目敏く見つけられてしまった事に、なんとなく隠したいような衝動にかられる。


「へぇ~女の子?」


 しかし美衣子はどうやら違う意味で詮索しているみたいだった。

 別に尊さんと会っていることを悟られてはいけないわけではないのだが、変に勘繰られたくはない。


「いんや。実はさ、これ親父から貰ったんだよ。仕事でどっか行った土産だって押し付けてきやがった」


 仕方無く、出来もしない腹芸をして誤魔化す。

 美衣子は微妙な表情をしている。

 なので、もう一押し。


「あの親父、未だに子離れ出来なくってさぁ。付けてないとマジで泣いたりすっから」


 わざとらしく溜め息を吐く。

 美衣子も親父の事は大学の講師として顔を合わせているので、こう言えば納得してくれるだろう。


「あー、確かに」


 美衣子の表情が、中途半端なものから苦笑いへと変わる。

 どうやら余計な疑いは晴れたようだった。

 それにしても、イナリも美衣子も、どうして揃いも揃ってこう色恋沙汰に結び付けようとするのだろうか……

 まぁ、年齢的に彼女がいてもおかしくない年頃なのは解ってるし、別に男色家というわけではない。

 俺だって色恋沙汰の一つや二つくらいは経験している。

 元々好きな娘とかいれば別なんだろうけど、生憎今はいないし。

 美衣子の疑いも晴れ、俺がそんな事を考えていると、吹っ飛ばされた衝撃から立ち直ったイナリが此方へ戻って来た。

 そして一言。


『お前大根役者やな』


 その言葉に、俺が再びイナリを吹っ飛ばしたのは、言うまでもない。







 大学が休みの日は大抵バイトして一日を終える俺は、土曜日、日曜日と一日中バイト先で過ごしていた。

 一昨日、俺は美衣子に神社に付き合ってくれたお礼にご馳走すると言われて食事に行ったのだが――――――結果から言うと散々だった。

 美衣子が予約していた店は、高級そうなイタリアンで、一人では絶対に入らないような店だった。美衣子は約束通り奢るとは言ってくれたものの、流石に女の子に全部払わすのもいかがなものかと思い、半分払うと申し出た。しかし、メニューを見たら、ちょっと予想よりも更になお値段で―――味はほとんど覚えていない。

 その上、これじゃぁお礼にならないからと、カラオケに行くことになり―――帰路についたのは深夜のことだった。

 しかも、約束していた油揚げ二袋まで買わされて……

 まだ給料日までは日にちがあるというのに、かなりの痛手だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る