第13話 街へ

 コボルトやデスコックがミーナの家で働き出してから数日が経ち、ルディールと村長が中央都市に向かう日が訪れた。


「さて、村長の家に向かうかのう」


 ルディールが自室で準備を終えると窓の外に見慣れた人物が、こちらに向かって歩いていた。


 玄関の来客用の鐘が鳴らされその人物の声が聞こえた。


「ごめんください。ルディールさんいますか?」


「なんじゃい。ミーナよ。改まってどうした?」


「あっ、ルーちゃんおはよう。他に誰かいるかなっと思ってね」


「お主の後ろに居るではないか」


 えっ! とミーナが勢いよく振り返るがそこには誰もいなかった……。


「まぁ、嘘じゃが。どうした?」


「はぁ~……そういうのびっくりするから本当にやめてね。それでね中央都市に行くなら私も付いて行っていい?」


 ルディールのいたずらに大きくため息をつき、抗議の声を上げた。


「昨日、聞きに来たんだけど、ルーちゃん居なくて、出かけてたの?」


「しばらくおらんと言うのと、家の場所を猿達に教えるのに森に入っておったんじゃ」


「へぇ~おさるさん達は元気なの?ルーちゃんの群れって言い方も変だけど……」


「元ボス猿が、わらわに再戦するのに鍛えておるわ。それにつられて他の猿達もトレーニングしておるのう……後はそうじゃな……お主の父にも声を掛けるつもりじゃが、森のかなり奥で竜を見かけたらしい」


「うへっドラゴン⁉」


「わらわが直接見た訳では無いからなんとも言えんのう。で?お主も中央都市に行くとの事じゃが宿はいいのか?」


「うん、ルーちゃんの所から来てるワンコーズとデスコさんのおかげで、私がでなくてもいいくらいになったから、お父さんが村長とルーちゃんの了承がもらえたら行っていいって」


「デスコさん?……ああ、デスコックの事じゃな、了解した。では先に村長に了承を貰いにいくかのう」


「うん、わかった」


 村長の家に向かうと、準備は出来ており出発時間まで、まだ時間があるので朝食を取っていた。


 ミーナの事を伝えると、いいですよと簡単に了承をえて、それから猿達から聞いた竜の話を伝えると村長もミーナの家に向う事になった。


 ミーナの家に着くと普段と比べると忙しそうではあったが、まだ朝で客も寝ているようで比較的に時間はあるようだった。


 ミーナは父に中央都市に行く事を伝え、自室に準備していた荷物を取りに行った。その間に森で猿達が竜を見たという事を伝えた。


「はぁー……ドラゴンか。どのドラゴンかにもよるが村までは来るなよ……」


 ミーナの父は頭を掻きながら竜が来た時の対策を考え、村長はもしもの時の為に指示を出す。


「もしかしたら、そのドラゴンのせいで、森の獣達が浅い所まで出て来てるのかも知れませんね。ロックドラゴン辺りだと思いますが、村へ来た時は避難してください」


 話を聞いていたルディールはそのドラゴンの強さが気になり訊ねた。


「岩の塊のようなドラゴンなんですが、Bランクにあがる時によく狩られる竜です、足は遅いのですが、体が固いので村人には十分脅威ですね。まぁその上位種にアースロックドラゴンと言うのがいるらしいですが、私は見た事がないのでなんとも言えません」


 なるほどと頷いていると、ミーナが準備を終えて丁度降りてきたので、村長はミーナの父と話を詰めてから、三人は村長の家に行き馬車で中央都市に向かう事になった。村から出る時にミーナの父が来て、


「中央都市になら俺の弟がいるから、ミーナとルディールはそこに行っとけ。村長は貴族の所だろ?」


 そう言って少し会話をしてミーナの父親は三人を見送った。


 荷馬車を引く馬は競走馬を一回り大きくして頭には二本の立派な角があった。その姿にルディールは心当たりがあり、馬の手綱を引く村長に訊ねた。


「村長、その馬はもしかしてバイコーンか?」


「ええ、よくご存じで冒険者の頃からの相棒ですね」


「おお!歴戦の勇士の様な貫禄があるのう。同じ角突きじゃ、街までよろしく頼むぞ」


 バイコーンはルディールの方を見て、任せておけと言わんばかりにブルルルッと鼻を鳴らした。その姿を見て、村長がミーナにオントさんは魔獣と話せるのか? と訊ねていたが、ミーナも、毎回誤魔化されているので良く分からないと話していた。


 ルディールが村長やミーナに中央都市の事を聞きながら旅を続けていると、ミーナの頭が前後に揺れだした。


「ミーナさん、眠そうですね」


「あれじゃろ、中央都市に行くのが楽しみで夜に眠れなかったとかじゃろ」


 それを聞いたミーナが眠そうに抗議してきた。


「私……そこまで、子供じゃ……ない」


「何かあれば、起こしてやるから寝ておけ」


「ルーちゃん、あり……が……」


 言い終わる前に力尽き、ルディールの膝の上に倒れこみ、膝枕の形になった。


 その姿をみて村長が少し笑いながら、仲の良い姉妹のようですねと言った。その反応に、ルディールは膝の上で眠る妹の様な少女の頭を撫でながら。


「宿の仕事が忙しくなって疲れたんじゃろな。馬車の中はゆっくりしておるから気が抜けたんじゃろ。この様な立派な妹がおったら姉は鼻が高いじゃろうな」


 と村長と笑いあいながら穏やかな時間が流れていた。




 それから暫くして、膝枕されているのにミーナが驚き飛び起きて、ルディールのあごにヘッドバットを直撃させて穏やかな時間は終わった……。


「つっ~……お主……何をするんじゃ」


「いった~……ルーちゃん……ゴメン……ほんとゴメン……」


 二人の姿をみて村長はまた笑い、今日の目的地に着いたと教えてくれた。


 その場所は街道の脇の開けた所で、旅人や商人が馬車を止め、皆思い思いの所で休憩していた。その風景をみてルディールがどういう場所なのか村長に訊ねた。


「村長、この場所はどういう場所なんじゃ?」


「主要都市や王都の様な大きな街へ行く街道には、ここのように休憩できる所があるんですよ。この場所を囲う様に四つの柱があるでしょう?あれが結界になっていて、獣や魔物は近寄れないようになっています」


(なるほどのう、行商が食べ物を売っていたりもするから、高速道路のサービスエリアみたいなものか)


「ルーちゃん、何か見にいかない?」


 ルディールは護衛の事もあるので村長に確認を取ると、ここで問題を起こすとすぐに中央都市から飛竜兵が飛んでくるので、大丈夫だと教えてくれた。


 それからルディールはミーナと商人達が出す露店を回り食べ物や本等を買い、商人達から色々な情報をもらいその日は終了した。


 次の日は太陽が昇って、少したってから出発した。


 バイコーンに手綱を任せ、荷台の中でコーヒーを飲む村長に、ルディールが昨日、商人達から聞いた情報を話す。


「商人達が、もうすぐ進むと山賊が出ると言うておったぞ?中央都市から飛竜兵とか言うのが、飛んでおるんじゃろ?本当にでるのか?」


「もう少し進むと太古の森という森に少し入るので、そこでしょうね。森に隠れられると上からは見えないので、手を焼いていると聞きました」


「街道の付近だけでも木を切って整備したらええのにのう」


 ルディールの疑問に村長が、太古の森は耳長族達が森のかなり奥に住んでいる所でもあり、この国との盟約で木を切ってはいけないと教えてくれた。


「気になる所は……森なのに山賊なんじゃな……盗賊ではダメなんじゃろうか?こう……人にはわからぬ拘りでもあるんじゃろか?」


「ルーちゃん……気にする所、絶対に間違ってるからね」


 ミーナの非難の眼差しを受けながら進むと森が見えてきて、村長は警戒しながら進んで行った。


 森に入って少し経ってから、ルディールが数を数えだした。


「ふむ、10と3じゃな……バイコーンよ、まだ相手が判らぬからそのまま進んでよいぞ」


 バイコーンは軽く鳴いた。その様子が気になった村長が訊ねてきた。


「バイコーンが警戒していますが、もしかして山賊ですか?」


「うむ。まだ少し遠いが13人ほどおるのう」


「戦闘の準備ですね……」

 

「えっ、ルーちゃん大丈夫なの……って何でまだ本読んでるの?」


「ん?もう終わっておるからのう」


 そういって自分の影に指を差すと、糸のような細い影が伸びて森の方向に向かっていた。


「ルーちゃんその細い糸は?」


「後のお楽しみにじゃな。万が一という事もあるから、こちらからは何もせぬがな」


 警戒しながら先に進むと、ルディールがそろそろ来るぞと教えた辺りで十数人の男達に囲まれ、その内の一人が叫んだ。


「そこの馬車!止まれ!俺達はこの辺りが縄張りの山賊だ!お前達のすべてを貰うぞ!」


 山賊達の姿を見て目を輝かせながら、ルディールが口を開く


「おお!ミーナよ!山賊と名乗ったぞ!森なのに!」


「ルーちゃん……襲撃された時のテンションじゃないよね?それと森賊だと言いにくいからじゃないかな?」


「追い剝ぎでいいと思いますけどね」


「ブルル」


 三人と一頭の態度にこめかみをピクピクと痙攣させ、山賊達が声を荒げる


「お前ら、覚悟しろよ!男の方は殺して、女の方は俺達で可愛がってやるよ。へへへ」


 その不気味な笑いにミーナは、ルディールの後ろに隠れる。


「村長。こういう連中は首を刎ねて、埋めといてええんじゃろうか?」


「オントさんはマイペースですね。殺してもいいですが生きたまま中央都市に引き渡すと、一人金貨六枚貰えますよ。死んでいたら三枚ですね」


「そうか……いくら悪党と言えども更生の機会はあってもええじゃろ!」


「……ルーちゃん……目が金貨になってるよ……」


 三人の態度に切れた山賊が襲い掛かってきた!


「この!馬鹿にしやがって!」


「馬鹿にはしておらん。ただ小馬鹿にはしておるがのう」


「なっなめやがって……あっ?動けね……」


 ルディールの影から伸びた黒い糸が山賊達にすでに巻き付いており、魔力を込めると相手の自由を奪った。


「さてと、これ以上はお主達に与える情報は無いのう。目と耳も塞がしてもらおう」


 さらに魔力を込めると黒い糸が目と耳を塞ぎ、十三人の男達を一か所にまとめ縛り上げた。


「おい!ふざけんな!何をしやがった!」


「こんなもんじゃろ。これで金貨78枚とかぼろ儲けじゃな!」


「なんて言ったらいんだろうね……この黒い糸も魔法?」


「シャドーステッチという捕縛魔法じゃな。使用者の魔力で範囲と強度が上がるからたぶん切れんじゃろ。このまま中央都市まで行って魔法を見せるのも嫌だから、村長にロープを貰って後で縛るんじゃがな」


 その言葉を聞いて、村長が荷台からロープを持って降りてきた。


「オントさんこれでいいですか?そういえば口はどうして塞がなかったんです?」


 まだ騒ぐ山賊達を見て、村長はルディールに聞いた。


「おい!聞こえてんだろ!俺達に何かあったら頭が黙ってねーぞ!」


「うむ。やはりおったか。それが聞きたかったんじゃ。お主以外はもう話さなくてよいぞ」


 シャドーステッチを操作して、今喋った山賊以外の口をすべて閉じた。


「ああ、そういう事ですか、巣ごと潰すんですね」

 

「そういう事じゃ、こういう輩には手加減しなくていいから楽じゃのう。チャーム」


 残った山賊に魅了の魔法をかけ拘束を解く。最初は少し抵抗していたが、次第に目から光が消えた。


「えぇと……ルーちゃんそれも魔法?」


「精神汚染の魔法じゃな。もうわらわ以外は見えぬし、わらわのいう事以外は聞かぬはずじゃ。解くと元に戻るんじゃがな」


 ルディールは山賊に数点の質問をし、アジトの場所は洞窟の中で、残りの人数は六人と人質の女が二人だと言うのを知った。後は装備や罠について訊ねたが特に警戒するほどの事は無かった。


 オントさんどうしますか?と村長が訊ねてきたが。


「このまま助けに行く訳にもいくまい。まずは予定通りに街まで行く方がいいと思うがのう」


「えっ?そうなの?ルーちゃんなら直ぐに助けに行くかと思ったんだけど……」


「わらわが離れた時に何もないとはかぎらんし、その捕まってる女がどういう人間かも分からんしのう……お主や村長の方が大事じゃわい」


 ルディールの言葉に、村長が少し考えてから提案を出す。


「もうすぐ森を抜けます。抜けたら小さいですがまた休憩所がありますし、私やバイコーンもいるので行って来ても大丈夫ですよ?」


 その言葉にルディールは少し考えてから返事をする。


「では、休憩所まではわらわも行こう。村長やバイコーンなら大丈夫と思うが、護衛を言いだしたのはわらわじゃからのう」


「分かりました。オントさんがそれで良ければ大丈夫ですよ」


 それから約一時間で森を抜け、休憩所に着き、ルディールは魅了した山賊にアジトの詳しい場所を吐かせた。


「思ったよりも近くじゃな。向かう前にと。クリスタルビット!」


「村長が敵と判断したら攻撃せよ」


「オントさんその宙に浮くクリスタルは?」


「攻守共に優れた自動攻撃魔法じゃ。指揮権を村長にしてあるから、もしも何かあったら反撃に使えるぞ。一応の保険じゃ」


「ありがとうございます。後、何かやっておく事はありますか?」


「では山賊共を縄で縛っておいてくれるか?シャドーステッチの上から縛れると思うのでな」


 分かりましたと村長が行動を始めると、ミーナが何か言いたげに近づいてきた。


「ルーちゃんの事だから大丈夫だと思うけど、気を付けてね」


「よほど危なくなったら、見殺しにして帰ってくるから大丈夫じゃ」


「……その言い方もどうかと思うけど、ルーちゃんらしくていいのかな?」


「では、行ってくるぞ」


「うん」


「その会話を最後に、私はルーちゃんの姿を見ることはなかった…」


「私の声で、そんな不吉な事いうのやめて!」


「さてと。……翼よ!」


 親指をあげ、ミーナに挨拶をし、背中に翼を生やして目にも止まらぬ速さで、森の中へ飛び込んで行きすぐに目的の場所を見つけた。


「確かに空から見える場所ではないのう……」


 ルディールは静かに行動を開始した。

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