天上の邦、人智を越えた場所

ここは……?

 ここはどこだろう。妙な浮遊感がする。状況を把握しようとして目を凝らすが、どうしても一定以上は知覚器官がはっきりしてくれない。

 周りを確認してみる。どうもはっきり視認できないし、薄暗いということしか分からない。ただ、そんな中で唯一はっきり視認できるものがあった。

あかり!」

 気を失っている様子の彼女を見て思い出した。

 ルキフェルのところの研究員たちに麻酔を打たれてからはよく覚えていないが、私の肉体は神の器として灯の魂を入れられた……はずだ。だとしたらおかしい。私はこうして意識があるはずがない。

 ……分からない。なんだか集中できない。ふわふわした感じだ。

 とりあえず、灯を起こそう。

 私は灯の体に触れた。


 明転。


 灯の体に触れた瞬間に私の意識は急に鮮明になる。浮遊感が消え、体の重さを思い出した。さっきまでぼんやりしていた周りの景色もはっきり視認できる。

 意味が分からない。


 分からないことを考えていても仕方がない、試験でも分からない問題はとりあえず飛ばして分かる問題から解いていくものだ。

 試験で重要なこと。それは、問題文の状況を整理すること。即ち、自分が置かれた状況を理解するのが先だ。

 薄暗い空間。どうやら洞窟の中みたいだ。洞窟の奥なら本当に真っ暗で何も見えないだろうが、僥倖なことに洞窟の口がすぐそこにある。そこから差し込んでいる光のおかげで薄暗い程度で済んでいる。

 外に出てみよう。


 灯を負ぶって外に出てみた。外の光が眩しい。でも、すぐに目が慣れてきた。

 光の正体は太陽じゃなかった。空全体が金色に輝いていて、そのおかげで明るいのだ。さっきから察していたが、ここは地球じゃないらしい。でも、周りを見渡すと見知っているような木々が青々と生い茂っている。

 考えていたってしようがないし、動かないことには何も始まらない。まっすぐ進んでいればどこかに出られるんだろうか。とりあえず、崖でもないみたいだし洞窟から直線で進んでみよう。

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