に掴み事なきを得た。


 そしてノーティアがルディールに何かを聞こうとしたが、ミューラッカが阻止し頭だけ下げ、ディスフィオラに命の雫を渡した。


「ルーちゃんってスナップさんが言うように何でも持ってるね」


「確かに色々持っておるが、減っていくばかりで手に入る事は無さそうじゃから、わらわが居れば何とかなると思って行動するのだけは駄目じゃぞ」


「あーうん……そうだよね。ルーちゃんに助けて貰ってばかりだもんね」


「助けられる範囲なら助けてやれるがのう、わらわにも無理な事は結構あるからのう、それだけ覚えてくれておいたらええわい」


 ミーナとルディールがそう話していると、セニアが不思議そうな顔をして何処かで今の命の雫を見た事があると思い出そうとしていたが、思い出せなかった様で少し悩んでいた。


「あれ?何処かで見た記憶が……」


「セニアよ、思い出せんと言う事は大した事では無いはずじゃぞ。無理に思いださんでええわい、わらわがアイテムバックの整理した時にでも見かけたのではないか?」


 そうかも知れませんね、と言って思い出す事を止めルディール達と一緒にディスフィオラの行方を見守った。


 皆がディスフィオラを見守る中、命の雫を飲み終わると静かに体が発光し体の傷や無くなった残りの頭が全て綺麗に治っていった。

 そして治った体を動かし確認しまずはルディールに礼を述べた。


「小さき魔王よ、またお前に救われたな」


「礼なら女王陛下に言うんじゃな。わらわは献上しただけじゃ」


 そういうと鼻で笑いノーティアの方を向きお前を女王と認めようと言った。


「お前が女王の間は我がスノーベインを無条件で守ってやろう」


「ありがとうございます!ではまずこの異常気象を直していただけますか?」


「かまわぬが……いや止めておこう。約千年ぶりの完全体だ。先ほどお前の母に言った様に従わせたくば力を示せ」


 静かに話を聞いていたミューラッカがなら私の出番だなといい静かに力を解放した。


「小娘よ、少しは楽しませよ」


「ああ、守護竜殿こそ私を楽しませよ」


 そう言ってお互いの魔力がバチバチと交差しそこら中に氷の刃を発生させ、すぐにでも周りを巻きそうな気配があった。


「はぁ……氷ってクールなイメージがあるのになんでこう喧嘩っ早いんじゃろな?」


「ルディール様、巻き込まれたら私も姉さんも耐えれませんので止めて頂けると助かります」


「スイベルとスナップよ。少し離れるからミーナとセニアを任せたぞ」


 そう言うと狭間の魔導士の祝福を目覚めさせ、ミューラッカとディスフィオラを狭間の世界に送り込んだ。


「ノーティアよ。ちょいとお主の母の喧嘩を見てくるからアバランチ達に守ってもらうのじゃぞ」


「ルディール様、お母様は?」


「ドンパチやれる所に送ったわい。心配せんでも終わったら連れて帰ってくるから安心するとよい。ここで戦闘すると氷都に被害がでる可能性もあると言っておったからのう」


「……わかりました。ルディール様を信じます。それとスノーベインの為にここまでして頂きありがとうございます」


「うむ、どういたしましてじゃな。後、心配した時などはミューラッカの事をお母様と呼ぶんじゃな?普段からもそう呼んでやった方が良いぞ。では行って来るのじゃ」


 そう言うと赤くなり照れていたのでその顔を見て満足し、ルディールもミューラッカ達がいる狭間の世界へと向かった。


「ルーちゃん、行っちゃったけど大丈夫かな?」


「まぁわたくしの勘ですけど、確実に戦闘にはなりそうですわね」


「ルディールさんって何者なんでしょうね?」


「本人曰く、リベット村の便利屋さんとよくおっしゃっていますよ」


「そうなんですね。前はよく迷子の魔法使いとか言ってたのに」

 

 ノーティア達はルディールに感謝しミーナ達は少し笑いながら友人の帰還を待った。

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