仇
確かに言われてみれば、美衣子の狙われた理由は心霊スポットに立ち入ったことによるものだと簡単に納得していたが、立ち入っただけでこんだけの被害があるのであれば、他の一緒に行った連中が無害というのもおかしな話だった。
それともまだ、俺の知らない何かが、その理由と言われるような事があるのだろうか。
『これはホントにワイの勘というか……予想でしかないんやけどな、アレは霊障っちゅーより、呪いに近いんやないかと思うわ』
麗らかな陽射しの下、イナリはそう言って独演会の幕を閉じた。
「美衣子、飯ここでいいんじゃねぇか?」
「うん、じゃあ私おごるよ。あっきぃ、席とってて?」
適当なファーストフードの前で立ち止まった俺達は、まだ人も疎らな店内へと入った。懐の寂しい俺は、美衣子の嬉しい申し出に、注文を任せ、先に二階に空席を探しに行く。
「なぁ、イナリ?尊さん達は今お前が言ってたような事はわかってるのか?」
やっと一人になったところで、数分ぶりの会話を再開する。
『あぁ、昨日壁の手形消しとる時に同じような事言うとったから、単純に憑かれてるだけやないっちゅーのは解ってると思うわ』
イナリもそれが自然な事であるかのように、投げ返してくる。
『あっ、それからな、これは昨日猫共にも言っといたんやけど……なんでかは分からんけど、昨日のアレは、暁、お前に対してもなんらかの感情をもっとったわ』
「はぁ?」
『ほら、昨日お前は当てられとったって言うたやろ?ワイが引っ張り出したから大した事にならんかったけど』
「あれは邪気が充満してたからじゃないのか?」
『なんや、全然分かっとらんかったんか?お前は尊はんにその腕輪もろうたやろ?それはな、尊はんの神力が練り込まれた結構な物や。せやから、神様のワイですらお前に危害を与えられん』
イナリはそう言って、手首に填められた青い石が入った麻の腕輪を指す。
『ちゅーことは、アレはお前に対してもなんらかの想いがあったからこそ、お前は当てられたんやで?』
思ってもみなかったイナリの言葉は、美衣子の事ばかり心配していた俺にとって、正に寝耳に水な話だった。
「あっきぃ、お待たせ」
トレーに二人分のバーガーやサラダを抱え、美衣子が席へとやって来る。
夕食を抜いて、徹夜明けのファーストフードの味は、奢りという儲けを加えても、そんなに美味しいと感じられるものじゃなかった。
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