街の中央には大きな城があった。中世ヨーロッパ風の石のレンガで作られた城だ。幾つもの尖塔が金色に輝く空に向かって聳え立っている。

 街の入口と同じように、その城門には門番の姿も出入りする人々の姿もない。仮にいたとしても私たちのことを認知できないだろうから変わらないんだが。

「……入るの?」

 不安そうに灯が聞いてくる。

「大丈夫、私の手をちゃんと握ってて。」

 何が大丈夫なんだか。でも、灯を手を繋いでいたら根拠のない安心感が湧いてくる。やっぱり、一人でないというそれだけで安心できるものなんだな。


 やはり、というか何というか、人が居ない。見た目だけの無人の城だ。

 城の中の通路は無駄に天井が高い。否、通路自体が広いのだ。赤いカーペット、金色の装飾が施された大理石の壁。そんな廊下の両脇に部屋が並んでいる。

 廊下の突き当りには広い部屋があった。無駄に広く、無駄に天井が高い。やたらと豪華なシャンデリアは見ているとチカチカする。アーチ状の天井は何かの絵が描かれているみたいだが、神話とかそっち系の知識が少ない私には人がたくさん描かれている絵、としか読み取れない。意味が分からないし見上げていると首が疲れる。

 広間から右に伸びていた道を進むと螺旋階段を見つけた。とりあえず一番上まで登ってみよう。RPGだってボスは一番上の部屋に居るものだ。


 また世界観が変わった。螺旋階段の一番上まで上がると、現代風な廊下に出た。無駄に天井が高いわけでもなく、無駄に広いわけでもない。一般的な一軒家の廊下を城のサイズに合わせてめちゃくちゃに長くしたもの、という感じだ。窓のない無人の廊下に一定間隔で並んでいる電灯で一種のホラー映画みたいな雰囲気を感じてしまう。


 廊下の一番奥に着いた。どういう構造になっているんだか知らないが、唯一のドアだし廊下も特に分かれ道があるわけでも右に左に曲がりくねっているわけでもない。

 本当にここに入るのか、と聞こえてきそうな顔でこっちを見ている灯を横目に、私はドアを開けた。

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