世界のために

 白でもなく、黒でもない。明るいわけでも暗いわけでもないし、そもそもそういう概念が存在しない。そういうのを超越している感じ。


 そんな空間に、彼女が居た。綺麗な白髪だった。振り返ったその瞳を見ると、美しい碧眼。

「……何を、したいんですか?」

 私はその雰囲気を知っていた。

「あなたが、神の能力なの?」

「はい。……そういう認識で結構です。」

 改めて見ると、灯と似ている。見た目だけでなく、その根底にある雰囲気のような何かが。

「それで、何をしたいんですか?」

 ぶっきらぼうにそう言われても、意味がわからない。しばらく沈黙が続くが、呆れたようなため息をついてから彼女は言う。

「あなたの祈りは通じたということです。条件が揃ったため、あなたは此処に来ることができました。……あなたは、私に願いを叶えられる権利があります。」

 私の願い……か。

「先に言っておくと、朝倉輝の計画を止めさせる、というのはナシです。といっても……『不可能』とは言っていない、とだけ。」

「できるの?」

「私が直接朝倉灯を止めるのは不可能です。というのも、彼女の魂から半径1.37メートルは、既に私が操作できない空間になっているので。」

「……それって……」

「どういうことか、ですか?説明したところで理解してもらえるか分かりませんが、大雑把に言うと、その領域は既にこの世界ではないということです。あなたがここにやってくる直前くらいに世界の崩壊は始まりました。あなたができるのは、今すぐ朝倉灯の人格を呼び起こして崩壊を止めさせることです。……やりますか?」

 止められる、らしい。まだ間に合うということか。多分このチャンスが最後なんだろう。そんなの答えは一つだ。Noを選ぶ理由なんてない。

「私は何をしたらいいの?」

「……まず、朝倉灯が持っているのは神の力です。これに対抗できるのは、当然神の力だけ。なんの力もない人間が朝倉灯に接触しようとしても一瞬でその体は蒸発してしまうでしょう。私の力の全てをあなたに渡します。」

「……全て?」

「はい。でないと、対抗することは不可能です。」

「よく分からないんだけど、全て渡しちゃっていいものなの?」

「さあ。私という存在が消えることは確実でしょう。」

「……?」

「私はもう決めました。満足したんです。この深淵に居ながら、これだけ多くの人と会うことができた。はっきり言って異常です。私がこんなに感情を持ってしまったのも、そのせいです。どうせ消えてしまうなら、こうして役に立つほうがいいというものでしょう?」

 灯の気持ちが分かった気がした。この子を消したくなくなる気持ちが分かった気がした。

 でも、私は彼女の気持ちを尊重しよう。だからこそ、灯も彼女も救われる世界を作るのだ。

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