拾仇


『ふーんだ。どこにでもいる稲荷神だろ。ボク達より低級なことに変わりないじゃーん』


『そないなことはない!!お前らと同じ神様や』


『神様は神様でも、固有の名も与えられてない稲荷神その1でしかないでしょ?』


『うっ……うう』


 どうやら言い負けたらしい狐は、また泣き出してしまう。


『コレ、地陸。その辺にしてやれ』

「そうよ、ちーくん。また泣いちゃったでしょ?」


 天空猫神と尊さんが地陸猫神を戒めるが、本人はまったく懲りた様子もなく、クスクス笑いながら狐の側を離れる。


「なぁ?なんで怒ってるんだ?とりあえず話してくれよ?」


 俺はもう一度会話を試みる。

 出来るだけ優しく声をかける。


『…………』


 だが、此方を恨めしそうに見るばかりでやはり口を開かない。俺とは口をききたくないといった素振りだ。


「なぁ?どういうことなんだ?」


 俺は軽く両手を挙げ、お手上げという意を示すと、肩を竦めて質問の矛先を尊さん達に変える。


『そやつは稲荷大名神。お狐様とか言われる狐の神様じゃ』


 事の成り行きを眺めていた天空猫神がやれやれという顔をして説明をかってでる。


『まぁ、我等のように神社で祀られてたわけではなく、その辺の小さな社におったようじゃが……』


 地陸猫神が言うのは止めたくせに、天空猫神の言い回しも中々棘がある。さり気なく自分達のほうが格上だと言い含めている。

 あ、ほら、狐の奴が明らかにまた肩を落とした。


「でも、なんでそんな奴が俺に憑いてんだよ??神様なことには違いないんだろ?」


『…………』


「そうですね、紛れもなく神様なことに違いありません……稲荷大明神様、何故拓真さんに憑いていらっしゃるのですか?」


 一向に先に進まないやり取りを見兼ねた尊さんが恭しくそう訊ねる。

 様付けで呼ばれたことに気を良くしたのか、狐は尊さんに近づこうとして――――天空猫神の気安く近づくなという無言の圧にを受けて断念した。

 仕方なく、近くを浮いていた地陸猫神を呼び寄せ、耳打ちする。

 どうやら、最後の抵抗というつもりなのか、頑として俺を無視するつもりらしい。

 だが、地陸猫神はあっさりと、


『なんかねー、社が壊されちゃったみたいだよー。暁覚えない?』


 全員に聞こえるようにそう言う。

 狐はまたしても目論見を反故にされ、大きな口と細い目を驚きでぽかんと開いた。

 ――――――って、


「え……?」


 地陸猫神の言葉に何故か皆の冷たい視線が集中していた。


「ちょっ、そんなコトしたことなっ……」

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