実験は科学の基礎だよ

統一暦499年11月29日午後7時26分

 聡兎は勢いよく通路に飛び出した。人気のない通路。特別何かがあるわけでもないのに人が常駐している方がおかしい。キラメキミライには聡兎、リナ、そして聡兎の知らない犯人しか居ない。

 飛び出した勢いで痛めている肩を壁にぶつける。しかし、そんなことは気にせず聡兎は走る。

 犯人の目的は何なのか。八咫鏡を所持している、そしてリナにあんなことをした。”理解”している人間なんだろう。だとしたら、リナを神にしようとしているのか?それなら、犯人は安全な位置からあれを観察しているはずだ。

 可能性は絞られた。


統一暦499年11月29日午後7時32分

 アカリの案内した最速ルートは本当に速かった。ただ、安全性という点は紅音の様子から察することができるだろう。路地裏を駆け抜け、電車はコンマ一秒の乗り換えを繰り返し、廃墟のような地下道を潜り抜けた。

 ようやく見えたキラメキミライ。聡兎さんはあそこに居る。しかし、走る紅音の目の前でその異常は起きた。

 キラメキミライの天井から正体不明の光線が飛び出したのだ。その直後、紅音の足元がドン、と大きく揺れる。

 紅音は青ざめ、立ち止まってしまう。

『……ご安心ください。赤坂聡兎さんはまだ生存しています。』

 紅音は再び走り出す。


統一暦499年11月29日午後7時30分

 金属を拳で叩いた鈍い音が響く。

『開けろ。お前がそこに居るのは分かってる。』

 キラメキミライ地下、一時保管とは名ばかりで置きっぱなしにされている無数のコンテナの中の一つ。朝倉輝は携帯パソコンのモニター越しにリナを観察していた。

「……ふふ、さすが聡兎くんだ。早いな。」


統一暦499年11月29日午後7時31分

 聡兎が徒歩圏内で丈夫な場所ということで真っ先に考えたのがキラメキミライ地下だった。ここはキラメキミライの中でも最も丈夫に設計されている。周りには広い駐車場があり、適当な建物がないためここしか考えられなかったのだ。

 そして聡兎はシステムにハックして搬出入記録を手に入れ、つい昨日コンテナが搬入されていることを突き止めた。

「なるほど、有能な若者だ。……妻を思い出す。」

「さっさとあれを止めろ!」

「止めろ?私に言わないでくれ。あれを止めることができるのは神だけだ。……まあ、理論上はリナの人格が完全に瓦解するのと同時に止まるんだが。どれだけ誤差が発生しようが彼女が神になることはない。」

「……失敗する前提だったというのか?」

「うん。八咫鏡と言えども物理次元と神の能力の存在する最深部を繋ぐという超高負荷には長く耐えることはできない。本来は一人を神にするだけのエネルギーを供給した時点で壊れるようにできている。だから苑仁くんにエネルギーを供給した時点で疲弊している八咫鏡はどう頑張ってもリナを神にすることはできない。」

「それが分かっていたらなぜこんなことを!」

「実験だよ。……灯という貴重な試料を台無しにしないために実験を重ねておきたいんだ。」

「そんなの理由になるわけないだろ!」

「まあそんなに怒るな。この興味深い現象を見ることができる貴重な機会だ。苑仁くんのときには見られなかった信仰による拘束現象まで起きている。……ほら、始まる。」


統一暦499年11月29日午後7時32分

 リナは正常な思考を保とうと必死だった。しかし体は動いてくれないし思考回路の動作も途切れ途切れになってきた。

「……あ、」

 リナの中で何かが臨界に達したようだった。

「縺ゅ↑縺溘r螟ア縺?◆縺上↑縺九▲縺溘?ゅ%繧薙↑縺ョ譛帙s縺ァ縺ェ縺九▲縺溘?ゅ%繧薙↑荳也阜縲∵カ医∴縺溘▲縺ヲ縺?>縲」

 巨大なエネルギーが光柱となってリナの体から溢れ出す。

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