第65話 工房

「はぁはぁ……あんた逃げ足は速いわね……」


「おっお主もなかなかやるでは無いか……」


 ルディールとカーディフはリノセス家の庭で仰向けに寝転がり肩で息をしていた。ようやく決着が付いたのでそれを見守っていたソアレが二人を呼びにきた。


「……お疲れ様です、夕食の準備ができたそうなので呼びに来ました」


 ルディールを追いかけ回す原因を作った自分が、我関せずという様な顔をしていたのでカーディフは黙って立ち上がりソアレの頭を鷲掴みにした。


「元はと言えばあんたが原因なのに、なんでそんな態度なのよ!」


 ソアレの頭にカーディフの指がギチギチと食い込んでいく……


「カーディフ……ストップです。わりと本気で痛く……いた、いたたた!すっすみません!ルディールさんヘルプ!」


「ルディ。助けを呼ばれてるわよ?」


「しかたないのう。友人としての情けじゃ……カーディフよ。苦しませずに殺れ!」


「了解!」


「……ルディールさん!カーディフ!ちょま!」




「セニアよ、夕食に呼ばれて来たんじゃが申し訳ないのう」


 ルディールとカーディフは食堂に行くとセニアがいて礼を言うと、気にしなくて大丈夫ですよと言ってルディールを呼びに行ったはずのソアレを探した。


「ルディールさん、ソアレ姉様は?」


「自ら呼んだ災いに食われたと言った所かのう……」


「自業自得ね」


 セニアもソアレに何があったのかを悟り、ポーションを持たせたメイド達に探しに行かせ、しばらくしてから元気になったソアレが帰って来て、セニアの母も交え食事になった。


「ルディって、一応はテーブルマナー出来てるのね」


「ん?暇があれば本を読んで居るからのう。できるだけ貴族とは食事は避けたいが、万一あった時の為に一通り勉強しておるぞ。まぁ本の知識だけじゃから間違ってる事も多いじゃろうがな」


「ルディが出来るなら私も覚えようかしら……」


「覚えておいて損は無いと思うがのう、気をつけぬとセニアに……あら、カーディフさん?テーブルマナーも知らないの?野蛮ですわね。おほほほほ……とか言われるぞ」


「言いませんよ!だからどこから私の声を出しているんですか……」


 ルディールの持ちネタの声真似だが、セニアの母やカーディフは聞くのが初めてだったので少し驚き、確かに本人の声だったので似ているとルディールを褒め、セニアの母がカーディフに少し意見をした。


「ソアレもカーディフさんもAランクでしょう?貴族と食事をする機会も多くなると思いますからリノセス家で食事する時にでも練習する方がいいですよ」


「やっぱり必要ですか?」


「難しく考える事はないですが……出来てる方が他の冒険者と比べて少し優秀に見えますよ」


「それぐらいだったら別にいいのかな~?」


 と、少しカーディフが悩んだのでルディールが付け足しで話した。


「初対面での第一印象と言うのは大事じゃからのう~今後の付き合いを考えるなら出来た方がいいとは思うがのう」


「そう言うのって大事なもんなの?」


 ルディールは少し考えてから自分とカーディフ達が初めて会った時の事を例にあげ説明し、最初の印象が悪いと後が大変だと言う事を説明した。


 カーディフはその話を聞き、あの時を思い出して少し第一印象の重要性が分かったようで、ソアレに少しづつ教えてもらう事を約束した。


 するとセニアがルディールとソアレ達の初めての出会いが気になったようでその事を尋ねた。


「ソアレ姉様達とルディールさんはどういう形で出会ったんですか?」


 そうですねとソアレが一呼吸置いて話し出した。




 仲間達が死に絶え大粒の雨が降る中、助けを求め彷徨っていると空から角と翼の生えた少女が現れ……


「待て待て、死んでない死んでない」


「しかも洞の中じゃったから雨とか降ってないしのう……」


「……つっこみ速くないですか?ここからが良い所なのでもう少し待ってくれませんか?」


 そんなルディール達のやりとりをセニアやセニアの母が笑いながら見て、皆穏やかに夕食を楽しんだ。


 夕食が終わり少しゆっくりしていた所でルディールはソアレに酒造りの為に前に少し聞いたドワーフ達のことについて尋ねた。


「ソアレよ、ゆっくりしてる所悪いが少しよいか?」


「……はい、なんでしょうか?夕食前に少し言っていたドワーフの事ですか?」


「うむ、家庭菜園の果実が実ったのでのう、酒にしてみようと言うわけじゃな」


「……おお、海上都市で飲んだヤツですね。どうします?少し遅いですが今から行きますか?」


 その言葉通り窓から外を見ると空は暗かったが、街全体は明るくまだ人々が寝るには早い時間だった。ルディールは特に急ぐわけでも無かったので、今から行くのを断った。


「ソアレの時間が大丈夫なら明日でも良いか?」


「はい、ヒュプノバオナスの魔石代金で装備を作ってもらっていますので、しばらく火食い鳥はお休みしてますので時間はありますよ。ルディールさんこそ大丈夫ですか?」


「わらわの方もしばらく王都の図書館で色々調べ物があるから時間はあるのう」


 ソアレが周りを確認するとカーディフもセニアもいなかったのでルディールに質問した。


「何を調べてるのか、聞いても?」


「そこまで改まって聞かんでもええわい、お主の意見も聞きたいからのう。どうもわらわがいた世界とこっちの世界は繋がりが強い気がしてのう。その繋がりについて調べようと思ってな」


「……分かりました、出来る範囲でお手伝いします」


「ありがとうじゃな。さてとそろそろ一度、家に帰るかのう」


 ルディールがそう言うとソアレがリノセス家に泊まっていけば?と提案してくれたが、家にスイベルがいるので帰ると伝えた。そしてセニアとセニアの母に夕食の礼を言ってから転移魔法で自宅に帰った。


「あれ?ルディは?」


 と、風呂上がりのカーディフに聞かれたのでどう答えれば良いかソアレは迷いながら答えた。


「……帰りましたよ」


「ルディクラスの魔法使いなら転移魔法使えてもおかしくないか」


 ソアレが転移魔法の事をどう説明しようかと考えていると、カーディフが自己完結したので妙に勘の良すぎる仲間を不思議な顔で見ながら内密にお願いしますと頼んでおいた。


「言って損しそうなのは私だし言わないわよ」


 ソアレはカーディフに礼をいい、明日はルディールとドワーフの工房に行く事を伝えた。




 ルディールが転移魔法で家に戻るとスイベルが出迎えてくれた。今日の事をスイベルに聞くと順調に片付けが終わり、ルディールの家にいつでも住む事が可能な状態になっていた。


「もう今日から住む感じで良いのか?」


「はい、ルディール様さえ良ければ大丈夫ですよ」


「うむ、では今日からよろしく頼むのじゃ。後この家にある物は自由に使ってくれて構わん」


 スイベルはルディールに礼をいい、今度はルディールに今日あった事と明日の予定も尋ねた。


 ルディールは簡単にだが説明し一日の気持ちの良い疲れを取るのにゆっくりと風呂に入りその日は過ぎていった。




 次の日、ルディールは適当な時間になるとソアレとの約束の為、スイベルに留守番を頼み、リノセス家に転移魔法で向かった。


 着くと部屋の中ではセニア、ソアレ、カーディフの三人がすでに待機しておりルディールを待っておりその光景にルディールは少し驚いた。


「ありがとう、総出でお出迎えじゃな。セニアも行くのか?」


「すみません、今日はミーナの部屋で勉強と言う事になってますので……」


 別に恥ずかしい事では無いのに恥ずかしがっていたので昨日の話の流れからルディールは察した。


(たぶんあれじゃな……ミーナの部屋に王女様が遊びに行くとかそんな感じじゃろうな~)


「うむ、了解した。わらわはソアレ達と予定通りに、ドワーフ達の工房に行くからミーナによろしく言っておいてくれ」


 分かりましたとセニアが答え、ルディールはソアレとカーディフとでリノセス家を出てドワーフの工房に向かった。


「いつも思うんじゃが、お主達のリーダーのスティレを見る事が少ないのう」


 ルディールがそう聞くとカーディフが答えた。


「リーダーだけど裏方の仕事が好きだから、ギルマスとかと打ち合わせとか次の依頼の調査とかしてるわね。私達がやってもいいけどスティレがやる方が間違いが少ないからね~」


「……私達がやるとたまに赤字になるので」


 ルディールがなるほどと納得していると、鉄や油の匂いがする工業地区に入りそこには冒険者とはまた違う厳つい大人達がいる場所だった、ソアレが先頭を歩き進んで行くと、立地条件は悪そうだったが、大きな工房がありその中に入って行った。中にはドワーフ達と人間がおり工房を切り盛りしていた。


 ソアレ達が中に入ってすぐ、一人のドワーフが気づき話しかけてきた。


「おい、魔法使いとレンジャー。お前らの装備はまだ出来てねーぞ」


「……大丈夫です。今日は別の事で来ましたから」


 そのドワーフは物語で出てくる様な人で小柄で筋肉質なうえにちゃんと髭が生えていた。そしてぶっきらぼうに近付きソアレ達と話をする。


 そして簡単にルディールの事を紹介すると、そちらに目をやり見定める様に上下に動かしてから声をかけた。


「そこの角付きの嬢ちゃんが装備するような物は売ってねーぞ。もっと上の国とかのお抱え工房にいった方がいいんじゃねーか?」


「いや、わらわは装備を買いに来た訳ではないぞ?酒を造る魔道具か何かを探しておるんじゃがあるか?」


「ほーなるほどな。装備がすげーから冷やかしにでも来たかと思ったぞ」


 そう言って奥に入って行こうとしたので、ルディールは呼び止め話しを聞かせてもらった。


「ドワーフは装備とかの性能とかそういうのが分かる感じなのか?」


「そこまでは分からねーがある程度のどういう物かわかる感じだな。ドワーフだから分かると言うよりは経験で分かる感じだ。俺でも毎日と言っていいぐらい武器とか防具作ってるからな」


「なるほどの~ありがとう」


(装備を見ただけで分かるか……かといってそれを隠す為に装備のランクを下げて何かあった時に対応出来なかったでは、話にならぬからそこばかりは仕方ないか……)


 そう考えてながらドワーフに案内され付いていくと、酒や飲み物を作る魔道具が置いてある場所に連れてきてもらった。


「どういうのが欲しいんだ?」


「正直、全然わからんから一番いいのを頼む」


「ルディ……分からないんなら何で一番いいのを買うのよ」


 と、カーディフが少し呆れながら話しかけてきたので簡単に説明した。


「わからんからじゃぞ、一番いいの買っておけばとりあえず悩むと言う選択肢は減るからのう」


「角付きの嬢ちゃん。酒でも色々有るんだぞ……ウチのは一番いいのを買っておけば全部できるが……」


「あまり詳しくないがワインとかなら発酵させてつくるんじゃろ?」


「ああ、魔石に時魔法を記憶させて発酵させるから時間が短くなったりする機能が付いてるな……悪い所は時魔法ってのはかなり魔力を食うからワインが飲みたい!はい!できました!ってのは無理だな。果実酒みたいな酒を入れて作るヤツなら物によってはすぐできるぞ」


「じゃあ、とりあえずそのいっちゃんええのを一つくださいじゃな」


「黒硬貨15枚もするがいいのか?」


 その値段を聞いてカーディフが高っ!と叫びソアレも驚いたが、ルディールはアイテムバッグの中から黒硬貨を十五枚取り出し支払った。


「……作った奴がいうのもおかしいが、まさか一括で払われるとは思わなかったな……お前さん何処かの国のお偉いさんか?」


「いや、お偉いさんでは無いが、金運に恵まれているようで、ちょくちょくお金が入ってくるからのう」


「ルディってお金持ちだったんだ……見てくれだけはいいから何処かの貴族か何かなの?」


「……と言うより装備も必要無いですし、回復魔法も使えるので経費がほぼいらないので冒険するとお金が貯まるのでは?」


「ソアレ、次の依頼に行く時はルディ連れて行くわよ。回復薬が浮くだけでもかなりの儲けがでるわよ」


「お主ら聞こえておるぞ。」


「買ってくれたよしみだ、調子が悪くなったらすぐ見てやるから持ってきな」


「うむ、ありがとう。その時はよろしく頼むのじゃ」


 ドワーフに礼を言ってから工房を出るとまだ時間も早く、次はどうする?と言う話しになったのでルディールは早速、お酒を造って見たかったのでカーディフに転移魔法を使える事を話し、転移する為にリノセス家に戻った。


 リノセス家に戻るとセニアはもう出かけた後だった、セニアの母に声をかけルディールの家まで飛んだ。


 ルディールの家に着くとカーディフはツリーハウスのような家に驚いたが素直にこういう作りの家が好きだったので褒めた。


「こういう感じの家って素敵よね。ルディあがっていいの?」


「うむ、どうぞじゃな」


「……ルディールさん、先に言っておきますが数ヶ月も経ってないのに一軒家がツリーハウスになるのはおかしいですからね」


 そう話しながら三人はルディールの世界樹の家に入っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る