第64話 勉学2

 王女の怒りが収まり深呼吸してからルディールに話しかけてきた。


「ルディールさんの話だと私が魔法学校に入学した頃にはお母様を治す方法があったと言う事ですよね?」


「うむ、そうなるのう……そればっかりは黙っていてすまないとしか言えぬのう」


 そういうとルディールは素直に頭を下げた。


「それはルディールさんが謝る所ではありませんね、今でも王妃様を治せますと言った所で会うことは不可能ですからね」


「そう言ってもらえると少し楽になるのう」


「ですが、数日後には確実に王城に来てもらいますよ?私が父などを説得しますし、お母様の体力もかなり落ちていますので」


「王妃様の方はイオード商会の商会長が近い内にエリクサーを持って行くと言っておったから体力は回復するとはおもうが、呪いまではどうなるかは分からぬ」


「それは吉報ですね。体力さえ戻ればルディールさんが来てもらう時間が稼げますから……」


 と、少しだが表情を曇らせたのでこの際なのでルディールは王妃の状態についても尋ねた。


「今の感じからすると……もしかして危ない感じか?」


「はい……かなり体力が落ちていますので……」


「神官側も貴族側も何をしたいのかわからぬのう……神殿側が王妃様を利用して優位に立ちたいだけじゃから殺す事は無いと思うが……」


「もうあれですね、父に言って貴族側と神官側のトップを呼んで貰ってルディールさんが前に使用した魔法で強制的に吐かせますか?」


「記憶は残るから後で大問題になって良いなら手伝うぞ?」


 ルディールがそう言うと机にしょんぼりと項垂れて口を尖らして文句を言った、その姿は王女と言うよりは年相応の女の子だった。


「ですよねー。トップが下の者の行動を全て把握できる訳ないですし、そもそもそれが出来てたらお母様も元気ですし……」


 それからルディールは王妃様の呪いの事を詳しく話し、王女と二人で貴族や神殿の思惑を考えたりしたが想像の枠を出ないので今の所はどうしようもなかった。


 そうしている内に王女の口調も砕けていったのでルディールも失礼だが友人と話す様なノリになっていった。


「王女様もそうやって話しておると年相応の娘という感じじゃのう」


「王城とかにいると気は使うし大変ですよ……友人を作るのも超大変ですし」


 そう言うと王女はテーブルに顎をのせ足をバタバタと動かした。


「まぁ権力目当てのお友達は多そうじゃのう。ミーナとセニアはどうなんじゃ?」


「一緒にお昼ご飯いくぐらいですよ~もう少しフレンドリーに話しかけて欲しいんです!」


 王女がそう言うのでルディールはいつもの様に声を変え、セニアの声で王女のリクエストに応えた。


「ちょっと~おうじょ~飯いかない?……みたいな感じか?」


 ルディールからセニアの声が出たので王女は目をぱちぱちさせ少し驚いてから、少し笑いそれぐらい砕けた感じがベストですと言った。


「ルディールさんは変わった特技をお持ちで、でもそれぐらいが理想ですね。遊びに行ったり来てもらったりしたいですよ、本とかの貸し借りとかもしたいですし」


「まぁ、王女が遊びにきたら気を遣うのう」


「来んな!とかは言われないと思いますが、いい顔はされないのは確かですね」


「えぇ~王女かよ~来んなよ~だるいわー……とかはミーナは言わないか」


「言わないよ!」


 ルディールが次はミーナの声で遊んでいると昼食を買い戻ってきた、ミーナとセニアが後ろに立っていた。


 ミーナの方はこめかみが軽くぴくぴくと動いており、セニアは苦笑いをしていた。


「ルーちゃんは放って置くとろくな事言わない……王女様、ルーちゃんが失礼な事を言いませんでしたか?」


「ええ、大丈夫ですよ。とても有意義なお話を聞かせてもらってました。後、ミーナさんありがとうございました」


 急に王女に頭を下げられて何の事か分からずにミーナはあたふたしていた。そしてセニアもルディールに王女様に失礼な事をしてないか尋ねてきた。


「ルディールさん、王女様に何かしましたか?」


「お主達はわらわを何じゃと思っておるんじゃ……そうじゃの~相談事はしたかのう」


「え?何の相談ですか?」


「弟子のベッドの下にエロ本が置いてあったから師匠としてはどう対応したらいいのかと」


 ルディールが余計な事を言うとミーナとセニアは耳まで真っ赤になり口をパクパクさせ、さらに買ってきた昼食を一つ落としてから我に返りミーナが叫んだ。


「ルーちゃん!何言ってるの!ベッドの下にはもう無いよ!」


「なるほど、ではわらわの勘違いじゃな」


「そうだよ!」


 セニアはまだ固まっていたが王女様はそのやり取りをにこやかに笑いながら、ミーナに話しかけた。


「ミーナさんもセニアさんもそういうの読むんですね」


「王女様!違うんです!」


「あっ大丈夫ですよ。私も普通に読むので」



 ミーナとセニアは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり言葉を失ったが王女はそういう本は普通に持っているし王城にはそれぐらいしか楽しみが無いとも笑いながら言っていた。


 そしてルディールはこういう時は邪魔せぬ方が良いと思い静かに席を立ち、自分の調べ物を探しに行った。


 それから少ししてルディールがミーナ達の所に戻ると三人の距離感が少し縮まっていたような気がした。


 そして王女に礼を言われ今度ミーナの部屋に遊びに行く事になったと喜んでいた、ルディールもそれ以上は追求する必要も無かったのでよかったのうとだけ言った。


「さてと、そろそろ昼食にせぬか?」


「それは私も思ったんだけど……ルーちゃんの分は無いよ!」


「何故じゃ!」


「自分の心に聞くといいよ!」


 ルディールは自分の胸に手をあて思い返すと思い当たる節しか無かったので、セニアに助けを求めたが助けてくれなかった。


 最終手段で王女の方も見たが育ち盛りなのでと断られた。


 それから今だけは身分などを気にせず皆で楽しく食事を取った。


 ルディールもちゃんと分けてもらった。




 それから少しして王女にお迎えが来たので図書館から出るとお迎えと一緒に神官の聖女がおり、王女の顔つきが変わった。


 聖女は王女に媚びるように振る舞ったが王女は軽く流し王族の馬車に乗り込みルディール達に別れを言い去って行った。


 王女のその態度が気になったので聖女がルディール達に噛みついてきた。


「おい、そこの角付き。王女様に何かしたか?」


 と、ルディールの嫌いな属性全開で話しかけてきたので、シャドーステッチで縛って横の水路に流そうとしたがミーナとセニアもいたので余所行きモードでおとなしく返した。


「いえ、弟子の勉強を見るのに図書館でたまたまお会いしただけですよ?それとすみませんが、私は辺境に住んでいましてこの辺りの事には疎くて、御高名な方だと思いますがどちら様で?」


 そう話すとミーナの顔を見てあからさまに嫌悪感をだしたがルディールを小馬鹿にし自分の立場を説明した。

 その態度は偉そうで傲慢だったがルディールは終始笑顔で対応し上手いこと荒波をたたさずに去って行かせた。


 聖女が何処かに行きミーナとセニアの方を見ると、ルディールを馬鹿にされた事もあり目頭を熱くし怒っていたので、ルディールは二人を頭を抱き寄せ落ち着かせた。


「うむ、二人ともわらわの為に怒ってくれてありがとう」


 少しは落ち着いたがミーナはまだ怒っていた。


「聖女様、あんな人だと思わなかったよ!いや……学校だと話しないから分からないんだけどさ!ルーちゃんも怒っていいよ!」


「私もそう思います」


「ああいうのは褒めると調子にのってつけ上がるからのう。色々と探れるからあれでいいんじゃわい。あと学校で王女様に会ったら礼を言っとくのじゃぞ」


 二人とも何が何か分かって無かったが、ルディールは人混みにいた人を手招きで呼んだ。


「はい?ええとお嬢さんに私はどうしてよばれたんでしょうか?」


「まずは礼じゃな、昼間はミーナとセニアの買い出しの時の護衛をありがとう。王女様に伝言を頼む、さっきの馬鹿と入学式にいた聖女は別人じゃ」


 ルディールがそう言うと、ミーナもセニアもその男も大きく目を見開き驚き声を無くしたが、ルディールは今の情報が使えるかどうかは分からぬがさっきの馬鹿に嫌がらせには使えるじゃろうと軽くウィンクをした。


 すると男は左右に頭を振って少ししてからルディールに頭を下げ文字通り消えた。


「あーちょっとすっきりしたわい。向こうの手札が知らぬ間に消えて行くのは楽しいの~」


「さっきのおじさん護衛してくれてたんだ……って聖女様別人なの!?」


「お主らのクラスのは見たこと無いからどっちがどっちか分からぬが、少なくともさっき言ったように入学式のと今のは別人じゃぞ」


「ええと……ルディールさん聞いても分からないと思いますがどうやって分かったんですか?」


「うむ、魔力に色があるように影にも色があるからのう。わらわの使う索敵魔法が別人と判断したから間違いないと思うぞ」


 とよく分かってない二人に説明しながらミーナを寮まで送っていった。


 


 ルディールや新しくできた友人達と別れた方向を王女が馬車の中から眺めていると影が揺らめき先ほどルディールが会った男になり、頼まれた伝言を伝えた。王女もその事は知らなかった様で少し考えてからルディールのいる方向に頭を下げた。


「貴方達から見てルディールさんはどう見えますか?もしもこちらと敵対する事があれば勝てそうですか?」


 王女のその言葉に男が反応し姿を変え黒ずくめになり答えた。


「正直に言って勝てません。図書館に入った時点で王女様の事に気づいては居ませんでしたが、我々全員に気がついていました。どうやって私に気がついたのかもさえ私には分かりません」


「そうですか……」


「ですが……殺気やそういうのには疎いようで魔力封じの宝玉を出した時にかなりの殺気を飛ばし戦闘態勢に入ったのですが流されました」


「話で聞くような強者の余裕なのでしょうか?」


「それは分かりませんが……王女様、私からも質問よろしいでしょうか?」


「どうぞ」


「先ほどの魔法使いと争うおつもりですか?」


「はい?しませんよ。あたらしく出来た友人の師匠ですし、悪い人には見えませんからね」


「それは良かったです。王女様が行けと言うのであれば我々は行きますが、傷一つつけられず全滅は必至です。王宮騎士が小隊規模で壊滅した話を聞いた時は嘘かと思いましたが、あの方を見れば納得できます」


「貴方達にそこまで言わせる人物が、のうのうと王都を歩いているのは少し問題があるような気がしますが……」


 王女は少し難しい顔をしていたが、母の病の解決の糸口や新しく手に入れたものの大きさに笑顔になり王城へと帰っていった。




 ルディールが軽く、くしゃみをした所で魔法学校の寮にたどり着いた。


「ルーちゃん風邪?大丈夫?」


「なんとかは風邪ひかんと言うから大丈夫じゃろ、ここでよいか?」


「自分で言う事じゃ無いけどね……うん、送ってくれてありがとう!」


「どういたしましてじゃな。わらわはしばらくは調べたい事があるから王都の図書館におるから暇だったら遊びにくると良いわい」


 そういうとミーナは嬉しそうに行くと答え、ルディールとセニアに別れを言って寮に戻って行った。


「さてとセニアよ、帰るかのう」


「はい」


 そう行って二人で少し陽が傾いた王都の道をゆっくりと歩きながら帰って行った。セニアの家に近づき大きな門が見えるとそこには、最近見慣れた魔法使いとレンジャーがいてこちらに気がつくと話しかけてきた。


「セニアとルディールさん、チワです。何処かにお出かけで?」


「うむ、セニアと図書館デートじゃな」


「ちっ違……」


 ルディールがそう言うと少しセニアが赤くなったのでソアレが反応した。


「セニア、貴方の事は妹の様に思っていましたが、それも今日までですね。さようなら」


 と、また訳の分からない事を言い出したので無視して、ルディールは一緒にいたカーディフに話しかけようとしたが……何かこう凄い機嫌が悪かった……知らない人が見ても分かるぐらい機嫌が悪かったのでセニアが恐る恐る話しかけた。


「ええと、カーディフさん何かありました?」


 そう聞くと黙ったままルディールに近づき、手刀をルディールの頭に振り下ろした。ガスッと聞こえの良い音が響いた後にルディールは頭を押さえ涙目になった。


「カーディフよ、いきなり何をするんじゃい!」


「いや、ルディが悪い訳じゃないんだけど……こう色々思い出したらムカついたと言うかなんというか」


 そう話し、ソアレが言った台詞までは言わなかったがカーディフは簡単に説明した。すると明らかな濡れ衣だったのでルディールは一言文句をいった。


「セニアもソアレも言ってやれ!胸の無いヤツは心の余裕も無いんじゃと!」


 その台詞を言うとソアレは一人で大笑いし、セニアはあたふたし、カーディフは二撃目の手刀を振り下ろした。


「くっ!ソアレにあったらドワーフの事について聞こうと思っておったのに!」


「これまでの事を踏まえて、後、数回殴らせてくれたら私が教えるわよ?」


 カーディフが諦めるまでルディールはずっと追掛け回された。

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