喪いたくないもの
統一暦499年11月29日午後7時26分
紅音は暗く寒い冬の道を走っていた。携帯端末を操作してあるアプリケーションを立ち上げる。名付けて、聡兎さん完全補足装置。紅音のストーカーじみた第二人格とでも言うべき部分が作り上げたお手製アプリ。それによると、聡兎の反応はキラメキミライにあった。
最近の聡兎は位置情報を特定できるものを持ち歩かないことも増えて確実性は弱くなってきていたのだが、まだ気づかれていないので聡兎が普通に携帯端末を持ち歩いていればちゃんと位置情報を特定できる。
紅音は怖かった。あの時みたいに……よくわからない天使とか言うのに記憶を奪われた時みたいに。あの時は大丈夫だったが、今度も大丈夫という保証はない。
聡兎はお人好しなのだ。変態で、天才で、でも変なところで鈍感で馬鹿で。本当は二度と彼と離れたくない。でも、そんなこと口に出したくもない。とにかく、紅音は聡兎のことが心配だった。
ピコン、と紅音の携帯端末が音を立てる。ACARIが勝手に起動した。
「あかりん……?」
『キラメキミライに向かっているんですね?』
紅音は零れかけていた涙をグイっと袖で拭った。
『私が最速ルートを案内します。』
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