弐拾
反論しかけて、ふと固まった。
『……あるんだ』
『……あるんじゃな』
「……あるんですね」
目線が深く突き刺さる。
「はは……はい」
俺は空笑いしながら頷いた。
確かに記憶の底を掘り返してみると、そんな経験があるような気がした。
あれはまだ小学生にも上がらない頃、親父と一緒に何処かに出掛けた帰りの事。
その頃の俺は怖がりで、怖いことがあると直ぐに「お父さーん」と言って親父の足にくっついて離れなかったので、親父はそんな俺の反応を面白がって、よく怖い話をしていた。
その日は確か狐憑きの話だったと思う。
休憩がてら寄ったどこかのパーキングエリアのトイレ。先に出た俺は、親父を待つほんの僅かな間、近くにあった狐の石像と小さな朱色の鳥居があるだけの社を見つけ、涎掛けのような赤い前掛けをしている狐の石像を見ていた。
すると後から出てきた親父は、ふと思い出したとばかりにわざとらしい低く落ち着いた声で話し始めた。
俺は、笑いを堪えるために背を向けて語る親父の後ろで、怖くてパニックに陥り、そして――――――バキッ!
慌てて社から離れようとしてバランスを崩し、倒れまいと反射的に出した手が何かにぶつかり軽い音をたてた。
それは、社の中の狐の尻尾だった。尻尾の先が綺麗に割れてしまっていた。
俺は狐に呪われると真っ青になり、慌て、親父がこちらを向いていないうちにそっと折れた尻尾を元に戻したのだった。
『そうや!そん時ワイの社はオノレに破壊されたんや!やっと思い出したんかっ!』
記憶を手繰りながらぽつりぽつりとその時の経緯を話していると、今まで黙り込んでいた狐が火を吹くようにがなりだした。
「あれは元々壊れてたんじゃないのか!?子供の力であんな綺麗に割れるもんじゃないだろ!?」
慌て弁解する。
『うるさいうるさい!!あれはオノレが壊したんやー!!』
狐は子供のように手足をジタバタと振り回す。
まぁ、確かに言い訳したところで、狐からすれば祟るには充分な理由だろう。いくら子供だったとは言え、してしまったことを正直に申し出ていれば、直すなりなんなり、これほどまでに恨まれなくてはならないことにはならなかったかもしれない。
「わかった!わかったって!!俺が悪かった!スマン。ちゃんと直しに行くよ。それでいいか?」
目の前で暴れる狐と、皆の犯罪者を見るような視線に耐えられず、深々と頭を下げた。
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