第77話 人の境目


 光が収まると大神官だった者には、天使の様な翼が生え体は黒く染まり人、天使、悪魔……確かに人型だが、どれとも形容しがたい形になっていた。


(何と言うかなんなんじゃろな……ライフライブラの効果は命ある者のダメージ入れ替えなんじゃが。何故、魔眼や角や聖女達の力が大神官に流れ込んだんじゃ?この世界での効果が変わっておるのか?)


 その考え通りルディールがたまに使用するライフライブラと言う魔法はダメージの入れ替えや状態異常を指定した人物に流す魔法で、ゲーム中では双子の聖女等を倒すと魔法書をドロップするのでそれを使って覚えられる魔法だった。


 すこし考えていると、大神官の目が開きルディール達に話しかけてきた。


「見たか!これが私の力だ!双子の聖女様達に認められた力だ!」


「お主がそう思うならそうなんじゃろな。面倒じゃから否定はせんが、少しだけ強くなった気分はどうじゃ?」


「ふん!私は元から人間ごときに収まる器ではない!その枷から解き放たれたのだ!最高の気分だよ!この国も私にはもう必要ない!手始めにお前達からなぶり殺してやろう!」


「この国の最高神官がこれと言うのも凄い話じゃな……」


「ホーリーフェザー!」


 ルディールがそう感想を言った直後に大神官は聖属性の魔法を唱えると、全員を巻き込む様に白く光り、羽の様になった光が触れた物を空間を抉る様に消し去っていった。


「グラビトロンフォール!」


 ルディールが即座にその魔法を唱えると聖堂の天井付近に光さえ飲み込む大穴が現れ、舞っていた白い光の羽を全て飲み込んだ。


(う~ん……ホーリーフェザーか、今の魔法も双子の聖女の魔法じゃよな~。大神官も双子の聖女と言うておるし、そういう書物でもあるのか?)


 と戦闘中に考えているとバルケから檄を飛ばされた。


「おい!ルー坊!お前からしたら弱いかもしれないが俺達からしたら手に余る相手だぞ!一冊目の禁書の時の様な事も考えられるからまずは撃破だ!」


 そう言われてあの悪夢を思い出し即座に考えを切り替え、他の事を考えていた事を皆に謝りルディールは大神官に向かい合った。


「大神官、一つ聞かせて貰いたい。お主が使う聖女の魔法は何処で覚えた?」


「ふん、黄泉路への土産だ。私達、神官が管理する書物の中に載っている!約千年前の大戦時に人を滅ぼし魔族達の世界を作ろうとした御方達が残した聖なる魔法だ!」


 その事を聞き、双子の聖女はゲーム中では人も魔族も全てを滅ぼすという設定だったので、その事に違和感を覚えたがバルケに言われた通りまずは目の前の大神官を倒し後から無理矢理聞き出すか、神殿から書物を探せばいいかと思い攻撃を仕掛けた。


「聖属性か……。エクスキューショナー!」


 その魔法を唱えると影が大量の剣や刃になり大神官を切り刻んだ。そこにソアレも追撃しますといって雷の魔法を落とした。


「……これで決まった様な気がしますが?」


「じゃったら楽でよいがのう」


 その言葉通り、確かにダメージは入っておりルディールの指輪の効果で回復も無効になっていたが、ダメージやその異常状態を取り込んだ聖女達の一人に肩代わりさせ、自分の体から吐き出した。


 吐き出された聖女はその身体に全てのダメージを受けたので断末魔も上げずに静かに崩れていった。


「はははは!確かにまがい物とはいえ聖女だな!私の受けたダメージを肩代わりしてくれるとはな!」


「わらわとてにわかじゃが、なまじ双子の聖女のことを知っておるだけにお主の行動は不快じゃな」


「は!私はお前の様な角付きと話をしているのが不快だよ!ホーリーレイ!」


 白い光がレーザーの様になりルディール達を襲ったが、すぐに防御の魔法を展開し全員を守ったが地理的な条件も募り少し不利になっていた。


 ルディールは仲間を守りながらそしてこの地下墓地を崩壊させない様に手加減しながら戦わなければならず、大神官は気にせず戦う事が出来る状態だった。


「ルディ!どうすんの!長期戦になったら地下だし崩れるわよ!」


 カーディフの言葉通り聖堂の中だが地下なので大神官の魔法が当たった所などは崩れたりしており、このままここで戦えば崩れてこの場所が埋まってしまう危険があった。


「しかたあるまい!いきなり本番で使うのは躊躇うが目覚めよ!狭間の魔道士の祝福!」


「はっはっは!足手まといを守りながら死んでいけばいい!ホーリーブラスト!」


 この地下墓地ごと破壊するつもりで、大神官は自身が使える一番破壊力が高い魔法を容赦なくルディール達に向かって解き放った。


 ルディールは今まで用途が分からず自身の中で封印していた指輪を目覚めさせた。すると大神官の魔法はルディール達に当たる直前に何処かへ消えてしまった。その事の意味がわからず大神官は声を荒げた。


「貴様!何をした!」


「いや、お主のようにべらべらとはしゃべらんよ?こちらが不利になっても嫌じゃし」


【狭間の魔道士の祝福】魔力とMPを超強化、単体魔法も全体攻撃化。世界の狭間に引きずり込む魔法を使える。


(世界の狭間の意味が分からないから使うのを控えておったが、他の指輪を使った感じじゃとこちらに不利になる事は無いじゃろうから解放したが……かなり便利そうじゃな)


 その態度にまた大神官は激高し高威力の魔法を連発したがルディール達に当たる前に全て何処かに消えた。


 その魔法を見たソアレが出たルディールさんの意味不明魔法。というような顔していたがルディールは説明出来ないので無視して大神官に話しかけた。


「さて、大神官。ここで戦って崩れては面白くないのでな、わらわとここでは無い何処かへ行って貰うぞ」


 指輪に力を込めると灰色にねじれ渦巻く穴が現れ大神官を即座に飲み込んだ。


「ルディールさん……大神官は?」


「世界の狭間へ飛ばした。流石にここで戦う訳にも行かぬのでな。大神官と決着を付けてくるからすまぬが、少し待っておってくれ」


 仲間達にそういうと少し心配そうだったが、自分達にはどうする事も出来ないのでルディールを応援し送り出した。


 仲間の応援を聞き大神官と決着をつける為に、指輪に力を込めると灰色の大渦が現れルディール達を飲み込んだ。


 世界の狭間と呼ばれる世界にきたが、その場所は元の世界と形は同じだったが世界に色が無く全て灰色でその色の濃さで世界が表されていた。


 そして辺りを見渡すと先ほど別れた筈の仲間達もいて、言いたい事が山のようにある顔をしており代表してリージュが話かけてきた。


「あのルディールさん?私達もいますが?」


「……もしもの事を考えて全員連れて来た感じじゃな?」


「……ルディールさん?」


「うむ!初めて使う魔法じゃから思いっきり巻き込んだ……ごめんなさい」


 と、ルディールが頭をさげ謝ったので、それ以上は追求せずに少し呆れた様に笑いながらため息をついた。


「帰られるのなら大丈夫ですよ。それとちゃんと守ってくださいね」


 そう言って別の方向を向くとそこには、訳の分からない世界に飛ばされさらに激高した大神官がおり、ルディール達と目が合うとさらに声を荒げた。


「ここはどこだ!私を元の場所に戻せ!」


「いや、だから何故敵対している人物に説明せねばならんのじゃ?自分で考えい。……知らない世界と言うのは不安なものじゃろ?」


 そう言って攻撃を仕掛けようとしたが何故かバルケや火食い鳥達もやる気満々でルディールと共闘する事になり初手はソアレが雷を落とし一時的に時間を作った。


「よし、ここなら思い切り暴れられるって事か。ルー坊、支援まかせた!」


「わかったわい!ちゃんと支援はするが無理はしないでくれるとありがたい」


 そういってルディールはリージュを守る様に前に立ち、バルケ達の動きが把握出来る場所に移動した。


 ソアレも自分のアイテムバッグの中から魔力回復薬を飲み、魔力を回復させ大神官の戦闘に臨んだ。


 大神官は叫ぶような大声をあげ、前衛のバルケやスティレに襲いかかったが、口を開けた瞬間にカーディフの矢を数本打ち込まれた。その矢は特殊な矢だった様で大神官が引き抜こうと触ると爆発を起こし頭を吹っ飛ばした。


 だが先ほどと同じように大神官のからだから聖女が吐き出され飛ばされた頭も回復した。


「……頭吹っ飛ばされて生きてるって何なの?気持ち悪っ!」


「だが、無尽蔵と言う事は無いと思うからいつかは尽きるはずだ」


 そして頭を吹っ飛ばされたので大神官は目標をカーディフに目がけて魔法を唱えたが、ルディールが同程度の魔法で相殺し、他の魔法で腕や足を拘束した。


 その隙にスティレが四肢を切り落とし先ほどと同じように地面に倒れこんだ大神官に、ソアレが加減なしのライトニングワンダラーを撃ち込む。

 そしてバルケは再生すると読んでいたので、ソアレが魔法が当たった直後に接近し大神官の首を撥ねたが大神官は即座に復活した。


「ふん!人を超え神になった私にその程度の攻撃が通用するかとおもったか!」


「回復がかなり厄介だし身体能力もさっきよりかなり高いが、高威力の魔法はルー坊が相殺してくれるから脅威って感じはしねーわな」


「ですが、魔法が抜けてきたら終わりですよ」


「まぁな、どこまで回復するのかも気になる所だな。細切れやミンチになっても元に戻るのか?」


 バルケとソアレが話していると大神官の体が不気味に輝きだし、目がくらむ様な強烈な光を発した。

 その光を近距離で浴びたバルケや火食い鳥は体に人の顔の様な痣ができ動きを封じられ、膝をついた。


「ははは!所詮は人の子!まずお前達を殺してからさっきから人を馬鹿にしている角付きの番だ!」


「……大神官。そういう所が甘いんじゃぞ?せっかく作ったチャンスを自分で潰してどうするんじゃ……命の天秤よ!仲間達の呪いを全てわらわに移せ!」


 そう魔法を唱えバルケ達が受けた呪いを自分に移し、その呪いをすぐに王の鎮魂で解呪した。その双子の聖女の魔法をルディールが使える事に大神官は驚き目を見開き叫んだ。


「どっどうして!貴様がその魔法を使える!」


「リージュよ、こういう時はどう言ったらええんじゃろうな?」


「大神官様もお年を召されていますから、さっき言ったでしょお爺ちゃん?辺りでいいと思いますよ?自分で考える事を止めたお方ですからね」


 と、リージュが煽るとまた我を忘れて襲いかかって来たが、ルディールが魔法を唱え細切れにし吹き飛ばした。


「ルー坊、すまねぇ助かった!お前は大丈夫か?」


「うむ、大丈夫じゃ。」


 バルケ達が戦闘態勢を整え、細切れになった大神官と向き合うと肉片が動き出し集まり再生し、また聖女を吐き出した。


「ふん!貴様らの攻撃な……」


 話している途中でルディールはまた別の魔法を使い、燃やし完全に灰にして消滅させたが、しつこく大神官は復活した。


「……ルディールさんどうします?不死身では無いと思いますがキリが無いような気がします」


「ん~わらわがおった国じゃと先人達が不死身とか不死対策は山のように後世に伝えてくれたからのう。対策は簡単なんじゃが……捕まえて陛下に引き渡さないといけないしのう」


「今、灰にしてたけどね」


「うむ、今の所有効な手立ては無いがこのまま戦わせてもらおう。無尽蔵で無いならいつかその仮初めの命もなくなるじゃろうしな」


 そういうと戦闘を再開させた。大神官の戦い方に技術は全くなく力任せに魔法を撃つだけの戦い方だったので、一度パターンにはめてしまえば一方的に攻撃できこちらが不利になる事はほぼ無かった。


 それから約一時間ほど戦い続けると明らかに大神官の回復速度が落ちて来て、その顔に焦りのようなものが見えルディールに向かって叫んだ。


「おっお前はなんなんだ!」


「ん?お主が言っておったじゃろうに。角付きの魔法使いじゃぞ。ここで油断して怪我でもしたらつまらんのでな、このまま押し切らせて貰うぞ」


 攻撃の手を緩める事無くソアレと連携し魔法を放ち攻撃すると、大神官の体からまた聖女が抜け落ち消え、白い腐った膿のような物が封を切った様に止めどなくあふれ出し、ようやく止まったと思ったら大神官は元の人間に戻っていた。


「ばかな!神に等しい私が人間に戻ったのか!」


「元から人間じゃったよ。その事をお主はわからぬかも知れんがな」


 ルディールはそう言うと、もう一度【古の腐姫の嫉妬】を目覚めさせて、弱い魔法で攻撃し大神官が二度と回復しない様にしてから、シャドーステッチで捕縛しソアレの魔法で動きも封じ決着した。


 そして狭間を塞ぎ元の世界へと戻ってきた。狭間の世界で体感で1時間程度戦い続けていたが、現実世界への影響は無かった様で戦闘が始まった時に壊れた所以外は全て無事だった。


「終わったが聖女達はどうなったんじゃ?」


 大神官のライフライブラで吸収された聖堂の奥にいる聖女達の事が気になったので、ルディールがそう呟くと、バルケと火食い鳥が少し見てくると行ってルディールとリージュを残し向かった。


 そして戦いが終わった事がわかるとリージュがぺたんと座り込んだ。


「すみません……緊張の糸が切れてまた腰が抜けたみたいです」


 と言って来たのでルディールは少しからかう様におんぶしてやろうか?と言うとリージュが素直にお願いしますと言ったのでルディールは少し笑い、またリージュを背負い話をした。


「リージュよ。今まで疑っていて悪かった」


 ルディールに急に謝られたので、またからかっているかと思ったが、その声にそういう雰囲気が無かったのでリージュも真面目に返した。


「それを言ったらお互い様ですよ。私もルディールさんの事を疑っていた事もありましたし……すみませんでした。しかしどうして急に?」


「う~んそうじゃな~。お主にはちゃんと間違った事は謝れる大人になって欲しいからのう。その見本を見せておこうと思ってな。わらわもお主もなまじ力があるだけに何処かで間違えば大神官のようになると思うからのう。まぁ公爵家が簡単に頭を下げては駄目じゃろうが……」


「じゃあ、間違えそうになった時はルディールさんが止めてくださいね」


「うむ、良かろう。逆にわらわが間違ったら任せたぞ?」


 と、言うとその時は国が無くなるので諦めますと言って二人で笑っているとバルケ達が戻って来て現状を説明してくれた。

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