天孫再臨

統一暦10月31日午後5時

 苑仁が立っているのは新東京国際空港の開発中のエリアだった。

 広い空港である。しかも日は落ちており、周囲は既に闇に包まれている。建設中の滑走路の真ん中に立つ人間には誰も気づかない。

「儀式を……始めるか。」

 白銀の刀を携え、首から瑪瑙の勾玉をぶら下げた苑仁は大きな銅鏡を覗きながら呟いた。


統一暦499年10月31日午後5時10分

「苑仁おおぉぉぉぉぉおおお!!」

 バイクの後ろにアカリを乗せた聡兎が文字通り「飛んで」きた。

「……。また僕の邪魔をするのか。」

「お前は間違ってる!何をしたいのかは知らないがそれは絶対に間違ってる!」

「お前は僕のことを分かっていない。……お前にはわからないだろう。天皇という輝かしい過去を持っていながら落ちぶれた現状を憂うことを知らない今の皇族を。僕が一族をここまで立て直しても、過去の栄光を取り戻そうなんて1ミリも考えず現状に甘えてばかりいる懶惰らんだな祖父たちを。」

 苑仁は振り返らないまま続ける。

「僕は力が欲しいんだ。天皇が天皇たり得るための現人神の力が。」

 苑仁の持つ剣は白く輝き始めていた。勾玉は紅い光を放っていた。銅鏡の向こうに繋がっている物理次元を超えた世界からは金色のエネルギーが溢れており、苑仁の体に注ぎ込まれている。

「お前は僕が神として降臨するのに邪魔をするんだろう。だから、僕の手で黄泉に送ってやる。」

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