第73話 変わった神がいるらしい

「――なるほど、俺たちに好意的な中立派が何柱かいるのか」


 タイミングがタイミングだったため、フライデルの報告を聞きながらのオヤツタイムと相成った。

 拠点に用意したフライデルの部屋。

 その中のテーブルにいちごのショートケーキとレモネードを並べ、コムギ、コゲ、ハンナベリー、パーシモンたちと一緒にそれを囲んで座る。


 食べながら真面目な話をすることに関してのマナーはさておき、こうして頭を働かせながら食べるのは好きだから特に問題はない。

 難しいことを考えるのはそれだけでエネルギーを使うから、こうしておけば常に補給もできるしな。

 ちなみに頭を空っぽにしてもりもり食べるのも好きだぞ。


 風の精霊たちはこの短い時間で様々な方角へと飛び、そして同じくらい様々な情報を仕入れてきた。


 さすが風といったところだが、パーシモン曰く「普通の神の指示だとここまで早くないですよ」とのことだ。

 グータラでもやっぱり風の神は風の神なんだな、さすがだ。


 そんな風の精霊たちが教えてくれたのが、新旧の食事の神が揃って作った第三勢力に対して『関心がある神』『関心のない神』『好意的な神』『敵意を持っている神』に分けた中立派の神々だった。

 日和見しているのにもそれぞれ理由があるわけだな。


 敵意を持っている神は俺たちに対して「本物か偽物かわからないけど、折角派閥のバランスが取れてたのに突然現れて引っ掻き回しやがって」「同じ神、しかも最高位の神が二柱も現れたタイミングが悪い。千年くらい後なら良かったのに」という気持ちがあるらしい。

 言いたいことはわかるが、まず俺は食事の神になりたいと願って生まれ落ちたわけじゃないし、コゲだって堕ちてから再び神の座に戻ることを狙ってやったわけじゃない。不可抗力だ。


 けれど天界を鎮めないと下界にも色々な影響が出る。


 俺たちに引っ掻き回されたくないなら二派閥の争いをそっちでどうにかしてくれと言いたい。

 それにバランスが取れてるんじゃなくて拮抗状態で出し抜き合おうと水面下でアレコレしてる状態だからな、下界にそのとばっちりが行く可能性がある限り看過はできない。


 争いの大本である食事の神二柱が責任を持って天界を鎮めた後は、平和な状態が長く続くよう努力しよう。……そう伝えながら説得して回るしかないか。

 もちろん争わなければ中立のままでいてもらってもいいって言葉は添えて。


 関心を持っていたり、初めから好意的な神にはこちらから積極的に接触していってもいいかもしれない。

 そう考えているとフライデルが「言っておくが」と前置きして口を開いた。


「まさに『風の噂』程度の信用度だからな? あいつらが腹の中でなに考えてるかまではわからねぇぞ」

「ああ、わかってる。それでも参考になるぞ」

「あと中立派からの初の仲間は俺だからな、忘れんなよ」


 ……身内認定した相手には結構依存するタイプか?

 なんにせよ俺としては悪いことじゃない。しっかりと頷いてからテーブルの上を手の平で示す。


「もちろん。そんなお前のために作ったケーキの味はどうだ?」

「まぁまぁだな」

「減りが尋常じゃないほど早いんだが……」


 その言葉にフライデルは突然味わっているようなゆっくりとした動きになり、しかもどうやら食事の神に『食べるのが早い』と言われるのは名誉なことなのかハンナベリーとパーシモンが「いいな……」と羨望の眼差しを送っていた。情報量が多い。


 いちごのショートケーキの出来は上々だ。

 甘いいちごに合うように生クリームは少し甘味を抑えたものにした。

 スポンジ部分はふわっとしていて、けれど咀嚼するといちごや生クリームとはまた違った甘味が出るようにしてある。

 慣れないお菓子作りだったが良い感じにできた。まあ生クリームの厚みはちょっとバラバラになったし、いちごもここへ運ぶまでに斜めになったが、それで味が大きく損なわれるわけじゃない。


 ……むしろ手作り感が出てフライデルは嬉しいみたいだ。

 口に出しては絶対に言わないが、表情が雄弁に語っていた。


「さて、ここから次に訪ねる神をピックアップするか。まずは友好的な神に――」

「そういや変わった神が中立派にいるみたいだぞ。お前と気が合うんじゃないか?」


 フライデルがいちごを咀嚼しつつ言う。

 変わった神を『気が合うかもしれない』と勧められるのは心外だが、それはそれとしてどう変わっているのかは気になる。

 こちらも瑞々しい大粒のいちごを齧りながら訊ねると、フライデルは人差し指の代わりにフォークを立てて答えた。


「いつでも同じ味の料理を食べることにこだわってるらしい」

「それは料理人の矜持みたいな……?」

「さぁな、詳しいことはわからん。でも――食い物関連だ、気になるだろ」


 それはそうだ。

 もし料理人の矜持だとしても、更に美味いものを目指すんじゃなくて均一な味を目指してるのが気になる。勧誘もしたいが、まずは料理に対する持論があれば聞いてみたいところだ。

 俺は甘酸っぱいレモネードをごくりと飲み下してから問い掛けた。


「で、なんて神なんだ?」


 フライデルは頷いて口を開く。

 そして『関心のない神』の一柱として初めて聞く神の名前を出した。


「――保存の神、レイトだ」

「保存の神レイト……そういうのを司ってる神様もいるんだな」


 概念的なものを司ってるから高位の神なんだろうか。

 概念的だからといって全員が高位ではなく、例外もいるみたいだから判断はつかないが――気になるなら、これは行ってみるしかないだろう。

 そうして出発は明日に決まり、この日は準備だけして休むことになった。

 レイトの住処は場所こそわかりにくいものの距離としては一日あれば辿り着けるらしく、サンドイッチを弁当として持っていくことにする。


 あとはフライデルのアドバイスで手土産にクッキーを。

 天界じゃ食事の神の手作りクッキーなら手土産としては十分だそうだ。

 前世だと初対面の、しかもこれから勧誘しようって相手に手作りクッキーは美味く出来ててもヤバいだろうが文化の違いだな。


 そんなこんなで準備が終わり――俺たちが仰天することになったのは、翌日の朝のことだった。

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