弐拾壱
『…………』
しかし狐から反応が返ってこない。頭を上げ、様子をうかがうと何故かまたしてもぶわりと涙を溢れ出させていた。
『グス……駄目なんやぁ、それじゃぁ……』
尚も飽きずに泣き続ける。怒ったり、泣いたり、実に情緒不安定な狐である。
「なんでだよ?」
俺は狐に歩み寄りそっと頭を撫でてやった。謝罪により一応怒りは鎮まったのか、狐は大人しく撫でられる。
生まれて始めて狐に触ったのだが、その毛並みは猫よりは硬く、犬よりは滑らかという感じだった。
『だって……』
「だって?」
『だって……ワイの社……グス……無くなってしもうたんやもん……グス』
は?という疑問符を含んだテロップが狐以外の全員の頭に浮かんだ気がした。
って、ええーー!?
「……それは俺のせいか?」
『うぅ……きっと壊れてたから完全に壊してしもうたんや……』
撫でる掌の下から、こちらの反応をうかがうようにチラチラと狐が見上げてくる。
『社なんてそうそう壊す物じゃないぞー!大方どっかに移動したんだろ!』
どうしたものかと肩を竦めた俺に助け舟を出すかのように地陸猫神がそう言う。
『そうだな、災害などがあったということなら無いことではないが、少し壊れていたからといってそう易々と壊すものではないな』
天空猫神が更に言葉を重ねると、狐の細い目が游ぐように彼方に移動した。
確かに、例え小さな社だったとしても、祀られていたのには違いないのだから、管理しているものがいたはずだ。もしこの狐が記憶の中にあるあのパーキングエリアの社にいたのであれば、周囲に神社こそ無かったが、掃除もされていたようだし、誰かしらが手入れをしていたのは間違いない。
狐が言うように壊れていたから壊したのだとしたら、新しく作り直すなり、別の場所に社を設けるなりの対処を行うのが普通じゃないだろうか……。
『さては、お前!自分の社がどこに移動したのか解らなくなったんだろー!?』
狐の体が目で見て判る程に大きく跳ねた。撫で続けていた掌が突き上げられた振動で勝手に離れる。
『…………チャウワイ』
狐の否定する声はやけに小さかった。これではその通りですと言っているようなものだ。
『移動したって普通感知出来るだろー?低級だから判んないんだよー!』
『祟り神に成り下がり、その上自分の社を移動されて帰れなくなるとは……同じ獣神として恥ずかしいわ』
狐の勢いが萎んできたのを見計らい、猫神達はここぞとばかりに責め始めた。
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